ほぼ漫画業界コラム2【漫画編集者】

 今日のお題は【漫画編集者】です。 近年、大手出版社の漫画編集者達が続々と出版社を退社しています。漫画から派生するアニメも含めたフリーのプロューサーに転身する人、WEBTOONスタジオに転職する人、僕のように編集プロダクションを起業する人もいます。 ちなみに小学館、集英社、講談社のような大手出版社の社員はメチャクチャ待遇が良いです。今だに年功序列で40代中盤にもなれば誰でも年収は2000万円程度になります。企業年金もしっかり整備されていて、定年後も安心。労働環境も昨今の働き方改革で、どこもホワイトになった以上、こんな所をやめる奴は自分も含めてバカかアホの塊なんでしょう。まあ実際に、そうなんでしょう。 ただ、辞めるのは漫画編集者がほとんどです。単に漫画編集者にバカが多いだけなのかもしれませんが、情報誌や女性誌、バックオフィスなどのセクションの社員が辞めたという話はあまり聞きません。一体漫画編集者に何が起きているのでしょうか?今回はそんなお話です。

・・・その前に漫画編集者って何?って所から話を始めます。そもそも編集とは、辞書で【諸種の材料を集め、書物・雑誌・新聞の形にまとめる仕事。また、その仕事をすること。編纂(へんさん)。】とあります。つまり漫画編集者とは単純に【漫画雑誌、もしくは漫画の単行本を編集する仕事】だったのです。過去形にしたのは、近年その意味が変わってきたからです。漫画編集者の仕事は多岐に渡ります。むしろ単行本や雑誌の編集なんか、労働時間のホンの一部しか使ってないはずです。なぜそうなってしまったのか? はい、簡単に言えば漫画雑誌や漫画単行本を売っているだけでは売上が立たなくなったからです。なので漫画編集者達は様々な商売に手を出すようになりました。ゲームやアニメのプロデュース、グッズの販売、セミナーやファンイベントの主催、企業案件・・・僕もマンガワンの編集長になった時に全部やりました。学生と組んで『マギ』のリアル脱出ゲームの主催とかね。昨日書いたように編集長である僕の業務はマネジメントだったので、実際に手を動かしたのは部下の漫画編集者です。『モブサイコ100』のTシャツを作って売らせていました。漫画編集者として入社したはずなのに、Tシャツ生地の素材の選定やら、仕入れやらさせられて部下には随分苦労させたと思います。 でも結局、一番儲かったのは【アプリによる話売り】なんです。

 マンガワン全盛の時は本当に凄かったです。昨日書いたように、それまで漫画メディアの運営は赤字が当然で、漫画雑誌とかは一冊何千万とか赤字を出しながらやっていたんです。ですが、アプリで漫画を連載したらその時点で読者がどんどん課金してくれるのです。なので自社メディア運営の時点で圧倒的な黒字が約束され、さらに単行本や電子書店への配信で二度美味しいという状態になりました。現場はヒーヒー言ってましたが会社自体はウハウハだったのです。 ですが…それって日本の出版社の専売特許じゃなかったんですよね。 もっと得意な所があったんですよ。そう、韓国です。韓国は1997年の経済危機の結果、国内産業がズタズタになったそうです。韓国漫画産業も同様で、多くの出版社が倒産し、漫画家達は失業したそうです。ですが破壊は創造を生み出します。それまでの日本同様、韓国も一部の出版社や取次が既得権益として漫画産業をガッチリホールドしていましたが、それらが一斉にいなくなり、そのぽっかり空いた跡地に新興IT企業が参入したそうです。

 あれは2003年だったか2004年だったか・・・。当時、スクエニのヤングガンガン編集部の新人編集だった僕は、編集長達が韓国出張でNAVERというベンチャー企業を見学して来た話をしていたのを覚えています。キム・ジュングという若い編集者が漫画を載せるWEBサービスを始めたそうだと。課金機能もあるそうだし、それは画期的だなあと言い合っていました。 僕はその時の事をずっと覚えていました。ちなみに僕がマンガワンの開発を決めたのは2014年の夏です。その時、LINEマンガから小学館に作品提供の依頼がありました。LINEマンガで小学館の作品を連載したいから、作品を提供してくれという事でした。LINEマンガは前から気になるサービスでした。その頃はポツポツとマンガアプリが出来初めていましたが明らかにLINEマンガだけレベルが違うのです。そもそもLINEってどんな会社なんだ? その頃はもうLINEも普及し、僕も普段から使っていました。ですが、運営会社の事はよく知りませんでした。普通に日本の大きなIT企業だと思っていました。 ですがよく調べると当時のLINEの親会社はNAVERだと分かりました。

 NAVER!? 当時、WEBマンガサイトを運営してたぐらいの会社が今そんなに大きくなっているの!? 腰を抜かしそうになりました。それに気付いた翌日に僕はマンガアプリの企画書を上司に提出しました。僕は当時は会ったこともないキム・ジュング氏の作戦が一瞬で分かりました。日本のコンテンツとツールとしてのLINEを使ってプラットフォームを作り、いずれは韓国本体が作るコンテンツを送りつけるつもりだなと。僕は対抗するために、半ば小学館の上司を脅すようにマンガワンの企画をプレゼンしました。これを成功させないといずれ日本の漫画産業は乗っ取られますよ。 それから10年後。昨日も書いたように今の日本のデジタル漫画市場で大きな市場占めているのは【LINEマンガ】【ピッコマ】【Kindle】【コミックシーモア】あと加えるとしたら【アムタス】さんぐらいです。ちなみにピッコマの運営会社であるカカオは、元々はNAVERと別れて出来た会社らしいです。LINEマンガとピッコマの成長速度はズバ抜けています。 今、日本の漫画編集者の多くは僕も含め、これらの電子ストアに売れる作品を作ろうと感張っています。そのうちLINEマンガとピッコマで売上比率が大きいのはWEBTOONです。ですので多くの漫画編集者がWEBTOONスタジオに移動し始めているのは必然なのです。 ちなみに僕も株式会社コミックルームという、著作権を持つ漫画制作スタジオでありながら、編集プロダクションでもあり、自ら電子出版もするという会社を作りました。これからWEBTOONも作るでしょう。

つ ま り は そ う い う こ と な の で す。

 昨年、今はアメリカ在住のNaverWebtoonの総帥、キム・ジュング氏と始めて会食の機会を頂きました。世界戦略を熱心に英語で話す彼は僕と同じ年でした。日本の漫画もエンタメも大好きでスラムダンクの話とSMAPの話で遅くまで盛り上がりました・・・ この時代に逞しく生きる漫画編集者たちにエールを送りたいと思います。株式会社コミックルームは全ての漫画編集者を応援する会社です。

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