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読書ノート「料理と利他」土井善晴・中島岳志著

 


 土井先生大好きなので買った本。ずっと気にはなってたんだけど、なかなか後回しになってしまっていた。ある日、ラジオで中島先生が出て「利他」について話していて、その話の内容もすごくおもしろかったし、先生の人柄もすごく良かったのでこれは絶対面白いと興味をもったという流れ。

 土井先生の教養の深さ、広さ、経験の多さ、そこにおごらない人柄の上品さと寛容さ、素直さ、なんかがあふれている。
 料理番組を見ていると「こんなんね、ええ加減でええんですよ。野菜が嬉しそうでしょ?」って感覚で料理している、適当な人って感じもあったけど、それはすべてこういう教養や経験を土井先生なりに統合、編集して、それを土台にした感性から言われていることばなんだなあ。


〇「たべるーつくるー地球」のつながり
今の世の中は、つくる人のことは置いておいて、お金を出して食べる人のことをご意見番のように持ち上げる風潮がある。

〇西洋と東洋の違い
 西洋の文化は科学的で数字が好きできっちりと自然をコントロールしたいという姿勢がでる。東洋は感覚を大切にして自然の良さを引き出す方法を大事にしている。だから季節や環境で「いい加減」というのが違ってくるというのは料理にも当てはまってしっくりくる。

〇「芸術」と「民藝」との違い
 「ハレ(非日常)とケ(日常)」だったら、アートはハレ、民藝はケ。日々の暮らしを真面目に営み、結果として美しいもの(暮らし)がおのずから生まれてくるという考え。「家庭料理は民藝だ!」と発見したらしい。
 「使われることを前提に大量に作られて、庶民が淡々と仕事をして作り出す民藝品は、何か美しいものを自分の名前で作ろうとするよりも、自分の無名性、阿弥陀の本願という阿弥陀仏の力がやってきて、他力というものが現れる」っていう中島先生の、柳宗悦が惹かれていた浄土宗、一遍の時宗に絡めた説明もすてき。これが「利他」につながるのだけど。

〇真美善
「きれい」という言葉は人間にとって大切な「真善美」を一言で表したもの。「嘘偽りのない真実」「悪意のない善良なこと」「美しいこと」
「きれい」「汚い」は日本人の倫理観そのもの。

〇民主主義にとっても真善美=日本人の倫理観は大事
 大正デモクラシーのころに吉野作造が普通選挙を導入してみんな選挙にいくべきだという主張をしたときに、無学な人、文字が読めない農村の人たちが政策判断できるのかと批判を受けたとき、「そりゃ政策判断できないでしょう。しかし辻説法している政治家を3分間ずっと見ていたらその政治家がどういう政治家か判断できます」と言った、これが料理の面構え、倫理観にもつながるのではないかという中島先生の話。すてき。

〇料理する行為そのものが愛情。料理すること=すでに愛している、料理を食べる=すでに愛されている

〇土井先生はいろんな人の本を読んでいる。
河合寛次郎、岡潔、養老孟司、石川九楊、ハンナアーレント、中村桂子・・・

〇本の後半は実際に土井先生が料理を作り、器についても説明している。とにかく土井先生の魅力にあふれていて、その魅力がどこからきているのかバックグラウンドがわかる本。

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