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8話「リゾートマンションに定住する是非」

リゾートが 居心地よくて 住みついて 箱根のお湯に つかる幸せ

 今回の判例は、少し補足が必要です。
本件マンションは、箱根仙石原に、昭和39年、個人の別荘または会社の福利厚生施設として建設され、販売されました。
売買の際、契約書には、長期滞在を禁止する条項は存在しませんでした。
X1は平成8年5月、本件マンションの1室を購入し、X2を居住させましたが、その際も、定住使用ができないとの説明はありませんでした。

平成18年7月のY管理組合の総会で、
①「不定期に保養施設として」使用する範囲を超えての使用を原則禁止する規定
②上記範囲を超える使用者について、通常より高額の管理費等の支払義務を定める規定
を含む本件管理規約が、X1を除く全員の賛成により議決され制定されました。

裁判では、上記①および②の管理規約の設定が、「X1の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当するか否かが争われました。

原審では、X1の請求が棄却されましたが、控訴審(東京高裁)では、一転、原審を取り消し、本件管理規約①および②は本件居室との関係で無効であり、短期使用者の負担額を超える管理費等の支払義務がないとしました。

東京高裁の判断は以下のとおりです。
X1は、同管理規約①が設定されるまで、本件居室を定住を含む住居用として使用収益する法的地位を有していたところ、同管理規約は、X1の上記法的地位を侵害するものといわざるを得ない。
本件管理規約②の設定は、継続使用のみを理由として高額の負担を定めるもので、上記不均衡を是正する目的に沿った合理的なものと認められないから、X1にその負担を受任すべきものとは認めがたい(使用料・頻度に応じて、按分することを基本とするのが合理的である)。

今回のポイントは、X1が売買契約を締結した時には、売買契約書には長期滞在を禁止する条項は存在せず、説明もなかった点でしょう。さらに、X2は約10年居住しており、住居用として使用収益する法的地位を有している。にもかかわらず、新たに定住を禁止する規定を設定するならば、それは、X1の所有権を制約するものである、と判断しました。

管理規約を新たに定めることは、それによって制約される(不利益を被る)人と、利益が保護される人を生み出すことがあります。今回はたまたま、制約される側の少数者X1の権利が保護されました。
ただし、短期滞在者と定住者の間に不公平が存在するのは事実ですから、定住者は合理的な負担は受任すべきと考えます。

 ところで、越後湯沢のリゾートマンションが10万円で売られて、バナナの叩き売りのような状況になっているというニュースを見聞きした方もいるでしょう(※1)。
リゾートマンションは、その性質上、一般的なマンション以上に、管理に関しては無関心で、所有者が管理費や修繕積立金の支払いを滞納するリスクがあります。管理費が払われないことには、やがてエレベーターの保守点検もままならず、共用廊下の電気すら消えたままになり、自慢の温泉も使えなくなる可能性があります。
ましてや大規模修繕なんてできるわけがありません。使われなくなり、興味も持たれなくなったマンションは急速にスラム化していきます。これが越後湯沢のリゾートマンションで現実に起きている現象です。

定住者からは享受しているベネフィットに見合った、適切な管理費を回収するのはもちろんのこと、スラム化を未然に防ぐ、高度な管理組合運営が求められると考えます(※2)。

※1)参考記事
越後湯沢リゾートマンションは「負動産」から「腐動産」へ

※2)越後湯沢ではリゾートマンションの老朽化や利用者減少といった課題を抱えているわけですが、民泊運用、コワーキングや共用リビングスペースの整備など、付加価値を高めることで、資産価値の向上と町の活性化につなげる動きもみられます。

東京高裁平成21年9月24日判決

[参考文献]
大桐代真子『マンション判例百選』108頁

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