交代読み剣の舞

在宅勤務だと仕事の切り上げに際して身体的な拘束を喰らうことがあり得ないので助かる。今のところおれは助かっている。今後助かる保証を生贄に今を助かっているのだ。肝心の今後の保証の金額は確定しない、つまり無限なので今に借金をし放題ということだ。命のぜんまいは摩耗するほど気持ちよいらしい。

酒気が抜けるまで家に帰れない。2週間ほど前に深夜の自転車運転中眠りこみ、10分ほど無意識でペダルを漕いでいた経験から俺ですら慎重になっているのだ。もう少し前に同じく自転車運転中、おまわりに自転車登録番号のチェックを受けた。お仕事帰りですか、ときかれ短パン姿のどこがそう思わせるのかと半ば憤りながら飲みの帰りです、と答えた。育ちがいいからとっさに出る答えも正直そのものなのだ。当然、酒気帯び運転で軽く注意を受けた。屈辱のうちに家までのたった10分間を自転車を押して帰った。善良なばっかりの10分間の負債であった。些細すぎることにまた腹が立つのだった。

今のところおれは助かっている。万人、助かればいいと思う。育ちがいいからいまは寛容なのだ。キリスト教系の学校も出ているからなおさら。わたしも周りもまだ猿だった頃、右の頬を打たれたことがありその時はすかさず助けを呼んだ。君子危うきにチカチーロ。大学一年のとき文化人類学のレポートで食人文化について書いたとき「まさに、人を喰った話であった」とオチをつけて「可」をもらった恥を背負って妻子を養っていかなければならない。恥の多い人生を生きてきたものだった。

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