読書ノート:「大聖堂」レイモンド・カーヴァー著 村上春樹訳
ものすごーく繊細で完成度が高い短篇集。
その場所の温度や匂いや緊張感まで伝わってきそうな情景の描写があって、そこから自ずと人間の感情が浮かび上がってくるような文章。
帯にある「絶望の淵のひとしずくの救い」ってフレーズに惹かれて買ったんだったけど、本当にその通りの作品ばっかり。
絶望の中で見えるか見えないかの光を頼りに一歩ずつ進むしかない日々。
解説の村上春樹さんの文章もすごく雰囲気があって好き。
印象に残った3つの短篇
①コンパートメント
家庭がうまくいかず、おそらく彼の暴力なんかもあって、疎遠になっていた息子に会いにいく男の話。
電車に乗って行く中で、自分がちょっと席を離れた隙に時計とかが無くなって同席した男を疑ったり、良くないことが起こるうちに、急に気づくとこがおもしろい。
「考えてみりゃ息子になんか会いたくもなかったんだ」
いい父親になろうと頑張ってみたけど結局むりだし、って気づく瞬間。あるよなそういう時。
②ささやかさけれど役に立つこと
痛くて不条理で悲しい出来事が起きた夫婦が、その先に出会ったあたたかくて小さな光。
あるところから誰の台詞も無くなるんだけど、ただその3人がいる情景、出来事を淡々と描くなかで伝わってくる温度や部屋の明るさ、人の声。とにかくすごい。
「よかったら、あたしが焼いた温かいロールパンを食べてください。ちゃんと食べて、頑張って生きていかなきゃならんのだから。こんなときには、ものを食べることです。それはささやかなことですが、助けになります。」
③大聖堂
妻の友だちで盲人の男性が家に訪ねてくるのをあんまり気乗りしないで迎える男性の話。
彼の硬い態度とは対照的に、柔らかい態度で心を開いてくる友人にだんだんと打ち解けて行く男性。最後がすごい。静かな大きな感動。
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