「化学メーカー『石化再編』に独禁法の壁 脱炭素化が突破口」に注目!
化学メーカー「石化再編」に独禁法の壁 脱炭素化が突破口 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
「(石油化学事業の)再編について、今までとは各社の本気度が違う」「見通しは立てにくいが、再編に向けた機運が高まっている」――。最近、化学業界を取材していてよく耳にするのが、「石化再編」という言葉です。
このところ、大手化学メーカーが、プラスチックなどの石油化学製品を製造する石化事業で軒並み業績を落としています。国内の需要が縮小していることに加え、中国で汎用品などを造る大型プラントの新増設が相次いでおり、供給過多などによりアジア地域での市況が悪化。収益力を維持できない状況が続いているからです。化学大手は、こうした状況を一過性のものではなく、この先も続くと見て、競合他社との再編を模索し始めています。
そこに立ちはだかるのが、独占禁止法(独禁法)の壁です。石油化学製品のサプライチェーン(供給網)の上流には、自動車や半導体などの様々な部材の基礎原料となるエチレンがあります。このエチレンの製造設備(ナフサクラッカー)は現在、国内では9社で12基を運用しています。内需に対して過剰な設備となっているナフサクラッカーを、各社足並みをそろえて稼働停止し、どこかの設備に一本化するなどの「集約」に動けば、独禁法に抵触する可能性があります。
ところが、石化再編で化学業界が直面する独禁法の壁は、脱炭素化という別の側面から突破できる可能性が浮上してきています。日本の産業界において化学産業は鉄鋼業に次いで二酸化炭素(CO2)を多く排出しており、中でもナフサクラッカーは最大の排出源となっています。世界各国でカーボンニュートラル実現に向けた取り組みが進む中、大手化学などはナフサクラッカーの低炭素化をはじめとしたCO2排出量削減に向けて取り組まなければならないという共通の課題感があります。
この脱炭素化の取り組みを前面に掲げ、他社との連携を深めようという流れが生まれています。2024年に入り、東日本地域では住友化学・丸善石油化学・三井化学が、西日本地域では旭化成・三井化学・三菱ケミカルがそれぞれ3社連携し検討開始を表明しています。
設備の脱炭素化に向けて、例えば、ナフサクラッカーに使用する石化燃料をアンモニアなどに転換したり、原料をバイオ由来のものに転換したりしようとすれば、大型投資が必要となり、1社で取り組むには限界があります。そこで、複数社で新技術を共同開発し、原料などを共同で調達するなどして最適な生産体制を構築し、効率化を図ろうとしています。その結果として、既存の生産設備を廃棄(集約)することになるというのは、自然な流れと言えそうです。
公正取引委員会も、脱炭素化を前提とした取り組みを後押しする姿勢を見せています。2023年3月には、政府が推進するグリーン社会の実現に向けて、ガイドライン「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」を策定。化学業界を中心に独禁法に関する相談が多く寄せられていることから、2024年4月にガイドラインを改定し、具体例などを挙げて、脱炭素化を進める上での独禁法の考え方をより明確に示しました。
ここで、同ガイドラインで紹介されている生産設備の共同廃棄の例について見ていきましょう。「商品Aの製造販売業者X、YおよびZの3社は、商品の製造過程で排出される温暖化ガスの排出量削減のため、既存の生産設備を温暖化ガス排出量が少ない新技術を用いる新たな生産設備へ転換することをそれぞれ検討していた。そこで、3社は、業界としての足並みをそろえるため、それぞれ独自に判断することなく、相互に連絡を取り合い、既存の生産設備を廃棄する時期や廃棄する生産設備の対象を決定した」という例です。
原則として、重要な競争手段である生産設備の廃棄時期や対象を、競争者と共同で決定する行為は、独禁法に抵触します。ただし、その場合であっても、ある条件を満たせば、独禁法上の問題にならないともガイドラインは示しています。脱炭素化に向けた設備更新のために必要な廃棄であり、技術開発などのために必要な共同の取り組みで、競争制限を目的としない、他の代替手段がないなどの条件が認められれば、独禁法には抵触しません。
化学メーカーからは、「脱炭素化で(再編に向けた)話し合いが進めやすくなりそうだ」という声も聞こえてきます。複数社での話し合いには、弁護士を同席させたり、公正取引委員会に出向いて細かく相談をしたりしながら議論を進めているといいます。
化学業界はこれまでも様々な再編を繰り返してきましたが、今回ばかりは中国の影響が特に大きく、未曽有の難局を迎えています。これに立ち向かうべく、化学大手は2024年度内には再編に向けた何らかの方針を提示する意向を示しています。脱炭素化がドライビングフォース(駆動力)となり石化再編が進むのか、その動向を注視します。
旭化成は中期経営企画において、マテリアル領域の石油化学関連は収益安定化を優先し、付加価値の高い事業の構成比を高めるように、事業ポートフォリオの転換をしています。さらに、今年の経営説明会において、石化市場環境の悪化は不可逆的な変化と認識しており、石油化学チェーン関連事業の構造転換の検討を加速し、中計残り1年で事業ポートフォリオ変革を加速する意思を示しています。中でもベストオーナー視点での改革では可能な限り早期の効果創出を狙うとあり、これからさらに加速していくことが期待されます。
様々な事業を行うことで成長してきた旭化成の、今回の改革も期待しています。
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