パリ協定6条の現在地(2)
毎年恒例の、IGESのCOP29直前ウェビナーシリーズ。
第2回目では、小圷 パリ協定6条実施パートナーシップ センター長による「パリ協定6条」についての解説でした。
カーボン・クレジットの将来を左右する重要なテーマであり、クレジットに携わる人間にとっては、外すことができません。ということで、前回から、できるだけ分かりやすく紹介しております。
今回は、COP29で議論される論点について、ご案内していこうと思います。
主なものは、次の2つ。
6条で欠かせない要素が「Authorization」と「Corresponding adjustment」。
日本語では「政府承認」及び「相当調整」と訳されます。
これについては、下図のように分かりやすくまとめられています。
「政府承認」があれば「ITMOs」となって国際移転が可能となり、相当調整(CA)されれば、NDCやCORSIAなどに使用できます。承認が無くとも、それ以外の用途での使用が可能で、前回説明したように、途上国などの削減に貢献することが可能です。
なお、CAは「高品質なクレジット(High-integrity credits」の証左と一般的に受け入れられています。ですので義務づけないスキーム(ボラクレ市場など)においても、CAを受ける意味があります。買い手に安心感を与えることができますし、もちろん、単価アップにもつながります。
この「政府承認」において、次のような論点が残っています。
具体的には、このような例が挙げられていました。
「6条ルール」は、クレジットを国家間で「移転」するためのルール。プロジェクトの実施に関わる論点ではないのですが、手続きが明確でなければ「移転」がスムーズに実施されず、目的を果たせないことになるので、重要なのです。
「国際登録簿」も、手続き上の論点です。
国際的にクレジットを移転するためには、各国が「登録簿」を有している必要がありますが、途上国では、自国で持つことができない場合もあります。そんな時には、「国際登録簿」を使ってよいことになっています。
その「国際登録簿」の機能が論点です。
「国際登録簿」はUNFCCC事務局が管理するため、コストがかかります。これは全て締約国が負担することになるので、事務的なことながら、明確にしておかなければならないのですね。
さて、6条2項の下でのクレジットについての説明もなされました。
前回ご案内したように、二国間の取組に基づくクレジットが代表的ですが、JCMを推進している日本が草分けではありますが、現在では、シンガポールやスイスなども、着実に取り組みを進めています。
シンガポールは、金融取引のハブに引き続き、カーボン・クレジット取引においてもハブも狙っており、目が離せません。スイスは、EU-ETSとリンクするETS(Swiss ETS)を有し、韓国もK-ETSを持っていることから、自国のETSでの活用や、更なるNDC達成への活用を企図しています。
他方、スウェーデンとノルウェーは、NDCには使わず、2050年ネットゼロへの貢献を目的としている旨の説明がありました。
6条4項にも触れておきましょう。
COP28では、持続可能な開発ツール(どのように貢献したのかを評価するツール)や方法論及び吸収除去スタンダードが決まっていなかったところ、今年は6条4項監督機関で採択済。
異議・不服申し立てプロセスについても、今年の作業部会で設定済みということで、昨年と比較してルールが決まってきていることから、具体的な議論が進むことが期待されます。
加えて、95カ国が窓口を設定しているので、6条4項メカニズムを利用したクレジットの運用及び政府承認、移転が進んでいくと思われます。
6条ルールが明確になり、本格的な運用が始まれば、コンクレの質が担保されることになり、ひいては、ボラクレの品質も向上するでしょう。そうなれば、安心して取引ができるようになることから、世界のETSが活性化、ひいては、世界全体の排出削減につながってくると思います。
ということで、2週間後に迫ったCOP29。
どのような成果が得られるか、期待して待っていましょう。