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能傍タルツの実話怪談コレクションその十三「現代筑前奇談考」-1月--『茸』

筆者の家の近くにある
公園にランニングに来ていた
内装屋さんから聞いた話。

自分は今、
福岡市M区Y団地の
経年劣化による取り壊し
再建工事に入っとんですよ。

そうね、
言うたら悪いバッテン、
抜きの彫り物入っとったり
指が何本か足りんような
年寄りばっかり。
あと、生活保護受けとる人とかね。
金持ちは住まんですよ、あんな団地。

その中の
十九号棟203室。

そこの室内で作業をしていると
水屋あたりに
関係者でもないのに
若い寂しそうな表情の女性が
しょっちゅう立っとるとね。

こっちも忙しいから
「そんな所にいたら邪魔よ!
危ないから出てって!」
と、大声出すとすっ。
と、消えてしまうと。

こっちも一人親方だから
あんまり変な噂広めて
出入り禁止になるわけには
いかんでしょうが?

だから
ずっと黙っとったバッテン
ある日昼休みに
何の気なしに口にしたら
配管屋さんも
設備屋さんも
鳶職さんも
足場屋さんも
ガードマンさんも
俺も見た俺も見た!って(笑)

うん、多分
監督も所長も見とるやろうね。
絶対口には出せんけどね。

霊感?
いやいや、そんなん無くても
ありゃ誰でも見れますよ。
今週いっぱいならまだ見れますよ。
行ってみたらいい。

長い黒髪で
顔はよう見えんかったけど
若い感じで白い服着とったかな?
何となく
透き通ったようなんが
じーっと立っとるとです。
 
いや、怖くも何とも無かよ。
きのこみたいなもんよ。
ちょっと斜めに立っとってね。

一週間あと
筆者は現場に出向いたが
もう、取り壊されたあとで
入口のガードマンさんに聞いてみたが
わたしには、
ちょっとわかりませんねえ
との返事だった。

と、この話を
筆者が主宰する怪談イベントにて話したら
常連のお客さんから

「あれ、2○号棟の○○室じゃ無いんですか?
老人が一家心中したところ。」

「え!他にもあるんですか?」

「ええ、あの辺りで有名ですよ。
だって変だと思いません?
全部古い団地なのに
疎らに壊して立て替えてるでしょ?」

「ナニが出る所だけ壊してるとか?」

「そういう事です」

「それにしてもよくご存知でしたね~!」

「いやいや、あそこの入口に立っている
 ガードマンが
 現場近くの居酒屋で広めてるらしい(笑)」

(終わり)

 
 

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