『空で竜と戯れる彼女のこと』【掌編|おねショタ】
「お空には竜がいるのよ」
そんなものいないよ、と幼い僕は唇を尖らす。
オトナの彼女は微笑んで、すいと初秋の空を指す。
「薄く流れた綿雲はね、竜が飛んで出来た軌跡なの。
いつだって見守ってくれているよ」
誰にも分け隔てなく優しく降り注ぐその眼差しが、潤む。
空に融けて消えたいと願うように。
離婚を機に父と遠くへ越した彼女の噂は、隣の家だったよしみで僕の耳にも入ってきた。酒乱の父に耐えかね、男と駆け落ちしたとかしないとか、ともかく失踪したのは確からしい。でも僕は知っている。竜が、彼女を攫ったんだ。
今でもふと、秋の空を見上げて祈る。
おうい、竜よ。あの優しい人を守ってくれよ、
僕がそうできなかった分まで。
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