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新しい時代を生き抜く貴方に捧げる『スタンドUPスタート』レビュー


「俺は 人の意識を起業する!」

「“資産は人なり”。資産を手放す投資家はいない!」
不器用で取り柄もなく、会社の負債と嗤われる林田が出会った謎の男・三星大陽。
「人間投資家」と名乗る大陽は、林田自身も信じられない林田の可能性を見出し、こう誘う。
「スタートアップしよう!」 
起業後進国・日本を起業先進国へ!
TVドラマ化もされた大人気『ドロ刑』の実力派が贈るシン・時代の働き方UPデート! UPグレードコミック!!
(集英社コミック公式 S-MANGAより引用)

2022.9.16追記 実写ドラマ化決定おめでとうございます!!!!!


はじめに

 貴方は「起業」というワードから何を連想するだろうか?

 リスクリターン、資金繰り、需要を読む力……「よくわからない」という方も多そうだが(私もその一人だったが)、わからないなりに漠然と負のイメージを抱いている方が多いのではないだろうか。様々な要因から不景気が叫ばれる昨今、一から何かに挑戦することに二の足を踏んでしまうのは当然の心理かもしれない。

 しかしどんな時代でも、いやそんな時代だからこそ、現状何が求められているか・自分が何を求めているかを把握し、その需要・意欲に応えるために一歩踏み出し形にする行為は尊いものだと私は思う。

 今回紹介する『スタンドUPスタート』は、そんな「何かに挑戦しようとする」人に時に厳しく、時に優しく寄り添ってくれる漫画である。掲載紙は週刊ヤングジャンプ、既刊は2022年4月現在6巻。追いつくならがベストタイミングだと自信を持って言わせていただく。

「スタートアップ」とは

 この漫画はオムニバス形式であり、主人公・三星大陽(みほしたいよう)を中心として様々なビジネスが展開される様を描いている。

 まずは冒頭の引用にもある銀行員・林田のエピソードから紹介しよう。銀行員であった林田は将来性のあるベンチャー企業の融資申し入れを蹴ったことで上司の不興を買い、「会社の負債」と部下に後ろ指を指されながらかつての肩書きにしがみつく毎日を送っていた。しかしひょんなことから投資家・大陽に出逢い、己の現状を突きつけられた後こう宣言される。

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 「資産は人なり」「個人の生産価値を上げる」と嘯く大陽に気圧されつつも次第に絆されていく林田。自身の降格理由から「銀行融資を受けたいがプレゼン下手なベンチャー」「実績のない会社を相手するのが面倒な銀行員」のすれ違いに気づき、そこから「経営者と銀行の仲介業」という糸口を大陽と共に作り上げ、自らの足で事業設立に向けて奔走する。

 林田に限らず本作で大陽と絡むゲストキャラクターは現状に不満や不安を抱えている者ばかりであるが、大陽は一人一人と向き合い、「今抱えている不安や不満はどこから来るものなのか?」「立場や建前を置き去りにして本当に自分が望んでいることは何か?」を丁寧に(ときに大胆に)解きほぐし、前へ進むための手助けをさせる。その繊細なコミュニケーション、心理描写を交えることで事業設立へのロードマップがスッと頭の中に入ってくるのも本作の強みである。

 業界用語のさっぱりわからない読者(私含め)にもきちんと一から教えてくれる安心設計だ。

 強調しておきたいのが、本作は「日本を起業先進国に」と謳いながらも決して大企業やそこで働く人々を軽視したり悪し様に描いてはおらず、むしろ双方のメリットを提示した上で「皆が好きなほうを選べるように」というスタンスを一貫させていることだ。詳しくは後述するが、ベンチャー企業と大企業それぞれの立場から見た業界の成長戦略についてしばしば意見が交わされるのも興味深い。

 日頃お世話になっている身近なサービスを調べてみるもよし、実際に起業を考えている人が教科書にするもよし、今働いている職場の将来性や改善点を見つめ直すもよし……とにかく「働き方」の裾野の広さを感じることができる、スタンドUPスタートはそういう漫画である。

三星大陽という男

 
 老若男女問わず作中キャラクターの多くの人生を揺さぶり巨大感情を集めている主人公・三星大陽(「太陽」ではなく「大陽」なので注意されたし)だが、彼がなぜ「起業」そして「人との繋がり」にこだわるかの理由は1巻終盤で明かされる。そこでキーパーソンとなるのが彼の兄にして大企業社長・三星大海(みほしたいが)の存在である。

 大海は大企業の社長であり、「自らが頂点に立ち従えることで人に安寧を与える」という大陽とは対極の思想を抱いている。冷徹なようで誰よりも責任感が強く、常に大多数のための最善を尽くす姿勢は大企業のトップとしての度量を感じるが、同時に圧倒的な孤独との闘いでもある。

  大陽はそんな兄の姿を幼い頃から眺め、大海もまた自由奔放に飛び回る弟を見守り、道を違えてからも互いを気にかけている。この正反対の兄弟の歩み寄りが前述の「ベンチャー」と「大企業」それぞれの観点から語られる仕事論により一層深みを増している。

 ヤングジャンプ本誌連載ではなぜ二人の道が分かたれたのか過去が詳細に掘り下げられるフェーズに突入しているが、大陽の「資産は人なり」という行動原理の奥底に常に兄の存在があることは作品を通して一貫している紛れもない真実だ。彼等の関係がどこに辿り着くかを作中人物と共に見届けるのも醍醐味だろう。

 余談だが、作者の福田秀先生は本作の前にも同誌で『ドロ刑』という警官×泥棒のバディアクション漫画を連載されていた。

 徹底した取材と重厚なストーリーに加え、こちらはよりキャラクター同士の関係性(とりわけ同性間の感情)が強い作風となっている。『スタンドUPスタート』ではその手つきが抑えられてはいるものの、主人公を慕う・反発する人々の心の移り変わりや現代日本の企業を題材にするにあたって避けては通れない男社会の描き方に作者の技量が存分に発揮されているのがわかる。

 やっぱりお仕事モノって人と人との関わりを描くから……必然的に巨大感情バトルに行き着くんですよ……(持論)

おわりに

 初めに紹介した1話のエピソードはこちら↓の作者公式アカウントから丸々試し読みすることができる。記念すべき1話に相応しく爽やかで希望が持てる読後感をぜひ味わっていただきたい。

 また本作の監修を手掛けられている起業・経営コンサルタントの上野豪氏との特別対談や、創業支援プログラムを行う日本財団からのインタビュー記事なども読み応えがあっておすすめである。

 再三になるがヤングジャンプ本誌では連載も佳境、今まで大陽に助けられた人々が一同に会して巨大プロジェクトを展開する大きな節目を迎えている。この記事がその結末を見届けるきっかけになってくれたら、そして『スタンドUPスタート』をきっかけに貴方の見ている世界が少しでも広がってくれたなら、これほど嬉しいことはない。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。個人的にお気に入りの扉絵を紹介して〆にしたいと思います。

どんな仕事着も着こなす、それが投資家(?)





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