「旭化成社長『グリーン水素を安く』 30年に1000億円規模」に注目!
旭化成社長「グリーン水素を安く」 30年に1000億円規模 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
世界的な景気低迷の影響を受け、業績がなかなか上向かない化学・素材産業。旭化成の工藤幸四郎社長に今後の事業展望や戦略を聞いたインタビュー記事です。工藤氏は旧態依然とした素材産業のビジネスモデルからの脱却を志向。期待をかける新規事業は、脱炭素の潮流に乗るグリーン水素です。
2024年3月期(今期)のここまでの業績を見ると、素材ビジネスの回復は道半ばといった印象との質問に「まだまだ回復してきたというしっかりした感触は得られていないのが実態だと思います。そんな中で自動車向けのプラスチックやセージ・オートモーティブ・インテリアズ(2018年に買収した米自動車内装材大手)をはじめとする自動車の内装材関連の事業は巡航速度に戻ってきています」
「セージは人工皮革以外にポリ塩化ビニール(PVC)やファブリック(布製品)も含めて豊富に品ぞろえしているのが強みです。社内にデザイナーを抱え、顧客の自動車メーカーときめ細かく擦り合わせできる体制を整えています。これによって顧客のニーズに幅広いグレードの製品を適切なタイミングで供給・提案できます。結果として、ビジネスモデルとしても持続的なものになりつつあります」と回答しました。
2024年の事業環境の展望については「一番懸念しているのは、世界の政治がどうなっていくかです。紛争や戦争、米大統領選挙もあります。各国・地域がしっかり肩を組み合って進めばいいですが、残念ながらなかなかそうはいきません。そうなると、やはりレジリエンス(強じん性)や、アジャイル(機敏)な対応が今まで以上に問われると思います」
「中期経営計画のスタート時点(2022年4月)ではアセットライト(資産圧縮)とスピード、高付加価値という3つの課題を掲げました。とりわけアセットライトとスピードは表裏一体の関係にあると思っています。ここでいうアセットライトとは、未来に向けてどういうビジネスモデルをつくっていくかをしっかり考えようということです」
「今や工場などの建設費は激しく高騰し、新工場を建てるのに2〜3年かかるといったように、工期も長くなっています。素材に求められる機能や価値は変化が非常に激しく、2〜3年後に何が起きているかは分かりません。場合によっては設備投資額が相当膨らみ、『この事業にそこまで投資できるのか』という話になります」とコメントしました。
今まで以上に稼げないと事業として成立しなくなってしまうとの質問には「製品である素材がどう価値を生むのかが重要になります。最近、PaaS(パース、プロダクト・アズ・ア・サービス、メーカーが製品を所有したままその機能を顧客・消費者に提供する形のビジネスモデル)という考え方に注目しています。日本全体が付加価値をどう高めていくかという方向に切り替えていく必要があるでしょう」
「地方再生のためにもリスクを恐れずにビジネスモデルを変えていく努力が必要だと思います。素材の工場をどんどん建てるのではなくて、もっと違う形で地方に貢献できるビジネスモデルに変える方法があるのではないか。それがアセットライトやスピード、高付加価値ということにつながると思っています」と回答しています。
化学・素材業界にとって大きなテーマが脱炭素です。旭化成は2025年度に水電解システムを使った水素製造の事業化を予定していることについては「福島県浪江町における(再生可能エネルギー由来の)グリーン水素製造の実証試験によって技術課題がはっきりしてきました。いかに低いコストで水素を生産できるかが必ず問われます。水素の製造技術を徹底的に磨き、設備投資額や設備運用コストの削減に向けてできる限りのことをやっていきます」
「(水素生産に用いる)電解膜や電解液といった技術を持っているのは旭化成グループの強みです。ただ(水素生産に使う再生)エネルギーをどう調達するか、そして、つくった水素をどう応用・展開するかといった部分はやや苦手です。ビジネスとして成立させ、収益性の高いものにするには、この川上と川下をどうつなげていくかが大事になります」
「事業性の判断に加え、社内にハッパをかける意味合いもあるので、2030年あたりには売上高で1000億円を超えるくらいの水準を目標に置いています。そのためにはどの時期にどの段階まで実証すべきなのか、アライアンスをどういう人たちと組むべきなのか、といったことを逆算して戦略を明確にしていくよう指示しています」とコメントしています。
その他、石化再編については「川上とそれ以外とをクリアに分けて考えていく方が、急がば回れではないですけど、遠回りのように見えて一番近道ではないかと思います」と回答。
稼働率が低下している中、将来の需給バランスや採算性を考えて、どのような時間軸で石化事業の再編を進めていく考えかについては、難しい質問で時間軸は読みにくいと前置きしつつ「時間的に悠長かどうか、皆さん意見があるでしょう。ただ、ナフサの需給バランスを見ながら、それに応じた生産体制にしていく上で、2030年あたりにはある程度、形がはっきりすることになるんじゃないかと思います」
「当社は中期経営計画の最終年度(2024年度)の末までには、石化事業の方向性をお示ししたいと思います。そうすれば、きっと業界としてはこういうふうに進むのかなという全体感が見えてくるかもしれません」と回答しました。
旭化成は水を電気分解して水素をつくる装置の実用化を目指しています。既に化学メーカー向けに食塩水の電気分解装置を手掛けており、この生産技術を水素事業に転用します。川崎市の工場で実証プラントを2024年春から本格稼働させ、2025年からの受注をめざしています。
同時に装置で使う膜や部品などを増産します。宮崎県延岡市と川崎市の工場で設備を増強するほか生産ラインの自動化を進め、既存製品と合わせ、水素製造時に必要な電力に換算して年100万キロワットに相当する生産能力を、2026年3月期にも200万キロワットと約2倍に高めます。
このような取り組みは世界的な流れになっており、ドイツは2030年までに少なくとも1000万キロワットの導入目標を掲げているとのことです。中国企業など海外勢の工場建設も相次ぐ中、旭化成が取り組むこの分野において、量産化をすすめてコスト低減を行って収益性を高めていって欲しいと思いました。