シンガポール珍道中9最終回|シンガポールの夕日
そうですか、皆で読んでくれましたか。恋はいいものです。ときめいたり、切なくなったり、恋人のことで頭がいっぱいになって笑ったり泣いたり。人間だから恋をするのです。恋をするから人間なのです。
それが、たとえ悲恋だったとしても、宿命を享受し運命を享受して何十年経っても色褪せない記憶になるような美しい恋をしてください。
久しぶりに皆が揃って、華やかで賑やかな夏になりました。(笑)
読者の皆さんお付き合いいただいてありがとうございます。おかげさまで、とても懐かしく楽しい心の旅路を彼女と歩くことができました。この辺りで「シンガポール珍道中」のままで私のお喋りを終わろうと思います。
留美さん、わあわあ泣かせてあげたいけれど、私も悲しい話が似合わない齢になりました。(笑)
とはいえ、留美さんの言葉が気になる読者もいるかもしれませんから章末として少しだけお話しします。
六日目に私は帰国しました。その後も二人の交際は続きました。シンガポールで会ったり、香港や上海で会ったり、東京で会ったり、お互いの事情が許す限りの交際が続きました。彼女のご両親ともご兄弟とも懇意にしていただき、二人同じ未来が見えるようになっていました。
財閥の美しい令嬢で生を享けた故の宿命だったのか運命だったのか。突然、当時の中華世界の権力者の跡継ぎとの縁談が持ち上がりました。
ある日、彼女は急死しました。
葬儀の後、兄上から小包を渡されました。中にはデートとネームが入った彼女と私の指輪とレターが入っていました。
自筆で、
See you at the Newton Circus in heaven
とだけ書かれていました。
堪えきれず不覚にも涙が零れ落ちインクが滲みました。
シンガポールで最後にあった日、ラッフルズホテルのロングバーでシンガポールスリングを飲みながら、
「この色は美しいシンガポールの夕日の色」
「子供ができたら3人で見に行こうね」
今でも、はっきり彼女の声が聞こえ笑顔が蘇る。
あれから、三人で夕日を見ている夢を何十回見ただろうか。
それ以上はご寛恕ください。(笑)
シンガポール珍道中8 ||