【インタビュー】下川れいこ ピアノリサイタル ゲスト:山本徹(チェロ)
2022年10月9日(日)東京・汐留ホールで「下川れいこ ピアノリサイタル ゲスト:山本徹(チェロ)」が行われます。出演のお二人にインタビューをさせていただきました。
conpas プログラム前半は下川さんのピアノソロ演奏。後半は山本徹さんが加わってのチェロソナタ演奏という趣向です。前半のプログラムのドビュッシーとラモーという組み合わせをみて、センスがいいなぁとうなってしまいました。(笑)
下川 ありがとうございます。(笑)ラモーは1700年頃のバロックの作曲家で、通奏低音から現代の和声論の元となった根音・転回形の新しい「和声論」を打ち出しました。ドビュッシーはラモーを敬愛し、「ラモーを讃えて」ではラモーの作風を模倣するのではなく「和声は旋律の主体である」というラモーの考えに共鳴して、独自の和声を表現した作品です。時代を超えた2名のフランスの作曲家の作品を、日仏文化協会 汐留ホールで演奏させて頂くのはご縁だと感謝しています。
conpas 下川さんはチェンバロも演奏されます。チェンバロとピアノ演奏では楽曲に対するアプローチは変わってくると思いますが、バロック時代のラモーの作品をピアノで演奏する場合、どのような違いがあるでしょうか?
下川 今回取り上げるクラヴサン曲集より「優しい訴え」は私の特に好きな曲で、ピアノで弾いても美しい曲だと思います。ピアノでバロックを演奏する際に、ドライにノンレガートで演奏するのが正しい解釈とする風潮がありますがバッハも含め、強弱を含めた非常に豊かな音色が本来の持ち味なので、チェンバロでできなかった表現を存分にピアノで表現することは、ロマン派の表現になるとは私は思わないです。ピアノで演奏することで、チェンバロでは問題なかった装飾音のトリルが強くなり過ぎることがあるので、調整していきたいと思います。
conpas なるほど。とても説得力あるお考えです!そして、後半のベートーヴェンのチェロソナタでは山本さんとの共演も楽しみです。山本さんとの共演は下川さんにとってどのようなものでしょうか?
下川 チェリスト山本徹さんとは、2018年にCD「下川れいこ~古楽アンサンブルとモダンピアノの響演」の収録をお願いして、古楽器奏者の弦楽メンバーを集めて頂きました。当時より、皆様をまとめるリーダーシップを発揮され、リハーサルで積極的に関わって下さる真摯なご姿勢に感謝しています!古楽器奏者としての幅広い知識とご経験を活かして、率直なご意見を仰って下さるお蔭で、気が引き締まるとともに安心感を持って臨めます。2020年にベートーヴェンのチェロソナタ初期第2番、2021年に中期第3番をご共演頂き、今回後期の第5番に挑戦できることは大変嬉しいです。
conpas その2021年のチェロソナタ3番の演奏は私も聴かせていただきました。山本さんの演奏からはベートーヴェンの時代の空気感が漂ってくる、とても印象的な演奏でした!
山本 下川さんも仰っていましたが、ベートーヴェンのチェロソナタを継続的に3曲、前期(第2番)・中期(第3番)・後期(第5番)と共演することにより、作風の変化を追体験することが出来ました。また、ベートーヴェンは古典派の作曲家ですが、バロックから受け継がれた演奏習慣も演奏には当然必要になってきます。古楽器や歴史的演奏習慣にも興味・理解のある下川さんとご一緒出来ることを嬉しく思います。
conpas チェロソナタ5番の聴き所(お二人の演奏による聴かせ所)を教えてください。
下川 今まで山本さんに共演頂いた第2番、第3番とは異なり、第5番1楽章では急な強弱の変化、2楽章では深淵な想い、3楽章では後期のピアノソナタを思わせるフーガです。通常、3楽章では華やかに最終楽章らしく終わることが多いのですが、この作品は単純な華やかさよりもフーガの複雑な掛け合いの魅力を出せるようにしたいです。
山本 そうですね。やはり、チェロソナタ全5曲中唯一の緩徐楽章である第2楽章と、その後に続く、荘厳な建築物を目の当たりにしているような第3楽章のフーガです。両楽章とも、年を重ねないと弾けない深い音楽であり、ようやく心の準備が出来たかなという気がします。
conpas ところで、コロナ禍やウクライナ戦争などで世界情勢がかつてない状況に直面してきました。演奏家としてもっとも影響を受けたことは何ですか?
下川 健康面を含め一個人として多大な影響を受けました。心身ともに常に警戒しなければならない社会は、気が休まらないです。コロナ対策の上、音楽会で音楽に癒しを感じて下さるお客様には大変励まされています。ウクライナ戦争は、世の中がコロナで大変な時に時代錯誤な戦争が起こり、人間の愚かさが身に沁みました。どれだけ時代が変わっても、人間一人の寿命は決まっていますので、心はあまり進化していないのだな、と思い知らされます。独裁者だけの責任にするのではなく、一個人の平和への意識を高めていければと願います。
山本 コロナ禍では多くの演奏会が中止になり、今までは珍しかった演奏会の配信も主流になってきました。会場から遠く離れた方にも聴いていただけるチャンスが広がった一方で、その場での化学反応を楽しむ生演奏の良さも同時に痛感することにもなりました。また平和、平安への祈りはミサ・ソレムニスなどベートーヴェンの後期の作品に共通する信念でもあります。200年前から変わらない願いを心に留めつつ、演奏会当日演奏したいと思います。
conpas 最後に会場でライブを聴く良さ・楽しさを教えてください!
下川 ライブ会場では、お客様からの気を感じて、それに応える目に見えない相互作用があります。会場の数百名の視線を受けると、実際に痛いと感じる程です。お客様からポジティブな気を頂いて、普段とは異なるテンションで演奏ができますので、誰もいない客席で演奏するのとは雲泥の差です。
動画配信の便利さと良さもありますが、ライブ会場でのお客様との相互作用と緊張感のある生演奏は今後も大切にしていきたいです。
▼チケット情報 & プログラム
全席自由:3500円(ペア券6000円)
https://t.livepocket.jp/e/a974v
ラモー Jean-Philippe Rameau
クラヴサン曲集より
優しい訴え Les Tendres Plaintes
喜び La Joyeuse
ミューズたちの対話 L'Entreitien des Muses
ドビュッシー Claude Debussy
映像第1集より ラモーを讃えて Hommage à Rameau
前奏曲第1集より パックの踊り La danse de Puck
喜びの島 L'Isle joyeuse 他
ベートーヴェン Ludwig van Beethoven
チェロソナタ第5番ニ長調 Cello Sonata in D major Op.102-2
▼下川れいこ (ピアノ)SHIMOKAWA Reiko, Piano
2002年第8回カナダパシフィックピアノコンクール第2位。2000年度ヤマハ音楽支援制度受賞。 英国王立音楽大学ピアノ科 (B.Mus.) 、カナダヴィクトリア大学 (M.Mus.) 、UBC大学演奏ディプロマ課程等を修了。ピアノをロ―ナン・マギル、斎藤雅広、チェンバロを岩田耕作、中川岳、 平井み帆、廣澤麻美、村井頌子他の諸氏に師事。国内外のオーケストラと共演し動画配信中。 タンゴの熱気を伝えるピアニスト (雑誌ショパン2016年6月) と評される。江東区音楽家協会、 日本レシェティツキソサエティ、日本チェンバロ協会各会員。 www.reikopiano.com
▼山本 徹 (チェロ)YAMAMOTO Toru, Cello
東京藝術大学大学院古楽専攻及びチューリヒ芸術大学修了。バロックチェロを鈴木秀美、ルール= ディールティーンスの各氏に師事。2008年第16回ライプツィヒ国際バッハ・コンクール第2位、 2011年ブルージュ国際古楽コンクール審査員賞、ファン・ヴァッセナール国際コンクール優勝。 バッハ・コレギウム・ジャパン、オーケストラ・リベラ・クラシカのメンバー。東京藝術大学での 集中講義、シンガポール国立大学音楽院でのマスタークラスを行う他、2018年に有志と立ち上げた オルケストル・アヴァン=ギャルドでは首席奏者・理事を務めている。 https://scordatoru.wixsite.com/toru-yamamoto