見出し画像

新月のように

時計の針は、もうすぐてっぺんを指すところ。
今日も希死念慮と闘う時間がやってきた。丑三つ時の幽霊なんか怖くない。一番怖いのは孤独だ。

昼間は誰かと一緒に過ごしたり、賑やかな店舗に入ったりして、何となく孤独をごまかしながら生きている。しかし夜になれば皆各々の家庭へ帰っていき、店は続々と閉店していく。否が応にも、1人になる時間が魔物のようにひたひたと迫ってくる。

親元を離れ、見知らぬ土地で一人暮らし。誰にでも弱みを見せられないまま大学を卒業し、当時の友人や先輩後輩とは疎遠になった。

スマホのメッセージアプリを開く。母から生存確認と近況報告が来ていた。「元気だよ」と返信した。それ以上は言葉にできなかった。

他の誰かにも連絡できなかった。別に特別用事があるわけでもないのにメッセージを送ってもいいものなのか。そもそも何てメッセージを送ればいいのか。ぐるぐると考えて、結局送らなかった。まあ連絡したところで、誰からも返事は来ないのだから。

あの人ともっと仲良くしておけば良かった。あの人と連絡先を交換しておけば良かった。こういう時に繫がりの希薄さを思い知らされる。無力な自分を責め、あの時の後悔を募らせていく。

今の自分は、誰にも認識されていないのではないか。
部屋の照明も付けず、真っ暗な部屋に溶けるように、ただ泣いた。

傍には、夜の暗闇に飲まれてしまわないようにと、いつか買った月の形のランプ。スイッチに手を伸ばす気力もなかった。光らなければ、それはただの黒く丸い物体。自ら輝くこともなく、光に照らされることもなく、ただそこにあるだけの存在。

誰にも見つけてもらえない、誰にも気づいてもらえない。
私はまるでこの月のようだ。
新月のように、今夜も誰にも認識されないまま。ただここにある。
                  text/みく

-----------------------------------------------
こもれび文庫では皆さんからの投稿もお待ちしております。掲載する際にはこちらからご連絡いたします。
*投稿先
こもリズム研究会
メール comolism@gmail.com    
購入はこちらから
https://forms.gle/kZb5jX4MrnytiMev5
                              

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?