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敗軍の将

今、横浜へ向かう新幹線の中に居る。目的はアパートの処置だ。昨晩に決めてすぐさま決行に到ったのだ。しかも母親にただ一言告げただけの決行だ。つくづく直情的で短絡的な人間だと思う。結局無重力の人生なんだろう。
今朝になっていつもの優柔不断がフラッと顔を覗かせたので、「これはいかん」と思い、すぐさま支度に取りかかった。
同じ町内に住む幾人かの知人には悪いが黙って出ていくつもりだ。挨拶に寄ろうかと少々迷ったが、今回は凱旋などではなくむしろ撤退に近いのでよそうと思う。敗軍の将が敗色濃厚で帰陣した折りに
「では、そういうことなので」
とだけ報告して故郷にすごすご逃げ帰って行く惨めさに僕は耐えられない。
実際問題敗けてしまったのだから、いっそのことどこまでも道化のように振る舞うのも粋なのかもしれないが。ただ義理や形式的な儀式にとらわれるのだけはごめん被りたいのだ。惨敗である。
これからの挙動を聞かれると返答に困ってしまうのも理由の一つだ。それは10年も経てばぼちぼち考えようかと思う。決して遅くはあるまい。金が掛かるわけではないのだから。

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