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「セブンPB、アリアケジャパンが挑んだ『プロジェクトX』」に注目!

セブンイレブンの「セブンプレミアム」、アリアケジャパンが挑んだ「プロジェクトX」 コンビニ大全⑧ - 日本経済新聞 (nikkei.com)

コンビニエンスストアにとって「魔の10年」と呼ばれ、成長の壁にぶつかった2000年代。それは育ち盛りの若者客を中心につくり上げてきた従来型モデルの限界であると同時に、新しい顧客層が生まれつつある胎動の時期でもありました。

その転換を象徴するようにセブン―イレブン・ジャパンのキャッチフレーズも様変わりしました。深夜や緊急時の利用をイメージする「開いててよかった」から、より生活者の日常的な利便性を重視する「近くて便利」へのシフトです。

セブンイレブンを軸にしたグループのプライベートブランド(自主企画=PB)商品「セブンプレミアム」はこの流れを実践し、コンビニ再成長の起爆剤となっていきました。

セブンプレミアムには日本ハムや味の素、日清食品などPBに関心の薄かった大手食品メーカーが参加し、PB=低価格というイメージを変え、新たな「コンビニ経済圏」を育みました。同時に、これまで表舞台に出てこなかった実力企業の能力が再評価され、新たな成長機会をつかむことになります。

代表的な企業の一つがアリアケジャパンです。料理のだしやソースのベースとなるブイヨン、コンソメなど味の基本となる調味料を手がけるメーカーで、主に食品メーカーや外食企業に製品を供給しています。「食のインテル」との異名をとるぐらいです。

ある時、アリアケの工場で具入りスープの充塡ラインを見学したセブンイレブンの担当者がその高い生産レベルを評価し、「西日本向けの『セブンプレミアム』の肉じゃが」を作ってもらえないかと打診しました。

アリアケは試作に着手します。できあがりの評判は良かったですが、和風だしにしょうゆと砂糖で味付けをするだけの「肉じゃが」ではアリアケの強みを生かせないと感じていました。セブンイレブンに説明して受注を断ったところ、「ではどんなメニューなら生かせるのか」と問われ「ビーフシチューなら」と答えたところ、セブンイレブンは即座に試作を依頼したのです。

なぜセブンイレブンはアリアケとの取引にこだわったのでしょうか。

そこにはセブン&アイ・ホールディングスを率いていた当時の鈴木敏文会長らによる、PBに対する発想の転換がありました。「食のポジションをどう確立すべきか」。和洋中の食のプロと話していくうち、たどり着いた結論は「ブイヨンやだしなどを使い、味のレベルを上げる」ことです。実現に向けて白羽の矢が立ったのがアリアケでした。

2010年2月、ビーフシチューの試作品を作り上げ、セブングループの試食会でも好評を得ました。そして想定価格を尋ねられます。この品質ならば、ホテルや専門店で2000〜3000円以上、百貨店の食品売り場だと1000〜1500円で売られています。

「名店の半額以下となる650円」と返答しましたが、さすがにコンビニ中心のPBとしては高すぎます。セブンイレブンの担当者からは「(通常のPBより高価格帯の)セブンプレミアムゴールドで500円なら、企画を通せそうだ」と報告を受けました。

ぎりぎりの価格で品質を守れるとアリアケ側は判断し、改良作業を重ねていきました。セブングループの最終的な役員試食会でも評判は上々です。ところが当時の井阪隆一セブン―イレブン社長から思いがけない注文が付きます。「長く売れ続けることを考えると、売価は398円だろう」。アリアケの担当者はあぜんとしました。想定した利益がほぼ吹き飛んでしまいます。

果たしてアリアケ社内で398円が決裁されるのか? 担当者は意を決し、創業者の岡田甲子男社長(現相談役)へ説得を始めました。

「次の成長をつかむ絶好の機会です。何と言っても最終製品を作ることで、アリアケの名前が世に広がります。1万3000店のセブンイレブンに当社の名前がついた横幅10センチメートルのPBが並ぶんです。つまり常時1300メートルの企業広告が実現できるわけです」

1品の利益想定額は落ちても、ソースだけの納入に比べて売上高は6〜7倍になります。岡田氏はそうした計算も踏まえてゴーサインを出し、同年9月から「セブンプレミアムゴールド 金のビーフシチュー」の出荷が始まりました。

実は岡田氏はPB取引参入の条件として「月間5万食以上は売ってくれ。しかしそれ以上は売るな」と社内に厳命していました。当初、工場の生産能力に限界があったからです。もっともビーフシチューの需要は想定を大きく上回り、20万食にも達していきます。

めでたし、めでたしと言いたいところだが、発売3年後に想定外の逆風に見舞われます。2013年末、セブングループの役員試食会でのことです。セブン&アイの鈴木会長から「ビーフシチューの肉はうま味が欠け、硬いね」とダメ出しが出ました。

決まったレシピ通りにつくっているが、鈴木氏が納得しない以上、現状のままで販売継続は認められません。セブングループは数千万円をかけて店頭から商品を回収し、ビーフシチューのつくり直しをアリアケに要請しました。

「お客様が納得していない以上、なんとかしなければ」。岡田氏は毛筆で鈴木氏へ謝罪の手紙を送り、自らも工場に乗り込んで改良作業に取り組みました。ポイントは肉をどう柔らかくするか。煮込む前にあえて肉を焼き、肉汁が漏れ出ないようにしたり、ソースの味を変えたり、正月返上を決めて試作を繰り返しました。

セブン側で鈴木氏が「ラスボス(最後の大物)」だが、その前に井阪氏の壁も立ちはだかります。12月31日に試作品を持っていくと、井阪氏から「もっとおいしくできますね」と言われてしまいます。

年が明け、2014年1月10日の試食会でも「ソースの濃厚さが不足している」と指摘されます。そして同月28日、ようやくOKが出て、3月の再販売にこぎ着けました。

新しい味覚作りのために、アリアケの岡田氏たちはビーフシチューの名店を次々と回りました。一時は諦めそうになるほど追い込まれましたが、「おかげで技術力が相当上がった」。月間5万食だった当初の想定から、ピーク時には100万食を超える大ヒット商品にまでなりました。

2014年5月のセブングループによる取引先を集めた総会の会場で、アリアケのメンバーは鈴木氏のもとへあいさつに赴きました。「鈴木さん、笑ってくれたね」と岡田氏は振り返ります。アリアケは現在、他のコンビニのPBも手がけ、年間売上高600億円弱にまで成長しています。

かつてセブンイレブンはNHKのドキュメンタリー番組「プロジェクトX」で「日米逆転!コンビニを作った素人たち」とのタイトルで取り上げられました。実際にセブンイレブンの歴史には、アリアケのような関係先の挑戦物語「ミニ・プロジェクトX」が数多く連なっています。

逆境、試練と克服を繰り返して進化を遂げる――。金のビーフシチューのような「濃い」関係の積み重ねが、日本のセブンイレブンが米国本社を買収するという逆転劇を生んだ原動力にもなっているのは間違いありません。

セブン&アイ・ホールディングスは「食」を中心とした世界トップクラスのリテールグループを2030年に目指しています。「食」を強みとして国内はもとよりグローバルでの事業成長のため、さらなる進化を続けています。

セブンプレミアムとしては現在、金のビーフシチューのようなお惣菜から生鮮、加工食品、パン等、様々な商品を展開しています。一つ一つにセブンのこだわりが詰まっています。

今後も、強みの「食」で成長を続けるセブン&アイ・ホールディングスに期待しています。

※文中に記載の内容は特定銘柄の売買などの推奨、または価格などの上昇や下落を示唆するものではありません。