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「エーザイ認知症薬レカネマブ発売 適用患者『1%』のなぜ」に注目!

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK14DPW0U3A211C2000000/

国内製薬大手エーザイが米製薬会社バイオジェンと共同開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ(製品名レケンビ)」が20日、日本でも発売されます。高額医薬品として高い関心を集めた薬価(薬の公定価格)は年間約298万円(体重50キロの人の場合)と想定の範囲に収まりました。

一方、意外だったのがエーザイが予想する適用患者数です。ピークとなる2031年度でも年間3万2000人。アルツハイマー病の早期段階や発症に移行する前のMCI(軽度認知障害)の患者数は潜在分も含め200万〜540万人とみられており、これでは適用は1〜2%ほどにしかなりません。

国民皆保険からなる日本の医療では、新しい医薬品が厚生労働省によって承認されると、原則、どんな薬も薬価が決まり保険収載されます。この1年近く、厚労省の保険局を中心に、レカネマブの登場が医療財政を逼迫させる高額医療費問題に発展しないよう、慎重に検討を重ねてきました。

年間1500億円以上の市場規模が想定されることから、厚労省の中央社会保険医療協議会(中医協)の部会において特例扱いするかどうかも議論しました。結局、通常通り、類似薬のない場合に用いる原価計算方式で算出することになりました。エーザイが求めてきた介護負担などの軽減につながる「社会的価値」(投与1人当たり年間約468万円)への評価は見送られました。

米国では医薬品の価格はメーカーが決めます。最新のバイオ技術を使った薬はまず米国で使われ始めることが多く、日本の薬価は一般的には1、2割ほど低くなるとされてきました。今年1月に米国で発売された際のレカネマブの価格は年2万6500ドル。当時の為替レートで換算すると約350万円で、約298万円という薬価は順当でした。

高額医薬品の医療財政の影響を考える上で、薬価とともに考慮しなければならないのが予測する販売量です。これまで治療に数千万円かかる超高額医薬品もいくつか登場しましたが、患者数が限られた病気を対象とするものが多かったとのことです。

認知症は65歳以上の5人に1人がかかる病だけに、レカネマブの登場で薬価や想定患者数によっては数千億円から1兆円近く医療財政に負担がかかるとの懸念もありました。

結局、レカネマブについては厳格な「最適使用推進ガイドライン」が設けられました。かかりつけ医による問診などで認知症が疑われると、専門医によってMRIなどを使ってアルツハイマー病の確定診断となります。その後、陽電子放射断層撮影(PET)でアミロイドβが一定量たまっていることが確認されれば、ようやく適用となります。

治療は2週間に1回、専門病院での点滴です。通院は1年半続きます。脳のむくみなどの副作用が出ていないかどうかも定期的にMRIでチェックしなければなりません。

岩坪威東京大教授は「適用患者を選別するには数倍もの(PETなどによる)スクリーニング検査が必要になる。エーザイが予測する年間約3万人という数字もかなり高い目標だと思う」と話します。

長年、アルツハイマー病は決め手となる治療法はありませんでした。診断までは医療が担うものの、その後は介護が担当するというのが一般的です。およそ3000人いる専門医も神経内科学、精神医学、老年医学と、バックグラウンドも違います。

日本認知症学会はレカネマブの使用を想定している医師向けに研修を始めていますが、すぐに治療にあたれる専門医も医療機関も限られているのが現状です。

有力科学誌の米サイエンス誌は、2023年の10大科学ニュースにレカネマブによるアルツハイマー病治療の進展を選びました。久々に登場した日本発のイノベーション。しかし、その良さを医療現場に生かすには日本の薬価制度や診療体制が追いついていません。認知症患者やその家族が望めば治療を受けられるようになるのは当分先だろうとのことです。

エーザイは米国に次いで日本で12月20日にレカネマブを発売します。記事にあるように適用されるまでハードルがありそうですが、今後、認知症薬のニーズについてはほぼ確実に上がると考えられます。また、各社が認知症薬の開発を続けている中、患者に届く機会も増えてくると思います。今後も、エーザイの患者や家族によりそう想いに期待しています。