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返還請求は「行政の責任放棄」 返還決定取り消しの判例も 

全国公的扶助研究会会長・吉永さんに聞く 秋田市の生活保護費返還問題


 秋田県秋田市が生活保護の「障害者加算」を誤って過大に支給し、対象者に過支給分の返還を求めている問題について、全国公的扶助研究会会長で花園大学社会福祉学部教授(公的扶助論)の吉永純さんに聞いた。吉永さんは「行政のミスを棚に上げ、その尻ぬぐいを利用者にかぶせ、保護費を返還させるのはおかしい。似たような事例で返還させるべきではないという判例が複数ある」と話す。
 
 秋田市は1995年から28年にわたり、生活保護の「障害者加算」を過大に支給。市内の38世帯に対し、時効が適用されない過去5年分の過支給額を返還するよう求めている。
 
ー今回の秋田市のケースをどう思われますか。
吉永 1995年に出された通知を言わば「ほったらかし」にしていたということで、役所としては非常に恥ずかしい。障害者加算については障害基礎年金を優先することになっているが、これを見落としていた責任は全面的に役所側にあると思います。利用者は、支給された保護費を正当なものと信じて消費したのであって、何の落ち度もないのです。
 
―秋田市は時効が適用されない5年分の過支給分を返還するよう、38世帯に求めています。
吉永 会計検査院の指摘を受けてミスが分かったということですが、そのミスを棚に上げて、生活保護利用者に返還させるというのは誰がどう考えてもおかしいことです。もし返還するとなると、利用者は最低生活費を削って返すことになります。行政のミスの尻ぬぐいを何の責めもない利用者が負わされることになる。最低限度の生活を保障するのが役所の義務であるのに、それを放棄するに等しいことではないでしょうか。
 
―返還対象額が100万円以上になる世帯もあります。
吉永 返そうにもお金がなく、利用者の生活の実態は非常に苦しいと思います。そもそも最低生活費しかもらっていない中で、月々の加算が減額された上、さらに返さなければならない。今回の問題点は二つあり、一つは役所のミスであるにもかかわらず利用者がその責めを負わされていること、もう一つは最低生活費を割ってまで返還させられかねないということです。

―返還を求められた場合、払わなければならないのでしょうか
吉永 そんなことはありません。近年は役所のミスによる返還請求が、裁判や県知事への審査請求で「処分取り消し」となった例がいくつもあります。例えば、役所のミスで過支給となった児童扶養手当約60万円分を全額返還するよう求められた世帯について、役所の決定を違法とする判決が2017年2月1日、東京地裁で出ています。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail5?id=86893(最高裁判所ホームページより)

2017年の東京地裁判決主文(最高裁判所ホームページからダウンロードし撮影)

―返還は生活保護法の規定で定められているのでしょうか。市の判断で返還を取りやめることはできないのでしょうか
吉永 できます。返還させるかどうかは、市役所に裁量があります。例えば一つの方法として、これまでの過支給分は「すべて自立更生のための生活費として消費している」と考えて、返還金をゼロとする。そういう考慮をして、幅広く救済する対応をしてほしいと思います。行政にはそれができるのです。        (三浦美和子)








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