(髪を)切るべきか伸ばすべきか、それが問題だ。

 私は、髪を切るのが得意ではない。セルフカットも下手だし、切られに床屋に出向くのもあまり好きではないのだ。セルフカットが下手というのは、ままある事だと思う。だからこの問題というのは、勇気を振り絞って床屋に行くか、廃屋を巣食う蔦のように伸び放題伸ばしておくか、という問題なのである。
 何がそこまで私を床屋から遠ざけているか、ちょっと考えてみるだけでいくつか思いあたる。
 まず、予約の電話である。今時スマホさえあればアプリから電話なしに予約できますよ、なんてそんなことは私も知っている。いよいよ髪を切らねばどうにも格好がつかない、という事態に陥るまで”髪を切る関連のこと”について一切考えないため、そのようなサービスを利用しようという気にはならないのだ。いざ電話をかけようと思うにも、いくつかの段階を踏まねばならない。一呼吸を置いて、言うべき内容を頭のなかで考え、復唱する。第一声をどうするかも難しい。「もしもし、(床屋の名前)ですか」と尋ねるのが個人的なセオリーなのだが、相手が先手を打って「はいもしもし、(床屋の名前)です!」ときたら為す術がない。予約をする際には、自分の名前やら性別やらを伝える必要もある。まずもって、私の名前は大変言いづらい。特に苗字では同じ母音が続くため、言い損ねるし聞き返されるなんてこともある。自分の身分を明かす際にも、大変苦労する。簡単に「男子大学生です」と言えたら楽だろう。しかし私の場合、自分のことを「男子大学生」という男子大学生がいたらおかしいだろうか(きっとおかしくないのだが)、また大学生にもなって自分のことを「男子」なんて言うのはちょっと気が引けるよなぁ(これは本当に気が引けるので「男なのですが……」で通している)、とか、とにかく余計な心配ばかりしてしまうのだ。
 そういうわけで、とにかく予約の電話が憎い。しかし、予約を済ませてしまえばあとはラクチンかというと、全くそんなことはないのだ。
 床屋に行けば年に数回しか会わない美容師に約1時間ほど身を委ねる必要があるわけで、私にとってそれは約1時間ほどの緊張状態が約束されるも同然なのだ。それにしても美容師というのは、謎の圧を持っていると思う。床屋では、美容師の言うことが絶対なのだ。私の場合、例えどれだけ仕上がりが酷くても「直してください!」なんて言えない。仮に髪を切る過程で間違えて耳をちょん切られたとしても、私は何も言えないだろう。そのまま「いい感じです、ありがとうございます」と言って、きっちり料金を払って床屋を出たその足で自力で病院へ向かう。病院で「何があったんですか」と尋ねられた私は、控えめに「床屋で、ちょっと……」と言ってしまう。
 このような理由から、私にとって「髪を切りに行く」というのは非常に難しい問題と化しているのだ。もしこのnoteを読んでくれた人がいたなら、ぜひ教えてほしい。どうしたらセルフカットの腕が上達するのかを。
 


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