膨張する月

 夜、眠っている時に私が見る夢は、大多数の人と全く異なっているようです。
 まるで朝目が覚めた瞬間に夢の世界が一時停止され、目を閉じて眠るとそれが再生される感覚です。ひどく疲れていれば夢を見ないこともありますが、次に夢を見る時、夢の中の時間・空間は前回とそっくりそのままなのです。
 人々は、夢は基本的に断片的で不条理であいまいなものだと当然のように言います。オーストリアの精神医学者フロイトは、夢は願望充足の表れとも主張していたらしいです。


 私には、空を飛んだ、友人に殺された、大金持ちになったなどという支離滅裂な夢の話をする人が理解できません。夢はこんなにも整然と秩序立って、もう一つの日常として私の目の前に現れるのですから。
 ただし幼少からずっと不思議に思っていたのは、私の夢には月が全く登場しないということでした。


 いえ、あの頃は月が粒子同然で目に見えていなかっただけだと、私はのちに気付くことになります。
【続く】

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