見出し画像

EU-ETS2030年目標、大幅削減で合意

EU理事会と欧州議会は、12月18日、EU-ETSの改正指令案の暫定的な政治合意に達したと発表しました。

今回の改正は、欧州気候法において設定された「Fit for 55(1990年比で2030年に最低55%削減)」の達成に向け、現行のEU-ETSの削減目標を引き上げるもの。合意を受けて、改正指令案は、EU理事会と欧州議会の採択を経て、施行される見込みです。

欧州委員会は、EU-ETS開始年の2005年比で2030年までに61%削減とする改正案を提案(2021年7月)、EU理解は2022年6月同意していましたが、欧州議会は63%を主張していたところ、間をとって62%削減で合意したようです。

The EU Emissions Trading System (EU ETS) is a carbon market based on a system of cap-and-trade of emission allowances for energy-intensive industries and the power generation sector. It is the EU's main tool in addressing emissions reductions, covering about 40% of the EU's total CO2 emissions. Since its introduction in 2005, the EU's emissions have decreased by 41%. The agreement reached today makes the system more ambitious in order to cut down even further emissions.

EU理事会プレスリリース

2005年のEU-ETS導入以来、EUのGHG排出量は41%減少しており、着実な成果を上げていますが、現行目標43%としているところ、さらに19%上積みしようという「野心的」な計画ですね。

これに合わせて、2024年に9,000万トン分、2026年に2,700万トン分の排出枠を削減した上で、毎年の排出上限の削減率を2024~2027年は4.3%、2028~2030年は4.4%とするとしています。

ETSは、このように「上限(cap)」を設定するとともに、削減のロードマップを明確に示すことにより、予測可能性を担保しつつ、確実な排出削減を目指すシステムです。EU-ETSは、2005年導入から第1、第2、第3フェーズと実績を積み重ねてきた経験が生きていると思います。

現在「自主的な参加」による「自主的な目標」の設定、「自主的な排出削減活動」を基軸として設計が進むGX-ETSは、「ETS」としての機能を有することになるのか、甚だ不安です。

また、カーボンリーゲージの対策として、特定の産業を対象に導入されている排出枠の無償割り当てに関しても、欧州委提案の2035年から1年前倒しし、2034年から100%廃止することが決まったようです。具体的には、このようなスケジュールとなっています。

2026年 2.5%削減
2027年 5%削減
2028年 10%削減
2029年 22.5%削減
2030年 48.5%削減
2031年 61%削減
2032年 73.5%削減
2033年 86%削減
2034年 100%削減

入れ替わりに導入されるCBAMは、すでに政治合意に至ったことは報告済。

今回のEU-ETS改正の暫定合意により、クロスフェードするCBAMの導入時期や年度ごとの導入割合も確定されたようなものですね。

2026年からの無償割り当ての段階的削減と同時にCBAMフェードイン、2034年の無償割り当て廃止に合わせて、CBAMに完全に置き換わります。

今回のEU-ETSの改正では、海運を新たに対象となることも盛りこまれています。MRV規制対象の5,000トン超の船舶に関しては、2024年から検証済みの排出量の40%を、2025年から70%を対象とし、2026年からは完全導入。

5,000トン以下の一般貨物船舶に関しても、2025年からMRV規則の対象とした上で、2026年にEU ETSの対象にするか改めて判断するそうです。

改正はこれだけではありません。ガソリン車などの道路輸送と化石燃料を用いた暖房を利用する建物を主な対象に、EU-ETSⅡという別トラックが設置されるそうです。

ただ、エネルギー価格高騰による家計への影響を考慮し、設置時期を、欧州委提案から1年後ろ倒して2027年からとし、さらにもう1年後ろ倒しすることができるオプションも盛りこまれました。ETSIIの排出枠の価格を安定させるためのメカニズムも併せて導入するとしています。

また、一般消費者に与える影響が大きいことから、こうした一般消費者を支援するための「社会気候基金」の創設でも合意しました。ETSIIの収入を主な原資とし、加盟国もその25%程度を負担。支援内容は加盟国が個別具体的に決めるようです。

とまぁ、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー需給逼迫で、今冬を乗り切れるかというような危機的な状況にある欧州において、ここまでの内容の改正案が合意に至るのは、正直驚きです。

私の座右の銘である、「危機を機会に」を地でいく政策を矢継ぎ早で決定していく欧州、「ルール作りでマウントを取りにいくのがうまいよね」と思っていた自分を戒めずにはいられません。

これからも、ウォッチング続けていきます。


もしよろしければ、是非ともサポートをお願いします! 頂いたサポートは、継続的に皆さんに情報をお届けする活動費に使わせて頂きます。