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なぜコンマイは『競技的』遊戯王を否定するのか

序文

 『コナミが意図的に遊戯王の競技的要素を隠している』
 先日、シーアーチャーさんの配信切り抜きを見ていた際、この問題が話題に上がっていた。前々から気になってはいたコナミの態度だが、これを機に少し考えてみたところ、一つの説が浮かんできた。全く以て正解と断言できるものではないが、ある程度正鵠を射ている可能性もあるため、久しぶりに駄文でも書いてみるか、と筆を執った次第である。

遊戯王とは

 この記事を読んでいる方であれば『遊戯王』がどの様なカードゲームであるかはなんとなく把握しているだろうから、私の認識をざっくり述べるだけに留める。私の認識では遊戯王=『MTGの次に歴史のあるTCG』だ。そしてMTGとは違い遊戯王にはアニメコンテンツとしての『遊戯王』という側面もある。日本の他TCGにおいてはDM(デュエルマスターズ)、ヴァンガード等にもこういった側面がある、というか日本のTCGは大体この手法(アニメを見せて、関連カードを売る手法)で商売をしている節がある。遊戯王のアニメで言えば、あくまで偏見に過ぎないが『初代や5dsの人気が高くGXもそれに追随し、ゼアル、ヴレインズが一歩劣り、アークファイブはネタ的な人気がある』という状況だ(無論諸説ある)。そしてアニメの事を言うならば一つ重大な転換点が、数年前に起こった。――OCG準拠の新規アニメが無くなったのだ。

OCG準拠アニメの歴代主人公たち

キッズ向けの商売をラッシュで行う様に

 現在、遊戯王のアニメは新シリーズが放映されている。しかしそれはOCGのカードを扱ったものではなく、『遊戯王ラッシュデュエル』という、OCGと似てはいるが違うゲームのカードを題材にしたアニメだ。余りにも処理が複雑化した現代遊戯王にもはやキッズを呼び込む力がないと判断したのか、コナミは数年前に新しくラッシュデュエルを立ち上げ、アニメもそちらに合わせたものに変わった。これの成否は論じない(調べてないのでわからない。私の周りでは大人しかやってないように見えるが……。)が、少なくともOCGに『今放映されているアニメのカードが新しいパックに入っている』という売り文句が使えなくなったのはとても大きい。


雰囲気がだいぶ違う。見てないので面白さは不明。

現在の遊戯王(11期以降)

 現在、遊戯王は過去に放映されたアニメに関連するカードを売り出すことで、どうにか『延命』を図っているように見える(主観でしかないが)。カオスソルジャー、ダークリベリオン、アームドドラゴン、ヴァレル……といった具合に、一定数ファンがいるであろうカードないしテーマへ強化パーツを与え、客を呼び込んでいる。箱買いすると特典が付いてくる『+1パック』、一攫千金の『プリズマティックシークレットレア』等の、パック開封をより楽しくする要素も追加された。競技的に見ても魅力的なカードが多数あり、アニメが無くなってもどうにかなりそうだと感じさせる勢いがある。

11期パックの面々(拾い画)。見覚えばあるようでないようなモンスターのシルエットが多数ある。

遊戯王という商売

 さて、ここで一つ、当たり前の事実を再確認する。コナミにとって遊戯王という商売は、ユーザーがパックやデッキ、なんとかボックスなどの公式商品を購入しなければ利益が出ない。カードショップでいくら中古のカードを売ったり買ったりしたところで、コナミには一円も収益が入らないのだ。これは遊戯王のみならず他TCGも直面している問題で、DMでは最近『アドレナリンパック』なるハイレート商品が発売された。つまるところ特定のユーザー層が『シングル買いをカード収集のメイン手段としていて、パック等はそこまで買わない』性質を持っていたとするならば、コナミにとってそのユーザー層は『あまりお金を落としてくれない細客』という認識になるわけだ。

ヴォ―ソスとスパイク(MTGより)

 上の単語二つはMTGにおけるユーザー層の分類だ。便利なので使わせてもらう事にする。端的に言えばヴォ―ソスは『ストーリー重視』、スパイクは『性能重視』だ。ほかにもいろいろあるが今は割愛する。例を一つ挙げるとするならば、『クシャトリラ・フェンリル』(1月1日付で制限カードになった超パワーカード)というカードを見て貴方が『壱世壊にいきなり襲来した謎の侵略者!?かっこいい!欲しい!』と思ったならばあなたはヴォ―ソスで、『このカード書いてることおかしいだろ。強すぎ、俺のデッキでも使いたい』と思ったならばあなたはスパイクだ。


かっこいいし、カードパワーがおかしい。


 どうしてこの話を今出したかというと、先程述べた『細客』のユーザー層が、正にこのスパイクではないのかというのが、私の意見だからだ。
 スパイクーー即ち競技勢。CSや公認大会、YCS等に参加し、遊戯王というコンテンツにおいて貪欲に勝ちを求めるプレイヤー層。恐らくは最も熱く、このゲームに打ち込んでいる彼らこそが、コナミにとって細客と認識されてしまっているのではないか、という疑念だ。

必要が、必要であるが故に


『待って!……チェーン考えます。』

 典型的なスパイクの話をする。彼にとって価値あるカードとは強いカードであり、弱いカードはどれ程綺麗でも強いカードよりは価値が低い。彼にとって収集すべきは強いカードで、それはカードショップのショーケース等で展示されていたり、仲のいい店員さんにお願いすれば裏から出してくれるものだ。したがって、彼にとって通常のパックはそこまで買う価値がない。『コンテンツ維持のためたまには買っておくか』という思考が働いたり、『高すぎるあの強力カードを数パックで当てればアドだ』というギャンブル精神が働いたりしなければ、基本的には買わないだろう。
 無論、ガッチガチのスパイクである人間は少ない。少ないし、例えそうだとしても今述べた理由から結局公式の商品に手を伸ばすことはあるはずだ。
競技勢であると思われるプレイヤーのTwitterを見ても、大量にパックを箱買いしている投稿は数多く見られる。
 ではなぜ、こういったプレイヤー層が細客扱いされるのか。――私が思うに、『結局、何もしなくても買ってくれるから』ではないだろうか。

遊戯王公式の発信内容



最近こう言うのが多い。もっと別の投稿をした方が宣伝になるんじゃなかろうか……。

 遊戯王の公式YouTubeやTwitterの投稿と、他TCG(DM,MTG)のそれを比較してみると、興味深い相違点が見つかる。DMやMTGは『メタゲーム』の話をしているのに対し、遊戯王にはそういった投稿が、本当に『一切』と言っていいレベルで無い。無いと言ったら無い。ガチガチのガチで0である。
 これが序文で述べた『遊戯王が競技的要素を隠している』という指摘に繋がる。積極的に発信しない、というレベルではない。皆無というあたりに意図的な隠蔽すら感じられる。競技的なイベントは無い訳ではないが、DMの様に公式からのサポートはつかない。大会の配信でも『このデッキが何割、このデッキは何割――』といった説明はなく、『これが多い』程度に留められていた。遊戯王のメタゲームを把握するなら非公式で競技勢がまとめたデータが必須だ。他TCGではある公式大会のカバレージも、遊戯王には無い。やはり妙である。どうしてここまで遊戯王は徹底しているのか。


元祖TCGのMTGではこう言うのがある。あるか無いかでは大きな差があるから、遊戯王でもやって欲しいものだ

競技勢に背を向けて

 先程私は、公式が何もしなくても競技勢はカードを買ってくれると話した。何もしないというのは『遊戯王の競技的要素を発信しない』という事だ。遊戯王は商売だ。より効果のある売り方をして、より多くの収益を得る必要がある。これを基に考えたとき、彼らにとって発信すべきものはもっと別の、例えば昔遊戯王をやっていた大人が復帰したくなるような動画や、過去の人気テーマに強化が来たことを知らせるツイートではないだろうか。序盤に述べた通り現在の遊戯王は新規ユーザーが呼び込み辛いため、売り上げを増やすならすでに引退しているユーザーを復帰させることが重要になる。
そしてもう一つ。公式が発信しているコンテンツから、遊戯王が持つ重要な要素、公式が売り出そうとしている要素が見出せる。それはズバリーー『TRPG的要素』だ。


TRPG『遊戯王』

 TRPGとは、一種の演劇である。キャラクターになり切ってゲームをプレイする。例えば探偵になり切って怪事件を捜査したり、忍者になり切って任務を遂行したりだ。こういった要素が、遊戯王では特に強い。
 自分のエースモンスターを呼び出すときに、口上を述べた事がないだろうか。『――出でよわが魂、青眼の白龍!』といった具合に、だ。遊戯王公式もそれを理解してか、歴代アニメキャラを演じた声優を呼んで、デュエル形式の朗読劇を披露したりしている。懐かしいキャラクターの声に導かれ、3DCGによって現世に召喚されるモンスターの勇姿には心が躍るはずだ。


Youtube で良いのないか漁ってたらちょうど良いものがあった。まさにこう言う奴である。


 結局の所、遊戯王が25年もしぶとく生き残っている要因、その最たるものがコレだ。遊戯王とはTRPGの亜種の様なものなのだ!と断定するのは少々行き過ぎだとしても、そういった要素が強いことは否めないだろう。そしてこの要素は競技的遊戯王と真っ向から対立する。口上なんて述べようものなら『プレイ早めで』と促され、エースモンスターは出す事すらままならず、やっとの思いで出しても大抵の場合一瞬で除去される。TRPG的遊戯王を楽しむユーザーからしたらその様子はまるで淡々とした作業と処理でしかなく、『何が楽しいの?』と思う事だろう。競技的に遊んでいるユーザーたちが、その『淡々とした作業』にどれほど熱狂していても、だ。
 そんな様子を公式が発信したら、いったいどういったことが起きるか?『なんだ、今の遊戯王ってこんなに「つまらない」んだ』と思われたりはしないだろうか。皆が皆、競技勢ではない。むしろ公式が呼び戻したいユーザー層はまさしくTRPG的遊戯王を愛していた人たちだ。

 ――で、あればこそ。遊戯王公式にとって競技的遊戯王の発信は『大して売り上げに貢献しない』どころか『売り上げを減少させる悪手』ですらあるのではないだろうか。これに気が付いた時、私の中でなにか千年パズルの様なものが完成した気がした。
 
 なるほど、ここまで頑なに、競技的要素を発信しないのも頷ける。

状況は改善するか(結論のようなもの)

 こういった要素があり公式が競技的要素を隠蔽している(と私は考えている)以上、状況の改善は望めないだろう。別チャンネルを作って投稿を、という方法もあるが、その様子がコナミのターゲット層に『漏れ出した』時のリスクを考えれば、決してしないはずだ。むしろここまで競技的要素を忌避しているのに、リミットレギュレーションは3か月に一回更新され続けていることが驚きである。公式にとって競技勢を遊戯王につなぎとめるための策といったところだろうか。幸い、競技的遊戯王は公式のこの姿勢を受けて非公式での情報発信および共有が盛んであり、実のところ公式が何もしなくたって競技的に遊ぶことは全然可能である。CSも開かれているし、公式の競技大会も無い訳ではないのだ。勝ちたいと思う人に必要な環境は、もうすでに整っていると言えるだろう。競技勢の新規加入も、競技界隈(だいたいYPと呼ばれていることが多い)が勝手にやってくれる。他TCGから流れてくることもあるだろう。――こうしたことを考えれば、やはり状況は改善する兆しがない。諦めた方が良いだろうと、私はここに結論付ける。

 

おわりに(マスターデュエルの話)


ここまでウケるとは。

 遊戯王マスターデュエル、通称MDがリリースされて久しい。MDはスマホやPCでプレイできるソシャゲであるためDCG(デジタルカードゲーム)勢やソシャゲ勢から新規ユーザーを確保でき、冒頭で述べたシーアーチャーさんの配信でも氏が述べていた通り、『MDが独自で売り上げを出しつつ紙の遊戯王の宣伝媒体となっている』。そしてMDはずっと述べてきた遊戯王の方針とは違い、競技的性質が強いゲームだ。メタゲームの話は依然としてされないが、ランクマッチの使用率から特定デッキへの規制が入るなどPvPのソシャゲ的な対応を行っている。MD勢とはある程度競技的な趣向の強いプレイヤー層であると言えるのだ。おそらくは、MDから紙を始めたユーザーは少しずつ公認大会などに出始め、いずれはCSの門を叩くことになるだろう。
 MDには『かつて競技的遊戯王をやっていた人間』を復帰させる魔力がある。彼らにとって紙への復帰やCSへの復帰は、資産とモチベが合わされば容易だろう。公式の競技的要素隠蔽により遊戯王の競技勢は絶滅するのではないか、と懸念することもあったが、この様子では状況が変わらない限り消え去ることはないだろうと、ある程度楽観視できそうだと安心したところで、今回の記事の締めとさせて頂く。


引用
シーアーチャーさんの切り抜き

にじさんじの拾い画元
https://youtu.be/XBss6yq3vyE

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