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角川短歌賞2023予選通過:復習

※ 11/3(祝)一部加筆しました

『短歌』2023年11月号で角川短歌賞の選考会の様子を読んだ。

筆者の応募作『淡雪の指揮者』は文字化け等を含む実験作だ。入賞は逃したが、約4ページにわたる講評をいただいて嬉しい。攻めすぎたかと思ったが、選考委員の方々のコメントを見て驚いた。

松平盟子さん「今ひとつ攻め切れないというんでしょうかね」
藪内亮輔さん「単純さを少し感じてしまう」
坂井修一さん「常識的な所で思考停止してしまっているし」

角川『短歌』2023年11月号p82,83,84

なんでも、こういう実験は平成も初期にニューウェーヴと呼ばれる歌人たちによって、もっと鮮やかに実施済みだそうだ。不勉強だった。

無粋を承知で自註すると今回、テーマの一つに「この世界を言葉などの記号で表すことの限界」があった。デジタルが世界を席巻していくのを眺めながら育ち、一方で万葉の時代の言霊思想にも少しだけ親しんだ自分なら、新しい世界観を提示できるのでは?と思ったが、甘かった。

筆者が思いつくようなことは、選考委員の先生方を含めた過去の歌人が、とっくに思いついている。そんな当然のことに改めて気づかされた。その裏づけのように、拙作は難解だとは評されず、スムーズに伝わっている様子だった。

坂井修一さん「これが普通のリアリズムだと思って間違いないと思います」
俵万智さん 「これが今の人たちにとって日常なのかなと思ったのは」

角川『短歌』2023年11月号p83,84

おっしゃる通りで、自分の日常生活から題材を拾い、そんな日常の不確かさを問うような構成にした。

さて、もし受賞を狙って再挑戦するならば、先行研究を調査する必要がありそうだ。しかし受賞作と次席作を読むと、圧倒されて戦意を喪失する。

渡邊新月さんの受賞作には、神様が彼に憑依して歌を詠ませたのでは、と思わせる気迫がある。福山ろかさんの次席作は、生活の中で取りこぼしてしまう一瞬の揺らめきを超人的に掬い上げている。

 腕開けばそこに山河のあるごとく面伏せば血の流るるごとく / 渡邊新月『楚樹』
天井を何度も過ぎてゆく夜の光は昔から変わらない / 福山ろか『眼鏡のふち』

角川『短歌』2023年11月号p58,66

すごいな、敵わないな、と思える人たちが評価されて、清々しい(あと個人的に陰ながら応援していた二人なので嬉しい)。しかし、これは清々しく諦めてしまえるということでもある。

新人賞に応募するのは楽しい。好きな世界を詰め込んだ50首や30首を、編集者あるいは歌人という専門家(短歌史を知り、無数の短歌を読んでこられた方々)に差し出すことができる。ただ受賞を目指すかと言われたら、今のところ戦意喪失気味だ。

ともかく今回せっかく評をいただいたので復習(?)してみたい。

俵さん 「少し理屈が目立つというところもあるんですけれども」
坂井さん「理屈が終わっても、やっぱり抒情しなければ気が済まない、という気持ちを大事にしたいですよね」

角川『短歌』2023年11月号p80,84

言われてみれば理屈に偏って抒情を欠いていた。今回、実験部分が思ったほど新しくなかったようなので、抒情の評価は一層シビアだったろう。ミステリー小説でいえば、そこまでトリックが斬新でもないのに人間ドラマも物足りないようなものだ。

今回、四名から色々な言葉をいただき、大変ありがたいけれど正直どうしたらいいか難しいな、という気もした。そんな中、まずはここから意識してみようと思えたのが次のご指摘だ。

坂井さん「もう少し自分が置かれているところでじっとして深く言ったほうがいい気がしました」

角川『短歌』2023年11月号p83

今回「これは誰の物語でも有り得る」というメッセージのためでもあるが、私性を排して匿名性を押し出した。学校で、理科系のレポートに関して「考察では結果から導かれたことだけを書く。勝手に考えたことは書かない」と指導されたことがあるが、それを短歌に適用してしまったような形だ。思い切って自分の感受性を発揮したほうが、意外に深いところで読者に共感されることもあるかもしれない。

独自の表現ができれば、たとえ先行研究の調査が甘くても、きっと先人と差をつけることができる(先行研究も広く調査しろという話なのだが、やはり歌集を買うなら手に取りやすいもの・嗜好に合うものを選んでしまう。このあたりが本気度の差というか、受賞に及ばない所以だろうか)。

最後に蛇足になるが、49首目はバグ部分のみに注目していただければ何か見えるかもしれない。

いつまでも電車は来ざりIRRe間なCデOッVゆeに日RはaBLE / 今紺しだ

角川『短歌』2023年11月号p81

さて、今回870篇もの応募作を読まれた編集部の方々。お忙しい中それぞれの予選通過作を深く読んでくださった選考委員の方々。目にふれるか分からないけれど、心からお礼を申し上げます。

ともかく『短歌』2023年11月号、読み応え満点なので、ぜひ読んでください。