見出し画像

ネットゼロとカーボンニュートラリティ(1)

ISO化されて盛り上がる「Carbon neutrality」ですが、サス担の方は社内では専門家ですので、最初に用語を正しく理解しておくことが何よりも重要。算定と同じく、ファクトに基づいてしっかりと把握しておきましょう。

まず、対象としているガスが、CO2だけなのか、温室効果ガスも含むのか。
さらに言うと、温室効果ガスは何を指しているのかという論点もあります。

まず、温室効果ガス(GHGs:Greenhouse gases)については、IPCCは次のように定義しています。

IPCC Glossaryより

「地球表面、大気自体、および雲から放射される放射線のスペクトルのうち、特定の波長の放射線を吸収・放出する大気中の気体成分」なので複数存在するわけで、一番代表的なものは「水蒸気」なのです。

まぁ、人為的な排出よりも自然の吸収・排出が支配的なためにGHGとは見なされないのですが、定義からするとGHGです。

ですので、一般的に何をGHGと見なしているかを考えると、UNFCCC事務局にインベントリ報告しているガスを指していると考えればよいでしょう。

報告は、UNFCCC インベントリ報告ガイドライン(決定 24/CP.19 附属書 I)に則って行われており、対象ガスは、皆さんおなじみの7ガスです。

二酸化炭素(CO₂)
メタン(CH₄)
一酸化二窒素(N₂O)
ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)
パーフルオロカーボン類(PFCs)
六ふっ化硫黄(SF₆)
三ふっ化窒素(NF₃)

また、算定はIPCCのガイドラインに基づいて行うことが求められており、こちらも同様。ですので、GHG=7ガスと考えておけばOKです。

次に、ネットゼロとカーボンニュートラリティの対象ガスを考えましょう。

IPCCは、ネットゼロ及びニュートライティいずれについても、両者を分けて定義しています。これについては、ISO14068−1に答えが明記されています。

ISO14068-1:2023より

本文書におけるカーボンニュートラリティの定義は、IPCCにおけるGHGニュートライティの定義と同義である。

つまり、こちらも対象はGHGで、結局7ガスということになります。

そして、本丸のネットゼロとカーボンニュートラリティの違いです。
IPCCのGlossaryには、次のように定義されています。

学びのために、GHGとCO2、両方を引用してみます。
最初は、ネットゼロから。

IPCC Glossaryより
IPCC Glossaryより

続いて、カーボンニュートラリティ。

IPCC Glossaryより
IPCC Glossaryより

ぱっと見、同じような説明に見えますね。
全てにおいて、「カーボンニュートラリティとネットゼロはオーバーラップしている」とした上で、次のように解説しています。

グローバル
・カーボンニュートラリティとネットゼロは同義
サブグローバル
・ネットゼロ:直接管理下または地域的責任下にある排出と除去に適用
・カーボンニュートラリティ:直接管理下又は地域的責任内外の排出と除去を含む

考えて見れば当然で、地球全体で見ると、吸収と排出がバランスした状態である「ネットゼロ」「カーボンニュートラリティ」は、同じにならざるを得ませんね。

国や地域あるいは企業別になって初めて、「別のところの削減量(吸収量)」をクレジットにして自国・地域・自社へ移転する、という作業が発生するわけです。

世界が一つの国家であれば一つのNDCを持って削減活動をすればよいところ、現実は異なる。それぞれが、NDCを有し、それぞれが削減活動を行う。

なので、カーボン・クレジットというシステム(市場メカニズム)が考案され、カーボンニュートラリティという概念が生まれたと言えるのではないでしょうか。

さて、ネットゼロをもう少し突っ込んで考えて見ましょう。
この活動は、UNの「Race To Zero Campaign」が発端となっています。

ですので、このキャンペーンの定義を参照することから始めたいと思います。この続きは次回お届けしますね。

まずは、GHGとは何なのかについて、カーボンニュートラリティとネットゼロは、基本的には同じ概念である点をおさらいしておいて下さい。

引き続き、お付き合い下さいマセ。


もしよろしければ、是非ともサポートをお願いします! 頂いたサポートは、継続的に皆さんに情報をお届けする活動費に使わせて頂きます。