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日本版S2の「Financed emissions」は?

算定支援で難しいセクターの一つが、金融セクターです。
ご案内の通り、自社の排出が極めて少ない一方、融資等を通じて、GHG排出に対する寄与が大きいセクターだからです。

だからこそ、SBTiやGHGプロトコル、CDP等のイニシアチブが、その役割に期待すると共に、金融機関自身もGFANZ等のイニシアチブを立ち上げ、削減活動を拡げていることは言うまでもありませんね。

算定方法のデファクトであるGHGプロトコルでは、金融機関を次のように定義しています。つまり、業として行っている企業だけでなく、投資活動からの収益割合によって、対象となる企業もあるというものです。

金融SBT勉強会(2022年5月31日 CDP主催)より

他方、IFRS S2では「ファイナンスによる排出(Financed emissions)」を次のように定めており、金融機関か否かは特定されていません。なお、日本版S2でも、この定義をそのまま取り入れるとしています。

「ファイナンスに係る排出」とは、報告企業が行った投資及び融資に関連して、投資先又は相手方による温室効果ガスの総排出のうち、当該投資及び融資に帰属する部分をいう

第24回サスティナビリティ基準委員会会合資料より

「当該投資及び融資に帰属する部分」であるとすると、「Financed emissions」よりも「Facilitated emissions」に近いようなイメージがします。

1. Financed Emissions(金融による排出量) 
- 金融機関が企業に融資する場合、その企業の事業活動によって間接的に生じる排出量が「financed emissions」
- 例: 金融機関が製鉄会社に融資を行う。この会社の事業活動によって排出される温室効果ガスは、金融機関によって間接的に「融資された」排出量とみなされる。

2. Facilitated Emissions(促進された排出量)
- 金融機関が特定のプロジェクトに融資する場合、そのプロジェクトによって直接的に促進される排出量が「facilitated emissions」
- 例: 金融機関が石炭火力発電プロジェクトに融資を行う。この発電所が直接的に排出する温室効果ガスは、金融機関によって「促進された」排出量とみなされる。

このように、「Financed emissions」は金融機関が間接的に関与する企業の排出を指し、「Facilitated emissions」は金融機関が直接的に関与するプロジェクトの排出を示す。

ですが、投資銀行の主たる活動である「引き受け、アドバイザリー業務」などによる「Facilitated emissions」は、IFRS S2では、排出量算定の確立された方法論がないという理由により、開示要求対象外となっているからややこしい。

事務局案を読み進めると、次の定めを、日本版S2の規範性のある部分に含める(例示ではなく要求事項になる)とあります。

第24回サスティナビリティ基準委員会会合資料より

ここで、①の3つの活動について、事務局は日本版S2として定義するとしており、以下のように提案しています。

第24回サスティナビリティ基準委員会会合資料より
第24回サスティナビリティ基準委員会会合資料より
第24回サスティナビリティ基準委員会会合資料より

なので、これらから分かるのは、次の2点ですね。

1.GHGプロトコルにおける金融機関(FI)とは無関係に、①の3つの活動を行っていれば、製造業を営む企業であっても情報開示の対象となる。

2.投資銀行であっても、「資産運用」、「商業銀行」及び「保険」産業に含まれる活動を行っている場合は、financed emissionsに関する情報を開示しなければならない

ただ、2はともかく、1は開示の要否判断が難しいですよね。
なので、次のような経過措置をとるようです。

第24回サスティナビリティ基準委員会会合資料より

分かったようで分からない事務局案ですが、業として金融業を行っている企業が対象であり、「投資活動」の一貫として行っているのみであれば報告義務は課されないことだけは理解できました。

最後にもう1つ事務局提案を、ご案内しておきます。

第24回サスティナビリティ基準委員会会合資料より

①は、投資や融資を行った対象に帰属する部分のみの排出量であること、②は、特定の活動を行う場合にのみ対象となることから明らかだと思いますが、明確化する目的なのでしょう。

ということで、いちかみ砕けませんでしたが、今後、これを叩きに委員が議論を行い、分かりやすい日本版S2にしてくれることを期待しましょう。


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