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ほぼ漫画業界コラム90【究極の漫画編集者】

うちの会社は基本的に全員が漫画編集者であり、漫画原作者でもあります。例えば僕が漫画原作者である時は、別のメンバーが僕の担当編集になったり、他のメンバーが原作者の時は僕が担当編集者になります。今日の原作執筆に時間がかかったのは、全ボツが出たからです。全ボツ。きついですねえ。昨日の終わりに提出した原作が夜に全ボツになりました。自分でも薄々、微妙な出来だなぁと分かっていました。打ち合わせの結果、全ボツ。担当編集は作品のために一生懸命考えて意見を言ってくれましたが、その意見が腹立たしい。素直に聞けず言い争いに。結局、朝6時から書き直しています。

僕のように漫画原作者と担当編集をどちらもやっているからこそ見えてくることがあります。なぜ、あちこちで漫画編集者と漫画家(原作者)が揉めるのでしょう。うちの会社の若い編集者もよく漫画家と揉めます。それがベテランになると段々揉めなくなります。分かりました。ほぼ、漫画編集者と作家が揉める90%の原因が修正指示、もしくはダメ出しです。あとは単純なミスと締切関係。ここでのコミュニケーションが間違っていると揉めます。下手すれば決裂。最悪、炎上。それ以外のモラハラ、セクハラなどもあるかもしれませんが、それらは編集者や作家の個人的な問題なのでレアケースだと考えます。

ただ、はっきり分かっていることがあります。少なくともシナリオやオリジナルネーム、企画書などを作家から提出した場合に、ボツ、もしくは修正依頼、もしくは怪訝な顔などのネガティブな反応があった場合、99%は作家の責任です。もしあなたが完璧に面白くて、売れそうな成果物を出したら一発OK。何の問題も発生しません。過去にそんな作家さんもいました。打ち合わせ時は褒めるだけで、楽しく話して、締切だけお願いしますね、で終わりです。作家さんとは良好な関係のまま現在も仲が良いです。ちなみに昨日、僕が担当編集と論争したのは僕がつまらない原作を書いたからです。でも全ボツにされたくなくてごねてしまいました。すべて僕が悪いのです。大変申し訳ございませんでした。

そして全ボツではないが修正依頼がある場合、次は編集者のターンです。できた成果物にどのようなリアクションをするのか、これが問題です。まずは全ボツの判断をするかしないか。話が根本的に壊れている場合、全ボツにして0からやり直す必要があります。ですがこの判断は早めにした方がいいです。根本の土台からおかしいので小手先で作家と編集がごちゃごちゃ捏ね回すと、大きな確率で泥沼化します。最終的には決裂し、作家は多大なる時間をタダ働きし、編集も多大な労力と作家からの信頼を失います。昨今の企画書に原稿料払え論争もこれが原因ですね。でも編集も本来は全ボツにしたくないんです。レベルが低い編集者はこの判断がなかなかできない。もちろん嫌な顔されますが、泥沼化するよりは最初にスパッと行きましょう。

次に修正依頼です。これも揉める一因です。修正依頼が明確でなかったり具体的でなかったり、的外れだったりすると揉めます。また仮に修正依頼が正しくても、伝え方が悪くても揉めます。厄介なのは言う人間の立場や経歴によっても変わります。経歴もなく、技術論も頭に入っていない編集者が作家に技術論的に講釈を垂れると高い確率で揉めます。修正依頼で揉めるケースの99%は編集者に非があります。

つまり最初に出された成果物の責任の多くは作家側にあり、2度目以降に修正された成果物の責任は編集側にあります。この感覚は編集も作家もどちらもやった人間はわかると思います。この感覚が分からない作家さんはぜひ、編集者をやってみましょう。分からない編集者さんは作家をやってみましょう。

この観点から究極の作家像と究極の編集者が見えてきます。究極の作家さんは簡単です。そもそも編集者からの修正依頼やボツが一切発生しません。究極の編集者は一発で的確で具体的で完璧に直る修正依頼を出せることです。的確で具体的なだけでは足りません。作家さんの脳裏にその修正を加えた結果、間違いなく面白いネームや原稿ができるという確信を与えることも必要です。間違いなく面白くなる修正依頼を嫌がる作家さんはいません。寿司職人は握る回数が少なければ少ないほど上位の職人だと言いますが、編集者も同じだと思います。何度も何度も同じネームに修正依頼をしている編集者は気をつけてください。問題はあなたにあります。上司に相談しましょう。何度も何度も同じネームの修正依頼が続く方、その編集者は悪意があるのではありません。未熟なだけです。また、レスポンスが遅い編集者もこれに当たります。彼らはサボっているのではなく、どう直していいのか分からないのでレスポンスが遅いのです。


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