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写真で導く旅の記憶(4)大賀ハス(2012年)

押し入れやハードディスクの奥深くに保存して、滅多に見ることのない「昔の写真」。引っ張りだして当時に想いを馳せるこのシリーズ。今回は国内の写真です。

古代の種から蘇った世界最古の花、大賀ハス

「大賀ハス」(おおがはす)は、千葉県の県庁所在地、千葉市にある東京大学検見川総合運動場(旧 東京大学検見川厚生農場)内で毎年見事な花を咲かせる、千葉県の天然記念物です。

千葉県には多くの遺跡がありますが、縄文時代の落合遺跡(おちあいいせき)で発掘された2000年以上眠っていた種から育てられたのが、世界最古の花と呼ばれる「大賀ハス」です。

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もともと蓮の花は大好きで、朝早く家を出て、出社前に上野公園に見に行ったりもしていましたが、見る専門ですので、この写真を撮影した当時は「遺跡から発掘されて、育てられたハス」ぐらいしか「大賀ハス」については知識がありませんでした。

今回、改めて詳しく調べてみました。

大賀ハス、発掘の経緯

大賀ハスが咲くところからほど近い、旧東京大学検見川厚生農場の敷地内では戦時中から燃料不足を補うため、「草炭」(そうたん)を採掘していました。

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水中や湿地帯に生えた植物が次第に枯死して堆積し、状況が揃う(酸素の供給が不十分な)と、不完全分解して形成される。それが「草炭」です。

「草炭」に近く皆さんも聞いたことがあるのは「ピートモス」でしょうか。「ピートモス」は保水性や通気性に富む栽培用用土として売られており、我が家の庭ではブルーベリー栽培などに活用しています。また、スコッチウィスキーの製造過程では、発芽した麦芽を乾燥するための燃料として、香り付けを兼ねて使用されます。

話が逸れてしまいましたが、戦後も「草炭」発掘は継続され、作業員がたまたま1隻の丸木舟と6本の櫂(かい)、そして蓮の果托(かたく:花をつける枝の先端で、花の各部が着生する緑色の部分を花托といい、花弁が落ち茶褐色になったものを果托という)を1947年に掘り出しました。

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蓮の果托が発見されたのであれば、蓮の実も発見されるに違いないーーー

ある理学博士の執念ともいえる情熱に動かされ、近隣住民の協力により、掘り出した土をふるいにかけるという気が遠くなるような作業がはじまります。そして作業を始めた1か月後(1951年3月30日)、手伝いに来ていた女子中学生が一粒の蓮の実を見つけました。

大賀ハスの名前の由来

その一週間後には二粒発見され、合計三粒、東京大学の大賀博士により発芽処理が行われ、その一粒目が現在観賞している「大賀ハス」に育ちました。

そう、「大賀ハス」の名前の由来は、泥の中から小さな蓮の実を見つけようと動き出した、理学博士の苗字です。

大賀一郎博士(1883-1965)は古蓮(これん)、開花時の音(ポンッと音がするそう)など幅広く蓮の研究をしており、古代蓮である「大賀ハス」の発見によって「ハス博士」として広く知られることになります。

古代蓮は友好と平和の使者

「大賀ハス」は、政令指定都市となった千葉市の花として、また友好と平和の使者として、国内外150か所以上に植えられています。

国内の「大賀ハス」を見ることが出来る場所は、千葉市の公式サイトにリストがありますので、是非、家から近いところを探してみてください。

千葉市:全国のオオガハスが観られる場所

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千葉公園の弁天池にある「大賀ハス」の見頃は6月下旬から7月上旬です。平時には毎年行われている鑑賞会(「千葉公園・大賀ハスを観る会」7月上旬)では、象鼻杯(ぞうびはい:蓮の葉に飲み物を入れ、茎の切り口から飲むもの)も楽しめたそうです。

また、同じ千葉市内でも県立幕張海浜公園見浜園の「大賀ハス」は、開花が少し遅い(7月上旬から中旬)ので、見逃してしまった場合は別の場所に行ってみるのもよいですね。

初夏の清涼を感じる大きく清廉なハスの花。是非また見たいです。その頃には何の心配もなく鑑賞に出かけられるような、世の中に戻っていることを願わずにはいられません。


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