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#洋楽レビュー

最近聴いているアルバム2024.02

今月も学生時代によく聴いていたアルバムを再訪していた。思い出が蘇る懐かしいアルバムと、新鮮な驚きがあるアルバムの2タイプに分かれる。 The Pale Fountains 『Pacific Ocean』(1984)青春の音。トランペットが青空の下で切なく響く。モリッシーのアクがどうしても好きになれない私にとっては、「The Smiths的なバンド」の方がThe Smithsより好きだったりする。これはまさにそういうバンド。自分が社会の中でどのくらいの力を持っているのかとか、

最近聴いているアルバム2022.11

Deacon Blue 『Raintown』(1987)都市の生活者としての視点。洗練されきらない荒さ、初々しい希望、グラスゴー特有のソウル、粒揃いの曲たち。吐く息が白い早朝の旅立ち。Prefab Sproutと比較されることも多いけど、私は本作に関してはグラスゴーのThe Replacementsだとみなしている(特に『Let It Be』期)。とても真摯だしチャーミングだし、一定の層の人達にとってはたまらない作風。聴いていた時期が思い出に変わるタイプのアルバム。 Ch

最近聴いているアルバム2022.10

Steve Hiett 『Down On The Road By The Beach』(1983) AOR的なジャケットに騙されてはいけない。かなり趣味的でつかみどころのないアルバム。曲によってはブルースだし、サイケデリックだし、Frank Oceanっぽさもある。Pacific ColiseumやDaniel Agedに通ずるリゾートアンビエント感もある。いろいろな文脈で捉えられる面白いアルバム。サブスクに無いのでCDでどうぞ。 "In The Shade" The C

最近聴いているアルバム2022.09

日本に少し帰国し、実家で懐かしいCDを発掘。新譜をアホみたいに漁るバイタリティは無くなった。旧譜の安心感に浸る。 Curtis Mayfield 『There's No Place Like America Today』(1975) このアルバムを聴いている間だけは、視野狭窄の日常から離れ、自分の人生を俯瞰して見ることができる。私は人生とは思い出づくりだと軽く考えている。どれだけメンタルがキツくても、いつかは思い出に変わる。歳を取って人生を振り返った時、若い頃の苦労が懐か

最近聴いているアルバム2022.08

孤独と暗晦に満ちた作品群。しかし悲嘆に暮れているわけではない。頭の中にはイマジネーションとクリエイティヴィティと狂気が渦巻いている。 Codeine 『Frigid Stars LP』(1990) 言わずと知れたスロウコア黎明期の傑作。文字通り、スロウで、コア。シンバルの、スネアの、ギター1ストロークの一撃一撃がズッシリと脳を打つ。一方で弱々しい情けなさ=エモの要素も随所に感じられ、その方面の傑作として楽しむこともできる。演奏の要素自体は後進バンドにそのまま受け継がれてい

最近聴いているアルバム2022.07

Washed Out 『Within and Without』(2011) チルウェイヴというより、ドリームポップとしての傑作だと思っている。当時はBeach House『Bloom』やWild Nothing『Nocturne』などドリームポップの傑作が出ていてそれらと同列に聴いていたが、群を抜いて好き。なのにそれらより振り返られることが少ないのは、チルウェイヴという短命なムーヴメントの代表作みたいに思われてる弊害だと思う。 ベッドルームの閉じたメランコリーと時間感覚が

最近聴いているアルバム2022.06

The Cure 『Faith』 (1979) 自分にゴシックの美学を叩き込んでくれたアルバム。周りの人間が次々死んでいくが、自分にはなぜか死神はやってこない。ただただ死ぬまで生かされている。自分はどうすればいいのか?その苦悶が反映されている。私の中ではJoy Division『Closer』よりも高い位置に屹立する傑作。 Noah And The Whale 『The First Days Of Spring』 (2009) フロントマンの失恋(Laura Marli

最近聴いているアルバム2022.05

最近は仕事で脳がいっぱいいっぱいのため、未聴作品の発掘はせず、昔聴いてた作品ばっかり聴いている。こうやって懐古おじさんになっていくのかもしれない。 Arctic Monkeys 『Favourite Worst Nightmare』(2007) バンドサウンドの筋力増強と曲展開の可能性を探った作品。タイトでフックに溢れた前半5曲も良いが、"Do Me A Favor", "This House Is A Circus", "If You Were There, Bewar

最近聴いているアルバム2022.04

Self Defense Family 『Heaven Is Earth』 (2015) 見慣れた景色で視界がグワンと歪むような、違和感のある音楽。Pure X風のアリゾナ砂漠サイケな音に、なぜかハードコア風のボーカルが乗るのが違和感の原因だろう。エモの哀愁やスロウコアの行き場の無い絶望感も込められており、隠れた名作。 Death Of Lovers 『The Acrobat』(2018) Nothingのメンバーによる別ユニット。メンバーのルーツである80年代UKニュ

最近聴いているアルバム2022.01

去年の1月からこのシリーズを書いている。シーンの影で埋もれた名作であったり、全然評価されていないが実は優れていると感じる作品であったり、今の音楽シーンに通じる魅力を持つと感じる作品であったり、そういう作品を再探訪していきたい。 The Blue Nile 『A Walk Across The Rooftops』(1984) ——ひとつの恋が終わりを迎えようとしている。お互い終焉に気付きながら道を模索するが、結局は破局を迎えるだろう、この雨に濡れるハリウッドで...葉巻をく

最近聴いているアルバム2021.11

Flower Crown - Glow (2017) ドリームポップ/シューゲイザー系統の傑作。角の無い柔らかい音が、いつの間にか遠くに置き忘れてしまった純粋な感情を呼び起こしてくれる。あの日海中から見上げた水面のきらめきを忘れないだろう。空は悲しいほど晴れていた。二度と戻れないからこそ価値がある。 Jamie Isaac - (04:30) Idler (2018) リッチなメロディとピアノを軸に据え、深夜の心地良いチルを追求している。ビル・エヴァンスに影響を受けたと

最近聴いているアルバム2021.06

一周回って80年代、90年代の作品を聴き直すと、今の時代だからこそ新鮮に響く部分が多くあることに気づく。 Roxy Music - Manifesto (1979) Bryan Ferryのソロ活動が停滞したため、再度バンドを招集。よくぞ停滞してくれた!と言いたくなる傑作。曲はビターで分かりやすさには欠けるものの、それが却ってこのハードボイルドな夜の世界にマッチしている。前半はDavid Bowie的な堅い遊び心があるが、後半に行くにつれ後期Steely Danや初期Th

最近聴いているアルバム2021.04

Roxy Music - Flesh + Blood (1980) 基本的に文句のつけどころが無い完璧な作品。前作『Manifest』までと比べると、ますます毒気の抜けたスマートな作風となってきている。それでも「顔の見えないAOR」(=洗練されていった80年代バンドへの常套文句)などという批判が的を得ないのは、実際Bryan Ferryのダンディズムがいよいよ極まってきており、聴いた人は誰もがその虜になってしまうからだろう。これに代替可能なものなど何も無いのだ。 Slow

最近聴いているアルバム2021.03

Roxy Music - Avalon (1982) Bob Clearmountainによる1999年リマスターは非常に精密で劇的な変化を生む素晴らしいものであった。反して2015年東京でのDSDマスターカッティングは主張のキツくない上品でマイルドな音に仕上がっている。好みによるが、いずれにしても本作の内容が素晴らしい。ロック界においては、80年代は本物の審美眼とセンスを持ったプロフェッショナルの時代であり、90年代は本物のエモーションを持った一般人の時代だった。本作は前