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排出権取引の現在地

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カーボンプライシングの1つ、排出権取引。世界を見渡すと、EUや中国、韓国、ニュージーランドなど、幅広い国で実施され、着実な効果を上げています。日本で検討されているGX-ETSはど…
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#ETS

台湾のクレジット事情 現状確認

AlliedOffsetsの隔週発行ニュースレター「Policy Carbon Currents」 気になっていたイシューをタイムリーにレポートしてくれるので、非常に助かります。 今回は、台湾のクレジット動向がテーマ。 法規制関係は中国語のみが多いので、とかく情報収集に苦慮するので、めちゃくちゃ参考になりました。 昨年23年8月、台湾証券取引所と台湾当局系ファンドの国家発展基金が共同で、台湾初のカーボン・クレジット市場「台湾炭権交易所」を設立、関連する法整備などを行った後

世界銀行のCPレポート 斜め読み(2)

世界銀行(世銀)が毎年リリースしている、「カーボン・プライシング・レポート」の2024年版が公開されたので、その内容を簡単にご紹介。 1回目は、導入で終わってしまいましたので、今回は、内容を具体的に説明していきたいと思います。 まずは、導入されている国・地域についてみてみましょう。 ICAPのレポートと同様、マップで示されていると分かりやすいですね。 世界では、75の炭素税及び排出権取引(ETS)が実運用されており、過去12ヶ月で2国・地域増加しています。この地図を見て

世界銀行のCPレポート 斜め読み(1)

世界銀行(世銀)は、こちらのダッシュボードを通じて、世界のカーボン・プライシング(CP)の情報を発信しています。 説明をしておくと、CPには次の3つの種類に区分されます。 排出量取引(Emisssion Trading Scheme:ETS)のみであれば、ICAP(International Carbon Action Partnership)も重要な情報源です。 導入されている国・地域がマップやリストで示されますし、排出権価格(Allowance Price)のチャー

インドネシアのカーボン・クレジット市場(1)

ウェブ上で完結するカーボン・クレジット市場を提供しているACX。 毎週発行されるマーケットレポートでお世話になっており、noteでご紹介したことがあります。ご関心のある方は、こちらを参照下さい。 そのACXは隔月で、国・地域のクレジット市場を深掘りしたレポートをリリースしているのですが、今回は「インドネシア」でした。 昨年より、アジア、特にASEANのカーボン・クレジット及びサスティナビリティ情報開示熱が高まっていることから個人的にも注目し、noteでもご案内していまし

中国版S1・S2? ESRS? したたかな戦略

上海・深圳・北京という、中国の主要証券取引所が、サスティナビリティ情報開示ルールのドラフトを公表、コンサルテーションを実施しています。 noteでも繰り返しご案内しているように、昨年ISSBがIFRS S1・S2基準をリリースして以降、各国・地域の規制当局が、それぞれの事情を反映させたS1・S2基準を策定してきています。 日本版は、昨年度末日にSSBJが公開したことが、記憶に新しいところ。 上記に記載がありませんが、香港政府も2024年度から段階的に導入開始し、2026

ブラジルのVCMが熱い?!

昨年、「アジアのカーボン・マーケットが熱い」というお話をしました。 既に稼働している中国や韓国はもとより、台湾やインドネシア、ベトナムで取引市場設立が予定され、インドでも模索しているというものでした。 また、気候変動だけでなく、サスティナビリティ情報開示のインフラを共通化し、統一したESG指標を導入するといった動きも出ていました。 個人的にも、台湾でブルーを創生しようと青図を描いていたところなのですが、地球の反対側、ブラジルでも「カーボン・マーケットが熱い」というお話をお

ASEANにもサスティナビリティプラットフォーム

ブルサ・マレーシア・ベルハド(ブルサ・マレーシア)、インドネシア証券取引所(IDX)、タイ証券取引所(SET)、シンガポール取引所(SGXグループ)は、それぞれのデータ・インフラに共通のESG指標を導入することで、ASEANの持続可能な開発を推進するため、ASEAN-Interconnected Sustainability Ecosystem(ASEAN-ISE)に関する協力を発表しました。 プレスリリースでは、ASEAN-ISEの目的は以下のように謳われています。 こ

VCMに革命をもたらす10のイノベーション(1)

クレジットの創生に東奔西走する私としては、捨て置くわけにはいかないタイトルのレポートを、BeZero Carbonが出していました。 BeZero Carbonは、独立したリスクベースでプロジェクトの品質を評価するカーボン・クレジット格付企業です。 専門のアナリストと独自のモデルにより、ライフサイクルのあらゆる段階に対するレーティングとリスク分析を行っており、その方法論や評価フレームワークが常に公開されていることから、個人的に期待しています。継続的に監視され更新されるのも

中国のETSとVCMの現在(2)

みずほ銀行のレポートを情報源に、中国のETSとVCMの現状をキャッチアップしております。前回は、イントロだけで終わってしまいましたので、今回は、中身に入っていきたいと思います。 ETSとVCMとは何ぞや、について簡単に説明していますので、ご関心のある方は、参考になさって下さい。 さて、前回説明したCCER(China Certified Emission Reduction)から話を始めましょう。中国が温室効果ガスの排出量を削減し、環境保護目標を達成するために設計されたも

中国のETSとVCMの現在(1)

JPXにおけるカーボン・クレジット市場が試行期間を経て、2023年10月11日、華々しくオープンしたことは、皆さんも記憶に新しいところでしょう。 GXリーグも、2022年度の「構想」から実行段階に移りましたし、政府はGX推進法案を採択するなど、2023年は「カーボン・プライシング」元年と言ってよい年だったかもしれません。 GX戦略とカーボン・プライシングについては、noteでも詳しく説明しましたので、詳しくはこちらを参照ください。 さて、そんな2023年も過去のものとな

Voluntaryでも構わない〜結果を出そう

これまで、日本のカーボン・クレジットやETSについては、何度となくお届けしてきました。で、必ずしも、ポジティブな内容でなかったことも事実。 ですが、先日参加したGXスタジオで事務局をされている野村総研の方々や、参画企業及び経産省の方々と意見交換する中で、少し期待値が上がりました。ぎゃくに、「やるじゃないか」とさえ思えてきました。 というのも、これまで、「完全を期す」からこそ、数多の失敗を繰り返してきた体と思います。責任を追及されないように、完成レベルのものを目指すからこそ

CBAM 移行期間は移行期間〜しっかり勉強を

今年23年10月から「移行期間(Transition period)」が開始したCBAM。 第1回目の報告義務期限が来年24年1月31日に迫る中、対象セクター及びそのサプライチェーン企業は、その対応について準備を急いでいることでしょう。 5月から7月まで実施された、移行期間のみに適用されるルールに関する、コンサルテーションが実施された際には、寄せられたフィードバックを分析しました。 このときは、EU域外からのフィードバックに限って内容を確認しましたが、メディアが騒ぐほどの

CORSIA適格ユニットの動き

毎週届く、ACXのメルマガ。 世界のカーボン・クレジット市場動向がわかるので、重宝しています。 ACXとは、2023年1月に設立された、シンガポール拠点のカーボン・クレジット取引市場で、全ての取引がオンラインで完結する完全ウェブベース市場です。ブロックチェーンを活用して取引の透明性と信頼性を担保しており、様々な種類のクレジット取引が可能です。 加えて、UNFCCCによる承認を受けているため、CERを取引できるという利点があります。世界で2番目、アジアでは初の取引所であり、

ETSとカーボン・クレジット市場は違います

このところ「カーボン・クレジット」という名称の知名度が上がり、「なんとなく知っている」という方が多くなってきたように感じています。 また、JPXがカーボン・クレジット市場を開設したために、株式と同じようにマーケットを通じて売買できるということを知った方もいるでしょう。 ですが、市場を通じて(もちろん、相対でもできますが)売買できる「カーボン・クレジット」全てが、EU-ETSを始めとする、ETS(Emission Trading Scheme)でも使用できると思っている人も