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引渡製品単位の排出量を改めて考える(2)

前回から、引渡製品単位の排出量の算定について説明をしています。

このnoteで、形は違えど、何度もお話ししているテーマではありますが、質問された際に、ふと「?」となることもあり、「やはり、ちゃんと理解できていないのかも」と考えたことがきっかけです。

ということで、今回は丁寧に、プロダクト基準を読み込みながら、必要な点に絞って説明していきたいと思ってます。

さて、前回は、GHGインベントリの算定の全体像を把握して、「さぁ、それでは、算定の実際を考えていこう」というところで終わっていました。



「何を算定するか」つまり、バウンダリーを決定するためには、プロセス全体を捉える必要があります。それらは、以下の5つのステップからなります。

  1. 素材の入手と前処理(Material acquisition and preprocessing)

  2. 製造(Production)

  3. 製品の流通と保管(Product distribution and storage)

  4. 製品の使用(Product use)

  5. 廃棄(End-of-life)

車メーカーを例に、プロセスマップを描いたのがこちらです。
このように、資源の採掘(cradle)に始まり、最終処分(grave)に至るライフサイクル全体での排出量を、「cradle-to-grave」と言います。

車メーカーのプロセスマップ

角丸四角で表示されているのが「attributable process」で、算定すべき対象となります。そして、そのプロセスを行うために投入されるのが、「エネルギー」及び「素材」です。

このような、プロセスマップを自社について作成した上で、バウンダリーを設定していくことになります。

さて、プロダクト基準を読み進んでいると、どうも腑に落ちないところがあり、不安になりました。それは、下流の輸送「スコープ3 カテゴリー 9」は5ステップの一つとして明示されているのに対し、上流の輸送「スコープ3 カテゴリー5」は明らかではないからです。

上図でもそうですし、簡略化したこちらの概念図も同様。

製品LCAの5ステージ

最終製品を生産するメーカーを例としたプロセスマップでも同じでした。

最終メーカーのプロセスマップ

本文中の「non-attributable process」の例示に、「製品ユーザーから小売店への輸送」というのがあったので、さらに混迷を深めることに。

前回の用語の説明でもご案内したように、「non-attributable process」は、「算定する必要は無いものの、切り分けることができなかったり、あるいは、対象製品に関連すると判断した場合には含めるべき」とあるからです。

• Capital goods (e.g., machinery, trucks, infrastructure)
• Overhead operations (e.g., facility lighting, air conditioning)
• Corporate activities and services (e.g., research and development, administrative functions, company sales and marketing)
Transport of the product user to the retail location
• Transport of employees to and from works

プロダクト基準より

社員の出勤や出張などは、確かに、特定の製品に「割り当て」られないので当然と思う一方、製造に必要な素材や半製品をサプライヤーから工場へ輸送するプロセスは、按分などが必要になるとはいえ、「割り当て」られると思うのです。

「?」を抱きながら基準を読み込んでいると、GEのプロセスマップの中に、ズバリがありました。

GEのプロセスマップ

サプライヤーは、様々な素材から「半製品」を製造し、GEの工場へ納品。組み立てられた後出荷され、現場で設置工事。現場へ直送されるものもあるでしょう。設備を使用すれば、メンテナンス業務も発生。最終的には、解体、最終処分となって、ライフサイクルを全うすることになります。

このマップには、拠点間の「輸送」がしっかりと明示され、バウンダリーに含まれていることが分かります。それにしても、何故本文中に明記されていないのか不明です。

さらに、私にはもう1つ「?」がありました。
生産の際に発生する廃棄物「カテゴリー4」です。

ということで、分からなくなったら原則に戻れ、と「attributable」の定義を改めてよく読んでみました。

An inventory consists of service, material, and energy flows that become the product, make the product, and carry the product through its life cycle.These are defined as attributable processes. Examples include the studied product’s components and packaging, processes that create the product, materials used to improve its quality(e.g., fertilizers and lubricants), and energy used to move, create, or store the product.

プロダクト基準より

「carry the product through its life cycle(製品のライフサイクルを通して運ばれるサービス)」という表現は曖昧のように思えますが、「energy used to move the product(製品の移動に使用されるエネルギー)」という例示から、「上流の輸送」も対象となることが分かりました。(「製品」が「半製品」を含まれるのか、と言う論点は残りますけどね)

また、「事業から出る廃棄物」について。

なるほど、「attributable process」には、製品になる、製品を作るために投入される、素材やエネルギーが含まれるのですね。なので、「製品にならない」「事業から出る廃棄物」は、対象外なのでしょう。

ただ、例えば、板金などで素材1枚から得られる取り数が多くなるような設計にする、といった配慮をすれば、廃棄物を減らすことができます。自社努力で削減できるのです。ですので、「non-attributable」ではあるものの、算定対象とすると言う判断があっても良いと考えます。

なお、「販売した製品の廃棄」は「製品」を廃棄するのですし、「end-of-life」そのものですから、外せないのは当然です。

以上を踏まえると、「製品単位の排出量」として算定すべきは、スコープ1・2排出量に加え、スコープ3の、下記7カテゴリーということになります。

・カテゴリー1「購入した製品・サービス」
・カテゴリー3「スコープ1・2に含まれない燃料及びエネルギー関連活動」
・カテゴリー4「輸送・配送(上流)」
・カテゴリー9「輸送・配送(下流)」
・カテゴリー10「販売した製品の加工」
・カテゴリー11「販売した製品の使用」
・カテゴリー12「販売した製品の廃棄」

さて、ようやく「製品単位の排出量」のバウンダリーが判明しました。
次回は、「引渡製品単位の排出量」を考えていきましょう。

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