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2つの省エネ法~縦割りの影響がここにも

改正省エネ法・温対法については、シリーズで内容をお伝えしてきました。

ここで、省エネ法には2種類あることをご存知の方はいらっしゃいますか?
正式な名称は「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」です。

東日本大震災以降、国内エネルギー需給が逼迫する中、建築部門のエネルギー消費量は著しく増加しており、省エネルギー対策の抜本的な強化が必要であるとの考えから、平成27年7月に新たな法律として公布されたものです。

この法律では、建築物のエネルギー消費性能の向上を図るため、住宅以外の一定規模以上の建築物のエネルギー消費性能基準への適合義務の創設、エネルギー消費性能向上計画の認定制度の創設等の 措置が講じられています。

従来の省エネ法で措置されていた300m2以上の建築物の新築等の「省エネ措置の届出」や住宅事業建築主が新築する一戸建て住宅に対する「住宅トップランナー制度」等の措置が建築物省エネ法に移行されたものと考えてもらってもよいかと思います。

その他、新たに「大規模非住宅建築物の適合義務」、「特殊な構造・設備を用いた建築物の大臣認定制度」、「性能向上計画認定・容積率特例」や「基準適合認定・表示制度」が措置されました。

といっても、難しく考える必要はありません。

新たな投資を検討する際、コストについては、イニシャルコストとランニングコストの2つに分けることが一般的ですが、同様な考え方です。

イニシャル:建築物省エネ法
ランニング:省エネ法

一定規模以上の建築物を新築あるいは増改築する場合の規制が「建築物省エネ法」、維持運用していく場合の規制が「省エネ法」ですから。

さて、シリーズでお届けしていた改正省エネ法・温対法は、エネルギーの定義が変更されたことによる影響について説明をしてきました。特に、新たに「エネルギー」と定義された「非化石エネルギー」が温対法に与える影響が大きく、環境省側で対応が検討されていました。

同様のことが、「建築物省エネ法」の主管官庁である国交省にて行われており、今回簡単にお伝えしたいと思います。

ひと言で言うと、電気の一次エネルギー換算係数が「改正省エネ法」では、これまで使用していた、火力平均係数(9.76MJ/kWh)から全電源平均係数(8.64MJ/kWh)に見直されているところ、「建築物省エネ法」でも同様の見直しが必要か否かです。

また、「改正省エネ法」では「非化石エネルギー」も報告対象となったところ、「建築物省エネ法」で同様に「エネルギー」として算定すると、エネルギー使用量が改正前よりも増えてしまいます。

何故問題になるかと言うと、「省エネ基準」の計算結果が変わってくるからです。この数値が変わってくるということは、法が要求する原単位向上達成遵守義務に影響が及びます。

タイミングが悪いことに、2022年6月の改正により、2025年4月から、建築物の省エネ基準の適合が全面義務化されることになっています。

これまで努力義務だった小規模住宅・非住宅を含め、全ての新築住宅・非住宅が対象となります。

果たして、23年1月25日に開催された「第28回 建築物エネルギー消費性能基準等小委員会」にて「見直さない」ことが決定されました。

第28回 建築物エネルギー消費性能基準等小委員会 資料より

「現行の省エネ基準での対応」を求めてきたこと、及び義務化に当たって「混乱を招かないように対応すること」が理由として挙がっています。

とはいえ、「建築物省エネ法」では、エネルギーについて「省エネ法で規定するエネルギー」と定義しており、このままでは「建築物省エネ法」では相対的に電気の価値が低くなってしまいます。

かつ、省エネ法(温対法もですが)は、総合エネルギー統計の更新タイミングで換算係数の見直しがあります。他方、建築物省エネ法は据え置きが続くのであれば、差は拡大する一方。逆に、見直した際のギャップが大きくなって、混乱を招くことになるでしょう。

ということで、今後の国交省の検討状況もウォッチしておく必要がありそうです。進展ありましたら、ご案内しますね。

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