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韓国の排出権取引市場について(その2)

排出権取引市場(ETS)情報シリーズとして、韓国ETSをお届けしていました。

概要に引き続き、今回は、第1、第2期間を終えた段階での成果、及び参加企業に対して実施したアンケート結果をご案内します。前回同様、IGESのセミナー資料を利用させて頂きます。

まずは、対象事業者の分布を見てみましょう。

事業者数及び割当量は、産業部門が圧倒しています。
全国に分布していますが、やはり、北西部ソウル近辺、及び南東部プサン近辺に集中しています。

IGES 韓国排出量取引制度の動向より

各年度の結果がこちらになりますが、義務履行率:99.7%以上というのは、素晴らしい。対象事業者の遵守意識と制度管理者の執行能力、そして何よりも2010年から5年間実施してきた「目標管理制度」による学習効果の賜物でしょうね。

なお、「認証排出量」とは最終的に事業者が排出した量を表します。したがって「最終割当量」から差し引いた値がマイナスであれば「割り当てが少かった」、プラスであれば「多く割り当てすぎた」ということになります。

また、GDP成長率がプラスであればマイナスに、マイナスであればプラスとなるのが一般的と思われるところ、2020年以外は全て逆になっています。

これが、GDP成長率がプラスであるにもかかわらず、差し引いた値がプラスとなっていれば「デカップリング」していると言え、好ましいとなりますが、分析が必要でしょうね。

いずれにせよ、このバランス、さじ加減が「Cap-and-Trade」であるETS制度の根幹。市場の温度を測りながらの運営が求められます。果たして、日本のように、「自主的なクレジット取引」とするGX-ETSで実現出来るのか、甚だ不安です。

IGES 韓国排出量取引制度の動向より

取引総量及び取引総額は、およそ順調に増えています。単価にについても、一時期のEU-ETS(EUA)のように「価格破壊」状態には陥っていない様子。

IGES 韓国排出量取引制度の動向より

年間の排出量が確定する1月前後、及び前年度の履行義務期限となる4月〜6月に取引が集中する傾向が見て取れます。価格については、やはり取引ですから参加者の思惑も多分に作用します。特に、2021年7月からの反発は、2030年目標を強化することが明らかになったことによるものだとか。

IGES 韓国排出量取引制度の動向より

このように、韓国ばかりを見ていると、多数の問題を抱えているように見えますが、例えば炭素価格についてEU-ETSやCN-ETSと比較してみると、2015年当初の$10/tから2022年で$18/tと2倍程度の変化であり、巡航速度での成長と言って良いかと思います。

まぁ、EU-ETSはETSの先駆者として様々な経験を克服し、それを他山の石とした韓国は、美味しいところを頂いたような気もします。その点は、リスペクトすべきでしょうね。

IGES 韓国排出量取引制度の動向より

さて、対象事業者へのアンケートを見てみると、まだまだ、満足とは言えないようです。ただ、不満足の理由を紐解くと、自由回答として「変動リスク」や「制度方針のぶれ」が上がっていることから、「予測可能性」を問題視・不安視している面があるようです。

他方、満足している理由としては、「企業イメージ」や「意識向上」といった利益とは結びつかないところに留まっている。これが、排出枠の「販売収益」ではなく、本業の「収益向上」につながらなければ、ETSのメリットは生まれません。

IGES 韓国排出量取引制度の動向より

目標達成手段について聞いた質問は、「宜なるかな」というところ。
つまり、大企業は資金力を活かして設備更新を行う一方、人的リソースに乏しい中小企業は、外部の人間に頼っているという結果。

決してこれが悪いということではありません。削減効果という果実を享受した上で、社員の環境意識を高め、社内のコンセンサスを醸成、将来的には社内で人材を育成していけばよいのです。

個人的には、環境問題は環境教育だと思っています。
「誰か」ではなく「誰でも」行動できる。
「社員全員が、プロフェッショナル」を目指しましょう。

IGES 韓国排出量取引制度の動向より
IGES 韓国排出量取引制度の動向より

最後に、改善点について聞いた質問。

先に述べたように、「長期的な視野に基づく一貫した政策方針」が求められています。将来が見通せない状態では、企業は設備投資できません。石炭火力のように、いきなり座礁資産化したらたまりません。ですので、何よりも「予測可能性」を担保すること。まずは、これがありきでしょう。

「制度・マーケット関連情報の一元的な提供による情報ギャップの解消」が求められていることも、同じ文脈ですね。

あとは、「無償割当量の増加」や「支援強化」のような資金的な手当。
ただ、これは、ETSが機能してくれば不要になる話。

日本としては、韓国、中国というお手本がすぐ隣にいます。
今までは先生役だったかもしれませんが、こちらについては生徒です。
頭を垂れて、教えを請いましょう。

世界のETSの仕組みの中に入っていけなければ、損をするのは産業界です。
ロードマップをしっかりと見据えて、GX-ETS構想、進めていきたいですね。

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