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世界銀行のCPレポート 斜め読み(2)

世界銀行(世銀)が毎年リリースしている、「カーボン・プライシング・レポート」の2024年版が公開されたので、その内容を簡単にご紹介。

1回目は、導入で終わってしまいましたので、今回は、内容を具体的に説明していきたいと思います。

まずは、導入されている国・地域についてみてみましょう。
ICAPのレポートと同様、マップで示されていると分かりやすいですね。

世界では、75の炭素税及び排出権取引(ETS)が実運用されており、過去12ヶ月で2国・地域増加しています。この地図を見て、多いと思いましたか?それとも、少なく感じましたか?

2年前、世界のETS動向についてご案内しましたが、当時と比較すると、カナダで導入が進んだことがよく分かります。

また、ブラジルやインド、トルコといったGDPで中位に位置する国の導入計画が進んでいます。炭素税導入検討は、チリやアルゼンチン、コロンビア、ウルグアイで進んでおり、南米の動きが大きそうです。

なお、昨年10月より、CBAMの移行期間が開始されており、報告義務が発生していますが、この影響も見ていく必要がありますね。

続いて、ETSの排出権価格及び炭素税の分布です。
日本は、左から6番目に位置しています。

いわゆる「明示的」な税しか考慮されていないので「地球温暖化対策税」の289円のみとなり、この位置となっています。異論もあるでしょうが、「暗示的」な税や賦課金も含むとすると曖昧になるので、仕方ないでしょう。

見方としては、緑及びグレーでハッチングされている価格帯です。
それぞれ、well below 2℃(WB2)及び1.5℃を達成するために、推奨される、カーボン・プライスのレンジです。

1.5℃経路に合致するプライスレンジがついている国・地域はなく、WB2に合致するものはあるものの、カバー率としては世界のGHG排出量の1%にも満たないとのこと。

レポートは、各国の気候変動に関する公約と政策の間の実施ギャップを埋めるには、より大きな政治的コミットメントが必要と指摘しています。

3番目は、レベニューの推移。
ETSの導入拡大が、全体を牽引していることが見てとれます。

理由はズバリ、全中国の排出権取引制度(CN-ETS)の開始です。
前述のICAPのレポート2024年版に、ETS規模の変遷のグラフが掲載されていますが、2021年から飛躍的に伸びていることがよく分かるでしょう。

排出割当量を超えた場合の緩和措置として、クレジットの使用を認めているかが気になりますよね。それをグラフィカルに示したのがこちら。

認めているのは30で、全体(75)の丁度40%。
つまり、6割のスキームは、認めていないのです。

これは極めて当然な話です。

ETSは全体の排出量(キャップ)を設定し、参画企業に割り当て。キャップを毎年政策的に減少することにより、確実に排出量を削減するシステム。

割当量を超過した企業は、超過しなかった企業から割当量を購入することで義務を達成することになるので、キャップは守られます。

クレジットを認めてしまえば、その分、全体の排出量は増えてしまいます。
ETSの意味がなくなってしまうのです。

ですが、クレジットによる収益は、削減を進めたい国・地域にとっては魅力です。NDC達成のためには、様々な支援、補助が必要ですから。

なので、この折衷案が「国内のクレジットに限って使用可能」という選択肢であり、グラフにある通り、「クレジットの使用可」としている国・地域の殆どが選んでいるという訳なのです。

ケベックやカリフォルニアが、リンクしている制度のクレジットはOKとしているのは、北米にはRGGIを始めとする、州レベルのETSがありますので納得ですし、シンガポールや韓国が海外クレジットを認めているのは、国の規模を考慮すると、宜なるかなです。

最後に、価格の推移について。
個人的には、ちょっとクエスチョンではあります。

除去系クレジット(Removal credits)の需要が高いのは分かりますが、吸収系(Nature based credits)や再エネ系(Renewable energy credits)も同様に高く、ここまで差がつくのは不思議。加えて、除去系のプライスは、高すぎるように思います。

サマリーしか読めていないので、本文を読み込んで、この辺りは自分なりに整理、理解しようと思います。

昨年から今年にかけて、クレジットに関しては、色々な動きがありました。
また、年末には恒例のCOPがアゼルバイジャンのバクーで開催されます。
それに向けて、各イニシアティブやNGO等も、様々な提案や要求を打ち出してくることでしょう。

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