海の見える街
わたしの生まれ育った街は海沿いにある。
駅を降りた瞬間、潮の香りがするところが好きだった。
夏になるとたくさんの観光客が訪れ、地元の人間は少しだけうんざりしていた。
社会人になって、初めて地元の街を出た。
それでも月に一度は帰っていた。
家族や友人、当時付き合っていた彼に会うために。
結婚することになり、地元に戻ってきた。
世界一大好きな人と、世界一好きな街で暮らしていける。
そう思っていた。
たった一年足らずでその暮らしは終わった。
引っ越すのが面倒で、同じ街に別の部屋を借りた。
それは間違いだった。
どこを歩いても思い出がこびりついて、心は乱れる。
いつ相手と鉢合わせしてしまうかとハラハラする。
会社に向かう時間も、都内に住んでいた時の2倍。睡眠時間も物足りない。
気づけば部屋の更新の時期になっていた。
あれからもう2年が経ったのか。
あっという間だった。
知らない間に過去になっていた。
更新することに迷いはなかった。
友達はいる、家族も近くにいる、海にも歩いていける。
結局わたしの中に、自分の意思で海のあるこの街から出ていくという選択肢はないのかもしれない。
結婚することになったら、どこへでも行く気持ちはあるんだけどなあ。なんてね。
おわり。
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