シンガポール珍道中7|夕 食
シンガポール珍道中7|夕 食
ドンドン!ドンドン!
彼女が「ドアを開けて!」と言いながら蹴っている。(笑)
開けるとボストンバッグを持って紙袋を幾つも抱えた彼女が入ってきた。
「ワーすごい!これがプレジデンシャルなの!」
「一回泊まりたかったんだ!」
「ゆっくりしたいから色々買ってたらこんなになっちゃった。持って!」
「着替えも持ってきたの! あ~疲れた、、汗だく。」
「あっちにプールがあるから泳ごうよ!」
「はい、スウィムパンツないでしょ、買ってきた。」
まるで、長年連れ添った女房が買い物から帰ってきたようだった。(笑)
部屋のすぐ近くにあったプールの客は私たち二人だけだった。南洋樹と咲き誇る色とりどりの蘭の花に囲まれた南国の日差しの中で彼女は子供のようにはしゃいだ。
部屋に戻るとメッセージランプが点いていた。連絡してほしいという支店長に電話した。
「夕食はラッフルズホテルでと思ってるのですが宜しいでしょうか。」
「ありがとうございます。もちろん結構です。」
「私共は、私と○○と○○の3人でお伺いします。」
「分かりました。私の勝手ですが、友人と食事の約束をしていたのでご一緒させていただいてもいいでしょうか?」
「あっ、そうですか。もちろん是非ご一緒にどうぞ。」
私の勝手なリクエストに少し驚いていたが、もう驚くのは慣れただろうと思った。(笑)
支店長と食事することは彼女にも伝えていた。シャワーを済ませて化粧してドレスに着替えた彼女の思わず息をのむ美しさに私は目を見張った。
当然、支店長らも驚いた。ディナーが始まった。
40年前のコロニアルホテルだったラッフルズホテルの大きなディナールームの天井はとても高く中央がガラス張りのドーム型で、時間帯で食事しながら大きなステージで演じられる民族舞踊などのパフォーマンスを楽しむことができた。私と彼女もパフォーマーに誘われて舞台に上げられてバンブーダンスを踊った。(笑)
想定していなかったドレスアップした美しい女性が一緒に食事することになって、支店長が緊張しているのが分かった。(笑)
「てっきり、ご友人は男性だと勝手に思っていましたが、こんなお美しい方とご一緒できるとは光栄でございます。なあ、○○君。」
「シンガポールに、こんなご友人がおられるとは、、本当に驚きました。」
「僭越ですが、、どのような、、」
よほど驚いたのだろう。癖のある英語で野暮なことを言い出した支店長に彼女が「彼は私のフィアンセです。」と言って私を見て悪戯っぽく微笑んだ。
食べかけた料理を落としそうになった。(笑)
「そうだったんですか!何処で会われたのですか?日本におられたのですか?」役員もいらぬことをほざき始めた。
「昨日会って昨日仲良くなって今フィアンセになったようです。」と私が言うと、役員らはキョトンとして固まった。それを見て彼女が大笑いした。私もつられて笑った。3人は意味が分からないまま愛想笑いした。
夕食の会計はすべて私に勘定するように申し付けていた。私を夜の街へ誘う予定だったであろう3人は拍子抜けして恐縮して丁重な挨拶をして帰っていった。
もう一人の30代の男性が、明日は車で観光案内してくれると紹介されたが、彼は、聞き分けのない二人のおかげで冷や汗を流すことになった。(笑)
二日目のシンガポールの夜も南十字星が光り輝いていた。
次回は輪タクのお話と言いながら、、なかなかたどり着きません。(笑)