見出し画像

ネットゼロとカーボンニュートラリティ(3)

2回に亘り、ネットゼロとカーボンニュートラリティについてご案内してきましたが、ISO14068−1では、分かりやすい図や表を用いて説明されています。だったら「先にやってよ〜」とお叱りを受けそうですが、定義の言葉を丁寧に拾いたいと思い、このような構成にしました。

規格の方では、「5.3 Carbon neutrality pathway」という章を設け、カーボンニュートラリティを目指すに当たっては、このような経路をたどるでしょうという事例が掲載されています。

ISO14068−1:2023より

何もしていないとき(business as usual)は排出量は増えるももの、削減に着手すると減少に転じます。その段階での排出量は、「unabated GHG emissions」と「residual GHG emissions」とからなります。

これを、「reduction credts」や「removal credits」などでバランスさせた場合は「carbon neutrality」を主張できるのです。

そして、1.5度目標経路にしたがって順調に削減したとしても、「residual GHG emissions」は残ってしまう。これを、吸収除去量で中和した状態が、ネットゼロということになります。

ISO14068−1では、補遺(Annex A. Carbon neutrality pathway)でさらに詳しい説明を加えています。5.3章において「詳細は補遺で説明されている」とありますので、ほぼ主文書と一体であると考えてよいでしょう。

そのAnnexには、カーボンニュートラリティに登場する用語の関係性が、下図を用いて説明されています。

Figure3とFigureA.1を併せて考えれば、容易に理解できますね。

ISO14068−1:2023より

また、Figure3のタイムラインについては、Annexの以下の文章が説明してくれています。「Early phase」では削減余地のある「unabated GHG emissions」が残っていて、「Later phaseでは削減余地の無い「residual GHG emissions」だけが残った状態なのです。

ISO14068−1:2023より

ISO14068−1はご丁寧に、「Net result」がゼロである状態を、削減フェーズと使用するカーボン・クレジットの組合せで、次の10種類があると説明しています。

ISO14068−1:2023より

当然ながら規格には登場しませんが、「Early phase」が、SBTiの「短期SBT」、「Later phase」が「Net-Zero」の目標設定期間だと考えれば、納得がいくのではないでしょうか。

Noteに「d」とある組合せが、「この状態がネットゼロと定義しているイニシアチブもある」ということです。

「Later」phaseでクレジットを使用していないか、あるいは「Removal(吸収除去系)」のみ使用して「Net result」をゼロにした状態が「ネットゼロ」というのは、SBTiの定義と一致します。

Noteに「d」とある組合せ、「Later」phaseでクレジットを使用していないか、あるいは「Removal(吸収除去系)」のみ使用して「Net result」をゼロにした状態を「ネットゼロ」と定義しているイニシアチブもある」としていますが、これはまさしくSBTiの定義です。

なお、「GHG removals」は「自社のバウンダリー内」とありますので、FLAGか、DACなど人為的な吸収除去を実施している事業者を想定しているのでしょう。クレジットを用いずとも「Net result」をゼロにしているのであれば、削減フェーズは関係ないとしているイニシアチブもいるのですね。

Noteに「e」とある組合せがIPCCの「ネットゼロ」の定義ですが、IPCCのGlossaryにある「under direct control or territorial responsibility」のところが「自社のバウンダリー内」を意味していますので、ご確認ください。

IPCC Glossaryより

実は、SBTiのネットゼロ定義における「中和」については、まだ確定していません。ですので、他社の吸収除去量をクレジットの形で移転するのではなく、IPCCの定義にしたがい、あくまでもバウンダリー内でバランスさせることを要求するようになるかもしれません。

まぁ、まだ先の話なので何とも言えませんが、1.5度目標経路にしたがって、自社の「削減ファースト」を強力に推進しておかなければならないことは明白です。

夏休みの宿題は、早めに手をつけておくのが吉ですね。

もしよろしければ、是非ともサポートをお願いします! 頂いたサポートは、継続的に皆さんに情報をお届けする活動費に使わせて頂きます。