20150302短編小説表紙

キュン♪ときたら「スキ」ください。

「好きだ!」

真正面から至近距離で、あなたに言われた。



仕事の打ち合わせが終わると、赤ちょうちんの居酒屋で一杯。
メンバーは、いつもの4人。
上司の城田さんと、先輩の池野さんと皆木さん、そして私、佐倉久美。

男の中に女が1人なんて、浮いちゃいそうだけど、もはや家族みたいなものだ。
それなりに言いたいことを言い合って、笑って、泣いて、受け入れてくれる。
もしかすると本当の親よりも、私のことを理解してくれている人たちかもしれない。


…ある、1つのことを除いては。


4人掛けのテーブル席は狭いけれど、各テーブルごとにのれんで区切られている。
話し声は筒抜けだけど、それなりの個室感があって落ち着く場所だ。

テーブルいっぱいに注文した料理は、あらかた食べつくされ、今は各自好きなお酒を飲んでいるところ。
城田さんと私はビールで、池野さんが日本酒、皆木さんは焼酎。

 「城田さん、顔赤くなってますよ」

城田さんの様子を伺いながら飲んでいた、池野さんが声をかける。
池野さんは仕事でも、城田さんのサポートを的確にこなす、頼れるお兄さん。

 「明日は休みなんだから、飲ませろよー!池ちゃーんー!」

私たちが所属している課には11人いて、城田さんがリーダー。
強面の顔と厳つい体格の城田さんを初めて見たとき、「怖い!」と思ったけど、実は部下の面倒をよく見てくれる、優しい人だった。
職場のお父さんは、飲みの席では一番幼い雰囲気になる。

 「今日はここまでです」

 「久美ちゃーん!池野になんか、言ってやってよー!」

池野さんにビールグラスを取り上げられた城田さんが、私に向かって助けを求める。
私は、池野さんから空のグラスを受け取ると、店員さんを呼び止めた。

 「ウーロン茶、お願いします」

 「久美ちゃんの、意地悪ーっ!!」

テーブルに突っ伏して、泣き真似を始める城田さん。
こうなると皆木さんがツッコミを入れて、場が盛り上がる…のが、いつもの流れだ。

 「皆木さん?大丈夫ですか?」

ふと、私の隣に居る皆木さんに目をやると、焼酎がまだ半分も残っているグラスを黙って見つめていた。
公私問わず、いつだって明るく元気な皆木さんには珍しいことだ。
呼びかけにも反応しないのを不審に思い、皆木さんの肩を叩く。

 「皆木さん?」

 「あ!な、なに?」

大げさな程にビクリと身体を震わせた皆木さんを見て、ますますらしくないと思う。

仕事でも、社内外問わず物怖じしない性格は有名で、部長クラスの人にさえ平気で意見できてしまう、皆木さん。
歯に衣着せぬ物言いに、誤解されることもあるけれど、彼の根っからの明るさを知ると、少々のことは許されてしまうという、人徳の持ち主。

お酒が入っても、その明るさは健在で、いつも笑わせてくれる、いいお兄ちゃんなのだ。
そんな皆木さんが、ただ黙って座っているなんて、ただ事ではない。

 「体調悪いようなら、今日はもう…」

 「佐倉!」

 「は、はい!?」

私の言葉を遮って、皆木さんがテーブルを叩いて向き直る。
狭い席だから、皆木さんがこちらを向いたことで、彼の膝が私の足に触れた。

 「好きだ!」

真正面から、ストレートな言葉を投げられる。
ざわついていた店内の音が、一瞬で全て消えた。
私の頭の中も、真っ白になる。

 「よ、酔っ払っちゃいましたか?皆木さん??」

理解の追いつけない頭と、閉じてしまった私の喉から辛うじて出た言葉は、とてつもなくしょうもないものだった。

 「酔ってねぇ!俺は、本気だ!」

一言づつ間を詰めてくる皆木さんと対照的に、私の身体は後ずさる。
とはいえ、すぐに壁にぶつかって、逃げ場はなかった。

 「俺は、本気でお前を…」

皆木さんの真剣な瞳は、何度か見てきたけれど、こんな色をした彼は初めて見た。

私の喉が、コクリと鳴る。
でも、それだけで言葉は何も出て来ない。

皆木さんは、右手で頭を掻き毟ると「悪い」と吐き捨てて、足早に店を出て行った。
私は皆木さんが居なくなっても、茫然とその場所を見つめていた。

 「皆木さぁ…」

城田さんの声に目を動かすと、池野さんも一緒になってふんわりとした笑みを浮かべている。
私の混乱を察するように、ゆっくりと城田さんが続けた。

 「皆木、本当に本気なんだよ。久美ちゃんのこと」

 「佐倉さん、お願いできるかな?皆木のこと」

池野さんはやわらかく言うと、私に頭を下げた。


…嗚呼。
これで全部だ。
私が隠していた、最後の1つまで受け入れられてしまった。

嬉しくて溢れそうになる涙を堪えて、席を立つ。
皆木さんを追いかけるため、私は小走りで店を出た。


 「佐倉!」

 「え?皆木さ…」

店の入口を出たところで、先に出て行った皆木さんに、腕を掴まれた。
一気に頭へ血が登って、私は硬直してしまう。
皆木さんは、そんな私を軽く引っ張ると、自分の腕の中へ入れた。
距離が一気になくなる。

 「好きだ」

 「あ…あの…」

 「結婚してくれ」

耳元からダイレクトに、皆木さんの声が私の身体の中へ入って来る。
心臓が割れそうに、鳴った。

 「わ…私も。皆木さんが、好き、です」


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キュン♪ときたら「スキ」ください。

#恋愛 #小説

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