【対談】ドミニク・チェン×MELT 「世界の欺瞞ネイティブ世代」のコントとは?
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―SFの考え方って、お笑いに適してるんじゃないか
平田:僕と宇城はドミニクゼミ[発酵メディア研究ゼミ]の卒業生なんですよね。在学中は大変お世話になって、メディアアートだったり、その中で重要になってくるSFの考え方だったりを僕らは学んでいた。
ドミニク:僕自身劇作家でもなんでもないし、演劇の専門家ではないので、物語の作り方を教えていたわけではないんですが、僕の演習で「SFの発想力を使って自分達自身の近未来のストーリーを想像してみる」という課題をやりましたね。
平田:はい。
ドミニク:「SF的な発想で何かを考える」という方法は、今ではかなりビジネスの場などでも取り入れられて、「Sci-Fiプロトタイピング」と言って、企業向けワークショップなんかもやられています。
ドミニク:演習では、お二人が在学中に取り組んだ、「ユートピア(理想郷)な未来を考える」「ディストピア(反理想郷)な未来を考える」という課題を今でもやっているんです。
宇城:ああ、そうなんですか。
ドミニク:これをやってみると、やっぱりディストピアの方が面白くなるんですよね。ユートピアだと、めでたしめでたしで終わって、「で?」みたいな感じになってしまうんだけど、ディストピアだと考えさせられるというか、「そっか、そういう視点からの悲劇ってのもあるか」となる。そこから考えていくと逆に笑いの要素みたいなものに帰結するという、ちょっと矛盾したようなエフェクトが面白くて。
宇城:そうですね。
ドミニク:二人は小説を書いた代でしたっけ? 掌編小説。
平田:書きました。400字以内の、すごく少ないマス目で終わらせるという。
ドミニク:そんな感じで。だから、僕は何も教えてなくて無茶振りしてるだけなんですけど、お二人がね、やっぱり在学時代からプロとして、色々演じて来られてるので、キラリと光る掌編小説を出してきて。
平田:うれしい~。
ドミニク:うん、内容覚えてないけど(笑)。
平田:あはは。
ドミニク:光ってたことだけ覚えてる。
平田:ああよかった(笑)。
ドミニク:それで、その演習の中で二人が発奮して映像を作って、それをコンペに出して、ということもあって僕のゼミにね、来てくださって。
平田:そうですね。僕が唯一撮った映画が、宇城が脚本で、僕が監督なんですけど、それがまさにその授業がきっかけで生まれたアイデアを映画にしてみたもので。
ドミニク:それはすごく嬉しかったですね。僕は何もしてないけど。しつこいね(笑)。
宇城:でも、たしかにその時にしたSFの思考法でお話を作るという体験には今でも影響を受けています。「SFの思考法」というのがどういうことかというと、現実を元にしてちょっとだけ何かを変えるんですよね。「もしも人間が光合成できたら」みたいに想像していく。簡単にいうと『ドラえもん』の秘密道具みたいなことかと思っていますけど。
ドミニク:うんうん。
宇城:その分野で特に影響を受けた『スペキュラティヴ・デザイン』という本を持ってきました。
ドミニク:授業でもよく紹介している本ですね。
宇城:「スペキュラティブ」って「思索的な」「投機的な」という意味で……、「スペキュラティブ・デザイン」や「デザイン・フィクション」という方法論は、乱暴にいうと「考えさせられるなあ」というモノやストーリーを作るよという感じだと思うんですが、僕はこれで卒論や小説を書いたりして、ガチガチにSFをやっていたんですけど、そうしているうちにだんだんこれは、真面目なメッセージとか、あるいは「SF」っていうジャンル限定的なものでもなくて、むしろお笑いに適しているんじゃないかな、と思って。『眠る島』のラストのコントでも、死んだ人間同士が、もしも若返って再会したらどうなるか、みたいな。
ドミニク:面白かったです。
宇城:それで死後の待合所という、アネクドートに出てくるシチュエーションを拝借して、そこにキャラクターを放り込むということをしてみたんですが、そういう異世界に放り込む発想を教わったというか、勝手に魔改造したという感じがあります。
―「役に立つもの中心主義」に対して風刺や演劇がある
ドミニク:そういうデザインっていうものを僕自身、教えたいと思ったっていうことと、お二人がそれを吸収してくださったってことには、ある共通の問題意識があって。
宇城:はい。
ドミニク:やっぱり、デザインとかエンジニアリングとかそれこそ、僕の肩書きになっている情報学とかっていうと、なんだかこう、問題を解決する、問題があったら解決して、「問題解決でビジネスチャンス」みたいなイメージがあって、それは劇中ラストの、”地獄でもなく天国でもなく港区”みたいな、ああいう世界に繋がっている。
宇城:たしかにそうですね。
ドミニク:って、私今すごく乱暴な話を展開しているんですけど(笑)。
宇城:(笑)
ドミニク:でもそれって、線形なナラティブ(物語)なんですよね。どうやってもね。
宇城:はい。
ドミニク:そう、だから「問題解決していけば世界がより良くなる」という世界観が20世紀を通して近代産業社会では信じられていて、ところがそれが失効している、っていうところからスタートしている世代というのが、ギリギリミレニアル世代の僕あたりで。みなさんの、今だとZ世代とかって言われていますけど、さらになんて言うかな、世界の矛盾みたいなものを……、世界の矛盾ネイティブっていうか(笑)。
平田:ははは。
ドミニク:世界の欺瞞ネイティブなんじゃないかなっていう。
平田:世界の欺瞞ネイティブっていいですね(笑)。
ドミニク:僕は今41歳なんですけど、本当にインターネットというものが出てきた時とか、インターネットによって知の民主化が起こるだとか、今までテレビ局や新聞が独占していた情報へのアクセスが民主的に分配されてより平等でフェアな時代が来るんだと思っていたら……、ネットバブルがはじけて、GAFAがほとんど情報の流れを整理し、web3.0とか、ビットコインとかね、技術的にはとても面白いのに、そこに投機的な動きがすごく集まってしまっていて。これはすでにいろんな人が指摘していることだけど、せっかくいい技術があるのに、そこに「問題解決&メイクマネー」なナラティブがすごく、(豊かさを)刈り取っちゃうんだよね。
平田・宇城:うんうん。
ドミニク:そういったものに対してじゃあ僕たち個々人はどうすればいいのかって考えた時に、一つの……、「答え」じゃないんだよね、それも。答えって言っちゃうと解決になってしまうから。答えじゃなくて、我々にできるアクションの一つとして、風刺とか笑いとか演劇とか、すぐには役に立たないものがある。
宇城:そうですね。
平田:いや本当に、本当にすぐには役に立たないものなんですよ。びっくりしちゃいます。
ドミニク:(笑)
平田:大学を卒業したての若者が、「起業するぞ!」とか言って、何百万の企画にチャレンジ、だったらわかるじゃないですか、その先が。でも演劇に何百万かけるというのは、わからないですよ(笑)。すぐに役に立つものじゃない上に、観る人も限られるし、時間と場所に拘束されるし……。
ドミニク:うん。
平田:でも、だからこそ意味が生まれるといいなということを、現実的な折り合いの中でやればやるほど感じてくるというのは、すごくありますね。
宇城:世界の欺瞞ネイティブということで言うと、オープニングの一連の暗くて不可解なシーン、あれは、あまりにテイストがコメディらしくなくて、最初「コントって聞いてたのに、なんだ?」みたいに思われたと思うんですが……、あれは僕が最初、平田に「日本の矛盾をかっこよく書いてくれ」って言われて(笑)。「コントを書いているんだが」と思いつつ、書いたというもので。
平田:私の責任です。
ドミニク:それは、どうしてそういうオーダーをしたんですか?
平田:そうですね、なんというか……。初めにこのコントをやるときに、生演奏があって、そこになにか別の世界が立ち上がるという体験とともに、すべてを始めたかったんですよね。怖さとか、暗さとか、何かわからないものに手を伸ばし始める瞬間が、すごくこう、生だからこそ生まれるスリルなのかなと感じていて。今回『眠る島』というタイトルを宇城が考えたときに、まず異界っていうものを最初に提示してから、それを全部フリにして笑いにしていくっていう、一番かっこいいことをフリにして、一番馬鹿馬鹿しいことがやりたいっていうことを考えていました。
ドミニク:なるほどなるほど。結構なんか、風刺というのが全体の中でありましたね。キングコング西野さんとか(笑)。
平田:絶対いいこと言うタイミングで、なんか良さげだけど、なんか引っかかるみたいな(笑)。
ドミニク:そうそう、そこで異界から現実に引き戻されて、一番最後のコントみたいに、「この現実が異界なのやも知れぬ」みたいな感じを受けたというか。なんか魑魅魍魎が流れ出てくるっていうところが複式夢幻能っぽくもあり。
ドミニク:最初の、怪我をしてゼイゼイ言って入ってきた人の隣でまったく文脈にマッチしないというか、噛み合わないことをずっと喋っている人たちとか。あのズレみたいなものも、その構造自体が今のSNSっぽさなのかな、なんてことも勝手に連想したりなんかしていて。なんかこう、二人の怒りというか、笑いながらも、まあ怒りって言葉は適切じゃないのかも知れないけど……。
平田:いや、そうですね。そういうことなのかも。でも僕の方が怒りが強いね。宇城より。
宇城:そうだね。
ドミニク:ははは。
―メタバース×能×コントを作ろう
ドミニク:その上でお二人に聞きたいのですが、対面で演劇を実演するっていうのって、最近増えてきてるんですか? その、コロナ禍以降も。
宇城:あ、めちゃめちゃ増えていますね。
平田:もうそうですね、演劇界自体はもとに戻ろうということで動いていますが、ずっとリスクに晒されて、今でも全公演中止なんかが隣合わせっていう状況です。
ドミニク:ああ、そうなんですね。その緊張感の中で。
平田・宇城:そうですね。
ドミニク:そのね、卒業したと同時にコロナ禍がやってきてみたいな。結構、苦難の卒業からの旗揚げ。
平田:そうですね、このタイミングで演劇を始めるというのは意味がわからないと思います。
ドミニク:うんうん。今回、音がね、すごくよかったって感じて。劇場に入った瞬間から。
平田:そうなんです。
ドミニク:生音のね、ギターとドラムの二人と、演者のみなさんの声もすごく通るし。やっぱり僕、演劇自体はほんとにど素人なので、そんなに回数を重ねてるわけじゃないんですけど、つい先週ね、二日連続で能を見にいくっていうのがあって。
平田:はいはい。
ドミニク:静岡の三保松原。この間、清水地区が災害に遭って大変なところで、四十年間三保松原で『羽衣』をやっているっていうのに行って。
宇城:おお。
ドミニク:それで、浜辺の近くのね、会場で。
宇城:まさに羽衣伝説の。
ドミニク:そうそう。野外で薪能というのがあって、それを夜の7時くらいかな、観能したりして。翌日、国立能楽堂で『和田酒盛』っていって、400年くらい昔なのかな、織田信長が、本能寺の変の前夜に観てすごく機嫌を直したっていうものなんだけど。
宇城:機嫌を直したけど、本能寺の変で焼かれた。
ドミニク:そうそうそう(笑)。
宇城:なるほど(笑)。
ドミニク:ちょっと悠人さん好きの設定ですね。
宇城:そうですね、今度書きます。
ドミニク:そうそう。それを見ていて、『眠る島』も舞台構成がね、囃し方とか、演者の方々も能楽師なのか狂言師のみなさんなのかっていう、能らしさが。
宇城:『殺生石』の台詞もありました。
ドミニク:そうそう、殺生石ね。殺生石きたーっとか思っていたんですけど。
ドミニク:僕は安田登さんというね、能の師匠のもとで5年舞台の練習をしていて、今年じつはこっそりデビューしまして。
平田・宇城:ええ、おめでとうございます。
ドミニク:まったく公開しなかったんで実質デビューしてないんですが(笑)。
平田・宇城:(笑)
ドミニク:zoomでね、能の稽古を毎週やっているんですけど、すごくストレスフルなんですよ。声が合わないんですよね。
宇城:ああ。
ドミニク:だから、先生が能の詞を謡った後に、「はいじゃあみなさんどうぞ」ってやっているんだけど、6人くらいでやっていると、3秒くらいお互いずれて聴こえてくるから、まったく練習にならんと。だから半分くらい雑談しているんですけど。
平田:素敵。
ドミニク:そろそろ対面でもできるやも、と思いつつ、でもちょっと微妙みたいなので、苦肉の策でVR能を。
平田・宇城:おお!
ドミニク:もうちょっと今っぽくいうと「メタバース能」っていうのを。
宇城:メタバース能!
ドミニク:能舞台を必死でモデリングして。
平田:せっせせっせとブロックを積んで。
ドミニク:iPhone13だと、空間をスキャンできるんです。
平田:あ、なるほど!
宇城:ガチの能舞台を。
ドミニク:僕1人で能楽堂に行って自撮り棒みたいなものでスキャンしてね。それをモデリングして、ワールドにアップして……。Clusterっていうプラットフォームを使っているんですけど、そこでお稽古したりして。じゃあちょっとやってみるか、って言って15人ぐらい内々の関係者とか友達を呼んで、VR内で実演する。だけど、それぞれの空間で演者が身体を動かしているみたいなことをやっていたんです。
宇城:おお。
ドミニク:OculusっていうスタンドアロンのHMD(ヘッドマウントディスプレイ)なんだけど、それをつけていると、手の動きと位置を感知するんで、すり足で歩くと、結構アバターもすり足っぽく動くという。
平田・宇城:へえ。
ドミニク:ってやってみて……、でもぶっちゃけ、音が全然ダメ。
平田:ああ。
ドミニク:かなり低い声を出したりするので、それが全然マイクが伝えられなくて。まあ、まだまだ微妙ではあるんだけど、それを突き詰めていくと、なにか不思議なものができるんじゃなかろうかと考えています。
宇城:なんだか、メタバース能舞台でコントやりたいなと思ったんですけど。
ドミニク:おお!
宇城:現実の舞台って、平田の挨拶にも書いていましたけど、やっぱり、参加者の時間と場所を拘束しているので。
ドミニク:あ、あれいいですね、演劇はネッシーとオーロラと同じって。
宇城:はい。僕は、能を観たら、いくらフリが長くてもいいじゃんと思ってしまうんですよ。コントに対して、フリの部分、つまり、笑いになってない部分が。
平田:能では演者が出てくるのに3分くらいかかったりするじゃないですか、平気で。M1の予選ならとっくに制限時間が終わってしまうところを、平気で3分かかってようやく始まったかみたいなものが、能や伝統芸能の時間感覚なんだということを体感すると、もっともっと現代的なものとか笑いなんかでもありなんじゃないかと。
ドミニク:ああ、面白い。
平田:そういう挑戦を日々ちょっとずつやっている感じなんです。
ドミニク:どこまで伸ばせるのか。
平田:どこまで伸ばすことができて、どこまでいったら飽きて寝ちゃうかっていう。能もね、ある種寝るための演劇というか、よく寝られる演劇の一つで。
ドミニク:そうそうそう(笑)。
宇城:もちろん、お客さんを飽きさせずに内容を伝えようとは思っているんですけど、時間と場所をともにしていないYouTubeなんかだと、この長さで演劇らしいフリをして、一つ一つの動作もたっぷりやって、集中を保ちながら笑いに変えるみたいなのはなかなか難しいなと思っていて。
ドミニク:メタバースを使うのはね、できますよ。ちょっと今度打ち合わせしません?
平田:やった~!メタバースコントだ!
宇城:やった!
―おわりに
今回は、SFの思考法や伝統芸能の時間感覚に触れながら、コントの可能性についてお話することができました。
ドミニク・チェン氏命名「世界の欺瞞ネイティブ世代」によるコント演劇『眠る島』ぜひ本編をご覧ください。
▼映像版『眠る島』(¥2,500 / 期間中見放題)のご視聴はこちら
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