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CBAM移行期間のルールが最終決定(5)

CBAMの移行期間に適用される規則及び附属書について、実施されていたコンサルテーションが終了、最終版が公開されたことを受け、2回に亘って、フィードバックの状況及び内容をご案内した後、附属書の報告リストを、ドラフト版と最終版とで比較したところでした。

全体的に、フィードバックの内容の反映はあまり見られないな、という感想をもちつつ、今回は移行期間の施行規則「C_2023_5512_1_EN_ACT_part1_v6」と附属書「C_2023_5512_1_EN_annexe_acte_autonome_cp_part1_v7」における変更点について、気づいたところをリストアップしてみます。

ちなみに、EU域外からのフィードバックのポイントは、個人的に以下の5点に集約すると考えています。(再掲)

1.機密情報の扱い
2.EU-ETSに対する不公平感
3.炭素価格の定義
4.緩和措置や移行措置、算定方法について
5.WTO違反について

フィードバックのポイント(著者判断)

施行規則については、前回でも言及したように「明確化」を目的とした修正が随所に見られました。罰則規定についても、「明確化」によってグレーゾーンが狭まったこともよいですね。予見可能性が高まりました。

施行規則

追加
・秘密保持の文書
・電力の輸入についての報告事項(排出係数)
・間接排出に関する報告事項拡充
・免税の場合免税書提出
・年平均為替レートの詳細
・再提出または訂正要求があった場合、主管庁が承認可否判断する期限を規定(
・欧州委員会から評価が通知された場合のレビュー開始期限
・罰則規定において、「第14条(4)に基づき所轄庁が訂正手続きを開始した場合において」が追加され、罰則適用が厳密化
・厳罰規定、「連続して2回以上」が追加
・トレーダーポータルに「組み込み排出量に関する情報」追加
・アクセス管理システムに「第27条に基づき」追加
・電子システムの開発、テスト、配備、管理に、共通の技術仕様の定義や開発、配備については、加盟国と必要に応じ欧州委員会が関与する旨追加
・第33条個人情報の保護に、個人情報が処理される目的が列記
・「規則(EU)2016/679 第16条に基づく個人データ修正権を損なうものでない」旨追記

削除
・平均炭素価格定義
・組み込み排出量算出方法からMRVで使用される方法削除
・報告書記載事項から「輸入者及び間接代理人のEORI」削除
・不完全なレポートから「附属書Ⅴ」および「必須」削除
・不正確なレポートから「5条からの逸脱」削除

変更
・訂正手続き開始時期、2025年12月31日以降→経過措置期間中またはそれ以降
・訂正手続き開始時に追加情報要請がある情報、第3条から第8条→第3条から第7条
・追加情報提出、附属書Ⅰのテンプレ→CBAMレジストリ

附属書については、附属Ⅰについては紹介済みですので附属Ⅱからです。
附属Ⅱは、定義、CNコード及び生産ルートについて規定しています。

定義とCNコードは、基本的には変更ありません。

生産ルートは、製造方法やシステム境界、関連する前駆物質(precursor)を規定しているもので、セクター横断的なルールと対象セクター毎に分かれたルールが説明されています。

まぁ、算定ルールがこのセクションに集約されているところ、こちらについても、ほとんど修正は入っておりません。

フィードバックを受けてあれこれ変更するのではなく、まずは、移行期間においてルール通りに算定してもらい、その後のリアルなフィードバックによって、本格稼働時の算定方法をフィックスする意向なのでしょう。

附属Ⅱ

・「商品の生産ルート」から「商品の定義と生産ルート」へ変更→「附属ⅢのA.定義と原則」からの移動(4回目にて説明済み)
・バイオマスの定義→この定義を満たすために意図的に変更または汚染された物質を除く(変わってはいない)

2.13.2.2
・高炉、水素還元で、前駆体に水素追加

2.15.2.1
・前駆体に「他の設備や製造工程で使用された粗鋼が工程で使用された場合」追加

3.18
以下2点が変更
・5%超の合金元素含む→1次製錬からの未製錬アルミニウムとみなす
・5%含むアルミニウム製品は、アルミニウムの重量のみ算定(按分)

附属IIIは、事業所レベルでの排出量モニタリング、 生産工程への帰属、単純・複雑な商品の具体的な直接・ 間接組込み排出量を決定するための規則となっていて、以下のような章立てになっています。

A.原則
B.事業所レベルでの直接排出の監視
C.ヒートフローのモニタリング
D.電力のモニタリング
E.前駆物質のモニタリング
F.設備の排出を商品に帰属させるための規則
G. 複合商品の具体的組込み排出量の計算
H.データの質を高めるためのオプション措置

こちらについても附属Ⅱと同様、移行期間に学習し、ブラッシュアップするものと考えられます。ただ、明確化と秘密情報に対する配慮は見られました。

附属Ⅲ

A.1 全体的なアプローチ
・「ドラフト(g)で支払われた炭素価格に関する情報報告」削除
・「システム境界外の排出量」において「(c)前駆体の直接間接排出量」が追加
・「透明性」において「事業者の担当者だけでなく認定検証者のような独立した第三者」が削除
・欧州委員会及び所轄庁に提供することができなければならない→報告申告者に開示することができる、へ変更

附属Ⅳは、商品の生産者(事業者)が輸入者(または報告申告者)に報告すべき最小限のデータを規定しています。輸入電力に関する記載事項が追加されていますが、こちらについては4回目で説明済みです。

附属Ⅳ

一般情報の記載事項
・輸入品としての電力に使用される係数において、「欧州委員会の係数と異なる場合は、決定するために使用されたデータまたは方法」を追加

一般的な情報の改善提案
・「電力購入契約における排出係数に関する情報」を追加

セクター固有の報告パラメーター
・粗鋼、鉄鋼製品、未加錬アルミニウムにおいて「プレスクラップの割合」を追加

「プレスクラップの割合」は、抜け道が危惧されていることを受けて、バージン品とリサイクル品の区別ができるようにしたものかもしれませんね。

ということで、5回に亘ってお届けした、移行期間のルールチェック。
いかがだったでしょうか?

EUは、移行期間開始に当たり、ツールやドキュメントを多数用意しています。
また、9月からは、対象セクター毎のウェビナーも開催されますので、今後もタイムリーに情報をお届けしていこうと思います。

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