ほぼ漫画業界コラム184 【AI制作の漫画について思うこと】

先日、何気なくポストした内容が予想外に大きな反響を呼び、困惑しています。まんが王国を運営するビーグリーが、自社の編集部からAIで作画された漫画を販売開始したのです。

ビーグリーはかなり広告費をかけているようで、ランキングでも上位に入っています。ある種の覚悟を持っての取り組みなのでしょう。ただし、このAI作画漫画『児童福祉士、一貫田逸子』は既存の作品をリメイクしたものだそうです。

つまり、コマ割りや構図などは既存の人間が作った漫画をそのまま使用しているのです。これは重要なポイントです。

そして、昨日のポストをきっかけに、いくつかのAI作画の会社から情報提供がありました。現在、ネームレベルから作画レベルに仕上げる技術はかなり進んでおり、自分の絵柄をある程度学習させれば、ネームから線画レベルまでAIで一気にジャンプアップさせることが可能だそうです。

ただし、ネーム自体がないと厳しいとのことでした。そう、ネーム! ネームを生成AIで作ることは、今のところ不可能だそうです。ちなみにシナリオに関しても同様で、僕も何度も試しましたが、読者の心を動かすようなシナリオの生成は現状では不可能だという結論に至りました。AIに人格が生まれない限り難しいでしょう。もしAGI(汎用人工知能)になれば、可能性はあるかもしれませんが。

現状、AI漫画については、ネームから線画にする過程や、着色などに使う場合に効果的だと考えられます。また、キャラデザインやシチュエーションのアイデアを考える際にも有用です。いずれにしても、使用する場面はかなり限定的です。さらに、レタッチもかなり必要であり、絵が描けない人が漫画家になれるツールとは言えません。

それよりも、描こうと思えば自分で全て描ける漫画家が、自分の作画工程の一部をAIに移行させ、徐々に作画コストを下げる流れが今後加速すると予想します。そうなれば、これまでは原稿料がアシスタント代などで消えていた作家も、原稿料自体で黒字が出るようになるかもしれません。そのように各漫画家の作画コストが下がれば、余裕ができた作家たちは、さらにもう1作、もう1作と作品を増やすかもしれません。

もう一つ考えられるのは、AIによって余裕ができた作家が他の部分にリソースを割くことで、これまでになかったような新たな表現が生まれる可能性もあります。

これをよく考えると、AIによって元々能力が高かった漫画家のスペックがさらに上がり、そうでなかった人たちとの差がますます広がるということになります。

これは漫画家に限りません。AIを使って仕事の能率が飛躍的に上がる事務職の方は、もともと職場でも優秀な事務職だったと言われます。経営者同士でもよく話しますが、AIはやはり道具なのです。

AIに仕事を奪われることはありませんが、AIを使う人間に仕事を奪われる、とはよく言われることです。

ちなみに、僕はAIの是非を論じるつもりはありません。人類の大きな流れに対して、ちっぽけな自分が何を言おうが、何も変わらないからです。

僕としては、ただひたすら面白いシナリオを書き、面白いネームを作ることに精進しようと思います。AI作画については、しばらく静観するつもりです。AI作画が増えるでしょうが、うちは手作りの料理屋さんのようなものなので、よほど市場競争で不利にならない限り、人の手で描かれたものにこだわりたいと思います。

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