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ほぼ漫画業界コラム44【マンガ・リライティングバイブル⑨】

あなたは新連載の準備をしている。世界観とキャラクターがしっかり出来た。もう書きたくて書きたくてしょうがないだろう。だが、少し待ってほしい。この作業をするかしないかで今後が変わる。ここでようやくやるべきことがある。世界設定だ。多くの人が勘違いしているが、なぜか世界設定から物語を作り始める人が多いが、あれは間違いだ。自分で作った世界設定に呑まれて自由な創作ができない。世界観とキャラクターがしっかりできて、頭の中に様々なエピソードのアウトラインが出来始めた段階で、ようやく取り掛かるべきなのが世界設定だ。

ちなみに僕は多くの週刊連載を手がけてきたが、この過程を飛ばして作った作品も沢山ある。というか、そちらの方が多い。それでも大抵はなんとかなる。だが、やっておくと便利だということ。それと書きたいというモチベーションをギリギリまで高める最後の儀式だと思ってもらっても良い。その世界の歴史、キャラクターの背景など、様々な設定書を作っていこう。先日僕が否定したキャラクターの履歴書もこの段階で作るのは問題がない。あなたが作った世界とキャラクターの解像度を上げる作業。創作欲が高まる。もういつでも描けるはずだ。

さあ、物語を紡ごう。僕は絵が描ける人も描けない人もシナリオから書くのをお勧めするが、まあ自由にすれば良い。ただしネームはチョコチョコ直せば直すほどつまらなくなるというのは本当だ。それをするぐらいなら、バサッと全ボツした方がいい。僕はフランクに全ボツすると昔、作家さんから文句が出たことがあるが、僕としては優しさのつもりだ。全ボツが嫌ならシナリオから始めた方がいい。ちなみにシナリオも全ボツしますがね。どっちも同じだ。創作とは素潜りみたいなものだ。途中で息が苦しくなって海面に戻ったら、また一から潜り直すしかない。何度でも潜ればいい。海底にある宝物をゲットするのだ。

じゃあ、どこから書けばいいのか。当然セットアップからだ。ストーリーの構成は三幕構成で行く。三幕構成は基本中の基本だ。もう語る必要はないので、ここではあえて説明しない。教本でもYouTubeでもあちこちに今は溢れているので、わからない方はそれでしっかり勉強した方がいい。昔は本当に教材がなかったのだから今の人が羨ましい(笑)

セットアップ→Act1→Act2→Act3→フィニッシュで書いていく。あれ?連載漫画はどう作るの?って思う人もいるだろう。フィニッシュをヒキに変える。ただし経験上、三幕構成で作るには最低20ページ弱はほしい。ジャンプは19ページ、サンデーは18ページが基本だったのはそのせいであろう。ただし漫画をスマホで見るようになって1ページあたりのコマ数が減った。スマホ用のコマ割りだと、24ページは必要になる。だから週刊だと最近は二幕構成、酷い時は一幕構成なんて時もある。一幕だとさすがに人気は出ない。単行本になったときに期待するしかない。現在、デジタル配信は週刊連載が求められる。大変な時代だ。だがページ数の壁から唯一解放される時がある。それが新連載開始時だ。好きなページ数で描ける最初で最後のタイミングだ。話がそれた。ともかくセットアップから作ればいいのだ。ちなみに連載漫画においてセットアップエピソードも三幕構成で分解される。セットアップのセットアップもある。ややこしい。マトリョーシカをイメージすればいい。

セットアップは物語において最も重要だと言っていい。ほぼ大抵のネームはセットアップに問題があり、不明確でぼやけていたり、ストーリーに全く関係のないものを書いている。セットアップの役割はストーリーを理解するために必要なコアとなる情報をしっかり見せることだ。5W1Hをしっかり見せよう。それはいつの話か?どこが舞台か?誰が主人公か?何を語るのか?どのように語るのか? これを順番に語るだけでセットアップは終わる。まずシチュエーションを見せる。主人公やヒーローを見せる。テーマを見せる。テーマはセントラルクエスチョンと言い換えてもいい。ジャンルを見せる。それだけだ。最近読んだ漫画ではヤマシタトモコ先生の『違国日記』のセットアップが素晴らしくよく出来ていた。フォロワーさんが「好きな漫画BEST3」に上げていたから知った。特にシチュエーションの描き方が秀逸だ。料理を作るシーンがこんなに上手く描けるなんて。なぜか『ブレイキングバッド』のウォルターがブルーメスを精製するシーンを思い出した。

イメージから入り主人公とヒーローの出会いを語り、セントラルクエスチョンを設定する。その過程で読者の感情を揺り動かすことができたら勝ちだ。セントラルクエスチョンとは何か?この物語はどうなるのか?と興味を持ってもらえたら読者は2話も読んでくれるだろう。


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