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気づかれない子どもたち

今回は、先日読破したこちらの本を紹介。
「ケーキの切れない非行少年たち」著者・宮口幸治(新潮新書)

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この本はある児童精神科医が医療少年院(以下「少年院」)に赴任し、そこで出会った非行少年少女(以下「非行少年」または「少年」)の本質を分析し、更正の術を書いた本。

だからといって非行少年に興味がない人には関係がない、という訳ではない。

少年院には「ケーキを等分に切る」ということすらできない少年たちがたくさんおり、その問題の根深さは普通の小学校や中学校でも同じというのだ。非行少年の多くが、なぜ非行に走ってしまったのか、その背景に現代の問題が深く関わっている。

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先にもふれたように、ある少年に丸いケーキを3等分、5等分にして下さい、と問題をだすと、このような回答がでたという。

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このような切り方は低学年の子どもや、知的障害をもった子どもにも時々見られるそうだが、これを凶悪犯罪を起こした中学生や高校生の非行少年が描いたというのが驚きだ。このような問題もできない少年が、これまでどれだけの挫折を経験し、そしてこの社会がどれだけ生きにくかったかを想像してしまう。

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非行少年の多くに共通する特徴に以下のものがあるらしい。

①認知機能の弱さ:見たり聞いたり想像する力が弱い。

・見る力が弱いと、相手の表情をしっかり見ることができず、相手が睨んでいる様に見えたり、馬鹿にされている様に感じ取ったりして、勝手に被害感を募らせてしまう。
・聞く力が弱いと、先生の言っていることが聞き取れない上に、理解できない。しかし先生に何か言われるのが嫌で分かったふりをしてしまい、周りから「ふざけいている」「やる気がない」「嘘をつく」と誤解されてしまう。

②感情統制の弱さ:感情をコントロールするのが苦手。すぐにキレる。

・気持ちを言葉で表すのが苦手で、すぐ「イライラする」と表現をしたり、暴力・暴言が出てしまったりする。自分の心の中で何が起きているのか、どんな感情が生じているのか理解できず、このモヤモヤが蓄積し、やがてストレスへと変わっていく。

③融通の利かなさ:何でも思いつきでやってしまう。頭が硬い。

・思いつきですることが多いと、一旦考えることをしないので、騙されやすかったり、同じ間違いを繰り返してしまう。
・頭が硬いと、周りが見えなくなる。思い込みが強い。

④不適切な自己評価:自分の問題点が分からない。自信があり過ぎる、なさ過ぎる。

・自分の今の姿を適切に分かっていなければ、自己の問題や課題に気づくことができない。また、対人関係においても様々な不適切な行動につながってしまう。

そもそも適切な自己評価は、他者との適切な関係性の中でのみ育つ。
例えば、「自分と話している彼女はいつも怒った顔をしている。自分は彼女から嫌われているのか、自分のどこが悪かったのか。」「みんないつも笑顔で接してくれるから、私はきっと好かれているのだろう」と、相手から送られる様々なサインから、自分の姿に気づいていく。
そのサインをうまくキャッチするには、相手の表情を正確に読み取ったり、言葉を聞き取ったりするための、①の認知機能が関係してくる。

⑤対人スキルの乏しさ:人とのコミュニケーションが苦手

・対人関係がうまくいかず特に困ることは、「嫌なことを断れない」「助けを求めることができない」

そしてここにも①の認知機能の弱さが関係してくる。相手の表情が読めない、相手の話を聞き取れない、話の背景が理解できず会話についていけない。結果、コミュニケーションが取れない。

現在では、全職業の約7割がサービス業を占めると言われている。対人スキルに問題があると、仕事を選ぶ上でも不利になってしまう。
そんなサービス業が増える一方で、直接会話や電話をしなくても、指の動きだけで相手と連絡が取れるSNSの普及により、対人スキルがトレーニングできる機会は減る一方である。

⑥身体的不器用さ:力加減ができない、身体の使い方が不器用

・スポーツが苦手というだけでなく、靴紐を結ぶ、ボタンをかける、といった身体的な自立をする上で重要な動きや、字を書く、ハサミを使う、おり紙を折る、楽器を演奏する、といった創作的活動に支障を来すことが懸念される。
・そして、身体的不器用さはとても目立つ。算数の0点のテストはみんなにバレない様にできても、身体の動きはバレてしまう。それで自信を失ったり、イジメの対象になったりする可能性もある。
・身体的不器用さは、じっと座っていなければいけない「学習」にも、力加減ができなければいけない「対人関係」にも影響を及ぼす。


これら、非行少年に共通する特徴は、普通の小学校や中学校でもよく見られる光景ではないだろうか。つまり、非行少年は、小学校や中学校の頃からサインを出し続けていたにも関わらず、親からも、先生からも、そして社会からも気づかれず、学校でイジメに遭い、非行に走って警察に逮捕され、少年院に回され、そこで初めて「障害があった」と気づかれた。もっと早い段階で気づかれ、何らかの支援を受けられていたなら、、、加害者である非行少年も、ある意味、被害者なのかもしれない。

そして、今もなお気づかれず苦しんでいる子どもたちが、世の中にはたくさんいる。全員が非行に走るわけではないだろうが、支援をしてあげれば、一般的にいう「問題児」の数は減るだろう。それは私たちの住み良い世の中にも繋がる。

そして、これは私の見解だが、人間は認知機能や感情統制、対人スキル、身体的器用さなど、段階をもって身につけていくものなのだと思う。それを親は理解し、子どもの成長にあった声掛けをしなければいけない。スキルをまだ身につけていない子どもに、「どうして怒られてるのか分かってる⁈⁈」と頭ごなしに叱りつけても、子どもは理解できない。右から左になって当然だ。怖い顔で睨め付け、「あなたのために」言いながら怒りをぶちまける…。それはただの拷問ということを心に刻んでおかなければならない。と、これまでの自分の子育てを振り返り、猛烈に反省した自分である。

具体的な支援の仕方は、次週にまたこちらの本から紹介させてもらうことにする。

(芹川)


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