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米国のVCMの現状をおさらいしておこう

ACXとAlliedOffsetsによる、「Sustainable Markets 」レポート。
今回は、米国のVCM事情についてでした。

なお、「VCM」は「Voluntary Carbon Market」の略称です。これは「自主的カーボン市場」と訳され、規制に基づく市場(コンプライアンス市場)と対比して使われ、前者で取引されるのは「ボランタリー・クレジット」、後者は「コンプライアンス・クレジット」です。

欧州に比較して、何かと後ろ向きな姿勢に見られがちな米国ですが、各州は連邦政府の意向に構わず、独自の先進的な取組を進めていることは、皆さんもよくご存知でしょう。

2017年、当時のドナルド大統領が、正式にパリ協定からの離脱を発表した際、多くの米国内のリーダーたちは、地球温暖化対策の国際的な努力から手を引くことは、科学的根拠に反するとして反対、「We Are Still In」というイニシアティブが立ち上がりましたよね。

米国がパリ協定の目標に引き続きコミットしていることを世界に示すことを目的とした、このイニシアチブには、州知事、市長、大学の学長、ビジネスリーダー、および他の機関のリーダーが参加。気候行動に対する彼らの継続的な支持を公表しました。

そんな米国ですが、2030年までにGHG排出量を2005年比で50~52%削減、2050年までにネット・ゼロという、世界各国と同レベルの気候変動目標は掲げています。

このネット・ゼロに向けた努力の一環として、SECは、クレジットや再エネ(REC)など、気候変動に関連するあらゆる情報を開示することを上場企業に義務付ける新規則を制定しました。

米国には現在、国家的な炭素税は無いものの、人口の4分の1以上、GDPの3分の1を占める12の州が、対象企業には参加を義務づけるキャップ・アンド・トレード方式のETSを採用しており、効果的な排出削減につなげています。

その一つが、RGGI。

電力部門からのCO2排出量の上限設定と削減を目的とした、米国における先駆的な地域的強制キャップ・アンド・トレード・プログラム。ニューヨーク州、ニュージャージー州、マサチューセッツ州を含む11州で構成されます。

RGGIは、ネットゼロ排出の達成に向けた協力的な取り組みを通じて運営されており、2024年の参加11州のCO2排出枠(キャップ)は157,184,044トンだそうです。

もう一方の雄が、RGGIと並行して開始された、カリフォルニア州のETSです。RGGIが電力セクターのみだったのに対し、こちらは複数のセクターを対象としており、北米初でした。

このイニシアチブは、州全体の主要なGHG排出源に漸減的な上限を設けると同時に、環境的に持続可能な技術への投資に対する強力な経済的インセンティブを育成するものでもありました。

排ガス規制や、燃費規制など、環境対策のエバンジェリスト州ですから、宜なるかなと思いますが、このような背景があるからこそ、サスティナビリティ情報開示においては、骨抜きにされたSECを横目に、より厳しい法案(SB253)を成立させたと言えます。

公開情報を基に著者作成

一方、ワシントン州やオレゴン州も現在、同様のイニシアティブを策定中だとか。各州で同様の制度が導入されれば、事業者としては、サスティナビリティ情報開示と同様、「Interoperabilityが確保された仕組みにしてくれ」と言うクレームが上がってきそうです。


という現状を概観しましたので、足元の数字を確認しましょう。

まず、ステータス別のプロジェクト数。

5月現在、取引や使用可能なプロジェクト(Active)が700件強、審査中(Pending)が250件程度となっています。Inactiveが650件程度とあり、その内容が気になるところではあります。

Sustainable Markets(ACX and AlliedOffsets)より

続いて、利用しているクレジットスキームの割合。

米国は、京都議定書附属書Ⅰ国ですので、インドネシアのように、CDMはありません。で、さすが本場のACRとCARが4割超を占めており、2大ボラクレとなっています。VerraやGSのプレゼンスが低いのも特徴的。

Sustainable Markets(ACX and AlliedOffsets)より

プロジェクトのセクター別ではどうでしょうか。

プロジェクトのセクター別ではどうでしょうか。

インドネシアでみられた、廃棄物処理(Waste Disposal)や再生可能エネルギー(Renewable Energy)よりも、林業及び土地利用(Forestry and Land Use)や農業(Agriculture)が存在感を示してますね。

個人的には、バイオ炭(Biochar)が入っているのが目につきました。

Sustainable Markets(ACX and AlliedOffsets)より

クレジットの発行量と償却量を表したのがこちら。
償却量は一定の需要があるところ、発行量は、若干コロナの影響を受けているのかもしれません。とはいえ、すぐに盛り返していますね。

Sustainable Markets(ACX and AlliedOffsets)より

ということで、米国VCMの現状をお届けしました。
これから、クレジットの利用の仕方も多様になってきます。
リアルタイム、とはいかないものの、タイムリーに紹介していきますね。
お楽しみに。

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