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男好きの弊害
私は昔から男好きだった。
この「男好き」という言葉を使うと忌み嫌われたり色んな憶測が飛び交う危険が伴うが、おおむね皆さんの想像する男好きで間違いはない。
未就学児の頃から常に好きな人、いわゆるお気に入りの男の子はいたし、一途でもなんでもなく「なんとなくあの子かっこいいから好き」みたいな生粋の男好きっぷりである。
小学生になってからは学年が上がりクラス替えがある毎に好きな人が変わっていたし、長期休み明けの度に心変わりするなんてことも珍しくなかった。
そんな私が初めて「両想い」を体感したのは、中学3年生の頃である。
その頃流行っていたプリペイドケータイでは、『てきばん』と呼ばれる名前そのままの“適当に打った番号宛ての出会い系メール”なるものが横行していた。
同じクラスのギャルはこのてきばんメールがきっかけで彼氏が出来たり、なんならバージンまで失う始末だったほどだ。
それほどまでに異性と出会う可能性が高いてきばんを、私が利用しないわけがなかった。
「てきばんです!○○住み中3女子です。よかったらメル友になりませんか?」
文字数にも制限があったのでシンプルに目的と身分を伝える内容だ。
非常にギャンブル性の高く、ともすれば犯罪に発展してもおかしくないような遊びだったが、幸いなことに危険な目にはあうことはなかった。
何人目かのメールのやりとりで、長く続いた同い年の男の子がいた。
いつしかそのやりとりはメールだけでは物足りなくなり、電話で話すようになった。
低すぎず高すぎもない男の子らしい声に、当時異性とまともなコミュニケーションが少なかった私は秒で恋に落ちた。
相手も女の子に飢えていたのか、わりとすぐに付き合うことになった。
今思えば、この頃から私はアグレッシブに全国の男を探索するタイプだったのだなと実感する。
付き合うことになってからは、顔を見たこともないのに「好き♡」だの「早く会いたい♡」だのと言うようになった。
私もかのギャルたちと同じように、てきばんで彼ピッピをゲットしたのだ。
そんな高揚感に浮かれていたのも束の間、1ヵ月もしないうちに彼から急に別れを切り出された。
なんの予兆もなく、ただただ気持ちが薄れたとかなんとか。
受け入れる他なく、悲しいんだかなんなんだかわからない気持ちになったが、一応後学の為にどこが悪かったのかを聞いてみた。
すると彼からの返事は
「オナニーとかするん?」
という突然の問い。
え、なに?別れ話にオナニーの話題いる?
「オナニーしてるよ!」って自己紹介がなかったのが原因?
なんだかわからないが、なんとなく「たまにするよ」と返事した。
すると
「俺の事まだ好き?」
男の子とちゃんと付き合ったことがない私でもわかる。
これは復縁要請だ。
というか寝返り、手の平返しだ。
「うん、好きだよ!」と返すと、「わかった!じゃあまだ付き合っとこ!俺も好き!」ととってつけたような好きが返ってきた。
ここまでくれば勘の良い皆さんはおわかりだろう。
後日、珍しく彼の方から電話をかけてきた。
すると「今からオナニーしてくれへん? 」とお願いされた。
当時は今と違ってテレビ電話などなかったので、電話越しのオナニーなんて声や息遣いで察するのみである。
逆にその方が興奮するという説もあるが、それにしても中学生同士がオナ電とはハードルが高すぎる。
こんな日が来るだろうと予想はしていたものの、いざとなるとどうしていいものか迷いが生じた。
しかし、たまにするよと言ってしまった責任がこちらにはある。
責任感には定評のある私は「わかった」と返事した。
「マジで?最高やん、俺もするわ」と宣言され、いざオナ電スタート。
私は自分の股を触ることもなく、喘ぐこともなく、ただただ無言のうちに時間を過ごした。
なぜなら家の電話だったから。
どこで誰がこの会話を聞いてるとも限らない。
相手の声は聞こえなくとも、私の声は聞こえてしまうかもしれない。
そんな恐怖が、私にエアーオナ電という技を編み出させたのだった。
ちなみに相手はなんだか一人で興奮していた。
息も荒かったし、終了のお知らせもあった。
ただ私はそんな彼に「お疲れ様」と声をかけることしか出来なかった。
「声全然出さへんねんな」
と指摘されたときは少し焦ったが、恥ずかしいとかなんとかで言い訳が通用したので良しとした。
このエアーオナ電を経て、彼は私のことが大好きになったようだった。
やたらとメールが送られてくる回数が増えたし、電話しようと誘われる回数も増えた。
とある日は「愛してる」と留守電のメッセージが残っていたこともあった。
私が嘘をついていたとも知らずに。
理由はともあれ、誰かに好かれるというのは非常に嬉しく気分が良いものではあったが、あまりにもオナニーをせがまれるためそのうち鬱陶しくなり、ついには「俺○○連合初代総長になったわ!夜露死苦!」とヤンキーデビューをほのめかすメールが送られてきたためお別れすることにした。
まじ卍である。
「なんで?好きじゃなくなったん?好きなやつできた?もう可能性ない?」
などと質問攻めにあったが、とにかく別れたいという気持ちを滾々と伝え続けたところ了承してくれた。
こうしてオナ電連合初代総長との恋愛は終わりを迎えたのだが、私は懲りずにこの後も何人かの男とてきばんでやり取りをすることになる。
付き合ったり会ったりすることこそなかったが、まるで手当たり次第にナンパしまくる元気なキャッチみたいだなと振り返った今思う。
男好きのアグレッシブな行動というのは、ともすればより多くの男性と出会い見る目を養うことが出来る有益な手段となるかもしれないが、うっかり仲良くなった相手にオナ電を要求されるとも限らないので注意も必要である。
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