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小暑;第31候・温風至(あつかぜいたる)

都心の氏神様の杜で蝉の声をこの夏初めて聴いた 境内の小さな畑では藍が青の滲んだ緑濃い葉を広げてきた 

月桃の花も咲いた

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この日はまっすぐ南下し 三浦半島へ向かった お庭の現場の下見

今まで馴染みがなかった土地だけど

「半島」という響き 海に迫り出しているというだけで魅力的だ

しかも地質学的にかなりユニークな土地 何十億年も前に差し込まれたフィリピン海プレートと太平洋プレートによる鬩ぎ合い 大きな襞 皺 あちこち裂けたヒズミのような場所 

地球の古層が街中の駐車場などに剥き出しになっている 古代が露出している

このシマシマやフラクタルなアヤが 海で生きていた未分化の時代を思わせる


海南神社界隈は小洒落たお店とお魚屋さんや漁師の家や宿などが入り混じっている。梅雨の中休み、久しぶりの陽光に磯の香りも濃い

街の住人たちも家族で道に出て普通におしゃべりに興じていたり 子供たちが猫をかまっていたり 友達同士はしゃいだりしている 境内も遊び場の一部となっているようだ 懐かしい感じもするけど まるで異界 安っぽい色の 破けた水風船のゴムが ひび割れたアスファルトに散らばっている


夏 お盆のせいだろうか 

僕と街の人々の笑顔に距離があり 

間に死者たちがいる

目が合っても逸れる刹那に 外れた目の先に 浮遊している影の気配がある


この入江は タイムスリップした 

彼らが風待ちをするような土地なのかもしれない

それで地層はいつも何か言いたそうなのだろう


今笑っている人々も 間も無くこの地層になる



半島の小高いところは西瓜や南瓜などの畑があって 道端に何軒も小屋がある

西瓜が何十個も棚に並べられている 南瓜も 胡瓜も 茄子もある

そう お盆の棚にのる 風物詩


北へ向かう帰り道 海と陸の間に大きな夏雲が出ていた さっきの神社の狛犬がいくつも合体したような 大きな獣のような雲 地球のあくび 


渋滞した高速道路を走っていると

後ろから ブンブンブンブン ブンブンブン と 蜂のような音がしてきて

アクセルを吹かし 蛇行しながら走る派手なバイク集団が 走り抜けていった 

彼らはさっき街中にいて 駐車場に整然とバイクを並べてご飯屋さんにいた とてもきちんとしている 

高速道路でも 安全帯で後続を待っていた彼ら 合流して一緒に追いついてきた 

駆け抜けていく様は 映画のようだった 

ちょっとしたはみ出し 粋がり 半島 

「リバティー」を標榜した背中を見送った


温風至る 

確かにそんな モンスーンな日だった






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