農業にも算定が求めれられる日が?
日本の2021年度のGHG排出量は、11億7,000万tCO2e。
このうち、農業セクターのGHG排出量は2.8%
分野別だと、エネルギー分野が86.8%で圧倒的なので、このセクターの排出削減が必要であることは、論を俟たないところでしょう。
しかし、メタンの排出に着目すると、違った世界があります。
稲作からの排出が44%と最も多く、家畜の消化管内発酵に伴う排出が28%、家畜排せつ物管理に伴う排出が9%と、農業に関わる排出量が圧倒的なのです。
N2Oを見ても、農用地の土壌からの排出が28%でナンバーワン。家畜排せつ物管理に伴う排出が燃料の燃焼(固定発生源)と並んで20%なのです。
畜産を含む農業、ひいては日本の食を守るためには、GHG排出量を増加させることのない、効率的な農業を推進する必要があることは、以前にもnoteでご案内してきたところ。
稲作によるメタン発生の元凶は、湛水時における嫌気性発酵が要因ですので、水を張らない稲作、乾田直播を実践している農家さんの勉強会に参加、「この人達がいる限り、捨てたものではない」という確信を得たことも、紹介しました。
ブリュッセル効果を存分に活かし、域内の施策をグローバルな施策にする戦略を採っている欧州、特に気候変動を始めとするサスティナビリティ情報開示についてはリーダーシップを取っているという自負がある欧州が、この問題に気づいていないはずはありません。
このように思っていたところ、農業セクター向けのEU ETS、「Ag ETS」を導入する法案を欧州委員会が模索しているという、Carbon Market Watchの記事に遭遇しました。
記事によると、加盟国のデンマークは、農業保護団体との5ヶ月にわたる交渉の結果、欧州初の農業炭素税を導入することが決定したとあります。
具体的には、2030年以降、農家はトン当たり€16を支払う必要があり、2035年以降は€40に上昇するそうです。 加えて、2045年までに25万haの農地を再植林し、2030年までに14万haの低地を確保し、窒素排出量削減のため、特定農場の買い取りも行う予定。
農業セクターは、EU全体の温室効果ガス排出量の約10%を占めており、内訳として、メタン(CH₄)は全体の54%、一酸化二窒素(N₂O)は79%を農業活動が占めています。デンマークは養豚業が盛んで、農業部門からの排出量が比較的多いとはいえ、同程度と思います。
そんなデンマークが、このような突っ込んだ施策を、先陣を切って導入することを考慮すると、欧州はトップダウンではなく、ボトムアップなのでしょうね。
とすると、欧州の法案作成を一手に引き受けている欧州委員会としても、「Ag ETS」導入法案提出に当たっては、追い風でしょう。
DG CLIMAが、昨年発表した調査研究のフォローアップ目的に実施された「持続可能で競争力のある農業食品バリューチェーンのための気候変動対策へのインセンティブ付与」に関するステークホルダー・イベントでその進捗が報告されたと思いますが、残念ながら参加できませんでした。
なので仔細は不明ですが、2025年からは道路輸送や建物の暖房、さらに従来のEU ETSで対象外とされていた産業部門の燃料消費をカバーするETS2が導入されることを考慮すると、農業セクター向けのETSというのは、十分想定範囲内でしょう。
世界を見渡すと、EU ETSに次いで歴史の長いNZ ETSが、既に農業セクターに対し、報告義務を課しています。現行の法律では、農業セクターからの排出量は2026年までに、NZ ETSまたは別のスキームを通じて、炭素価格を負担することになります。
ただ、NZは政権が交替しており、現政府はこの法律を廃止し、代わりに農業部門だけのための別制度を開発することを約束しているそうなので、まだ何とも言えません。
NZはご存知のように、農業畜産業が国の一大産業であり、国全体の排出量の半数を占めますが、「聖域は無い」ということなのだと思います。
このように、既存のスキームに取り込まれようが、新しいスキームとなろうが、排出量に基づいた炭素価格を負担するというのであれば、明確なルールに基づいた算定は避けて通れません。
農業法人はさておき、農家それぞれが個別に実施することは困難を伴うと思いますが、グローバル企業におけるバリューチェーン排出量算定が義務化される流れにあっては、やがて降ってくると考えるべき。
ですので、「排出量算定、はじめの一歩」始めるなら「今」です。
AIやDXの発展により、10年前とは比較できないほど、業務自体はストリームライン化されています。これを機会に、現在の業務を見直し、「サスティナブルな農業」への移行、本気で取り組んでみませんか。
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