ゲートを作れ
パイロットにとって一番忙しい仕事のフェーズは最終進入中以外にもあります。
それは出発前です。意外にも、乗り込んでお客様を案内するまでにやることは沢山あります。
飛行機のコンピューターに経路や推力の設定を入力したり、CAさん達にブリーフィングをしたり、セキュリティのチェックで外部点検をし、機内では全ての開閉可能なストレージの中を見たり、搭載燃料の確認等色々とあります。
航空法第七十三条の二ですね。
「機長は、国土交通省令で定めるところにより、航空機が航行に支障がないことその他運航に必要な準備が整つていることを確認した後でなければ、航空機を出発させてはならない。」
という訓練生が呪文や写経のように唱えたり、書いて丸暗記させられるやつです。一応復讐で、
国土交通省令=航空法施行規則 第百六十四条十四項の事ですよね
第百六十四条十四項
(出発前の確認)
第百六十四条の十五 法第七十三条の二の規定により機長が確認しなければならない事項は、次に掲げるものとする。
一 当該航空機及びこれに装備すべきものの整備状況
二 離陸重量、着陸重量、重心位置及び重量分布
三 法第九十九条第一項の規定により国土交通大臣が提供する情報(以下「航空情報」という。)
四 当該航行に必要な気象情報
五 燃料及び滑油の搭載量及びその品質
六 積載物の安全性
2 機長は、前項第一号に掲げる事項を確認する場合において、航空日誌その他の整備に関する記録の点検、航空機の外部点検及び発動機の地上試運転その他航空機の作動点検を行わなければならない
はい。お疲れ様でした。ここまでが暗唱項目です。
そして、やっとのことでコックピットのドアを閉めて、いざお客様のご案内となるのですが、そこからがスーパー邪魔されタイムなのです。
無線だけでも、グランドクルー、会社無線、管制官、そしてCAさんからのインターフォン、自分がフライト前のキャプテンとのブリーフィングをしている最中やグランドクルーと喋っているのに会社から呼ばれたり、そうこうしてるとCAさんからキャビンでメンテナンス発生したので整備さん呼んでください。とか。
しかも自分が操縦担当しているときに限ってそういうことが重なります。
そして何かが起きる時はマーフィーの法則に則り全部重なってくるものです。
ある日僕が多くの整備と多くの無線を抱え込んで、パンクしそうになってる時、隣の機長がニヤニヤして
「みんなに邪魔されるだろ?それが指揮権を持つ者が見る景色だから。優先順位をつけながら次々決めていかなければ間に合わない。孤独だろ。」
というのです。「とりあえず上空で。いまはコレとコレはこっちに任せてお前はフライトに集中」と言ってサラッとその場を片づけて定刻に出発。
上空で巡航に入ってからおっしゃるには、
「情報や、他部署からのお伺いが集まるのは当たり前。
邪魔されるのが仕事。
そこで焦ったり、呼んできた人に当たったりするのは勿論ダメだけど、お前みたいにぼーっと立ち止まるのもだめ。どんどん決めていかないと。
皆お前の判断と指示を待ってるんだから。そして判断に法的な根拠が必要だから全部の動作に根拠はいるな。
あと、運航に関する事の抜けがあっては絶対にならない。だから必ずゲートを作れ。プッシュバック前にはこの3点、滑走路入る前にはチェックリスト、ベルトサイン、クリアランス、とか、自分なりのな。」
「上手い人はなぜか絶対抜けが無い。それはその人なりのミスをしないルーティーンが完成されているから。これはパイロットだけでなくどこの業界でも同じ。自分なりの絶対に安全が担保されるルールを完成させること。それが機長になるまでの課題だな。みんな共通の。」
という感銘を受けた、と、3年前のノートに書いてあったので書いてみました。
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