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ビブリオバトル、それは自分と人を映し出す鏡【ビブ人名鑑#17:筧美和子さん】

ビブリオバトル普及委員会で活躍中の方(ビブ人)へのインタビュー企画、「ビブ人名鑑」

今回のゲストは、埼玉県立春日部女子高等学校の国語教諭として、学内でのビブリオバトル実施の推進に携わっている筧美和子さん。

埼玉県立春日部女子高等学校では、入学時、新入生全員がビブリオバトルに取り組むというカリキュラムがあるそう。
導入時から携わってきた筧さんの原動力とは、ご自身が感じたビブリオバトルの魅力とは。

教育の現場で日々活躍される筧さんに、ビブリオバトルの魅力とこれからの夢についてお聞きしました!

筧 美和子(かけひ みわこ)さん
ビブリオバトル普及委員会 普及委員。埼玉県在住。私学高校教員を経て埼玉県立高校の国語科教員となる。 2019年度に埼玉県共助社会づくり課主催の「R40大人のビブリオバトル」凖チャンプ本の紹介者となる。

ー 筧さんは、最近どのようにビブリオバトルと関わっていますか?

勤務先の埼玉県立春日部女子高等学校(以下、春日部女子高)で開催することが多いですね。

校内ではあまりバトルをする時間や機会がないので、タイミングが合えば学外のビブリオバトルイベントにもバトラーとして参加することもあります。

普及委員のFacebookの情報をみて参加したり、知人に誘ってもらって参加することもありますよ。

R40予選会2

ー 筧さんがビブリオバトルと出会ったきっかけを教えてください。

春日部女子高が、埼玉県の学力向上拠点形成事業(確かな学力向上のための実践研究事業)に参加していたんです。
そのプロジェクトの一つとして、2013年に県から導入を勧められたのがビブリオバトルでした。

しかし、その時は校内でだれもビブリオバトルを見たり経験したりした人がいなくて…。

いち早くビブリオバトルに取り組んでいた、県内の文教大学・平正人先生(現普及委員)がゼミ生とご一緒に、春日部女子高に来校くださり、ビブリオバトルを実演して下さったんです。

学内へのビブリオバトル定着に同僚たちと奔走する日々…

ー では、そこから筧さんのビブリオバトルライフが本格的に始まったのですね

そうですね(笑)。
まずは図書委員を中心に、教員も交えて体験し、広めていこうということになりました。

でも、どうせ学内全体に定着させるなら、思い切って1年生の時から全員にバトラーをやってもらおうということになったんですね。

ー 全員!?相当な人数になりますね…

毎年約300人は入学していますので、かなりの人数です。

最初は大変でしたね。
普段の授業の中でどのように時間を捻出するか、全員にゲームをしてもらうために司会進行はどうするのか…現場での課題が山積みでした。

その時に先頭を切って取り組んだのが、当時学内の図書館司書として在籍していた木下通子先生(現普及委員)でした。

ー 当初はどのように普及していったのですか?

まずは、在校生の図書委員の生徒たちにを司会をできるようになってもらいました。
彼女たちを司会として新入生の各グループに配置し、後輩の面倒を見ることで、先輩後輩の交流も目指していたんです。

実際に生徒自身も授業の予定がある中、後輩の授業に参加してもらうことの難しさに気づきました。

ーたしかに…

この辺りは、木下先生をはじめ皆さんで試行錯誤しましたね。
結局色々形を変えながら、担任の先生が自分のクラスの進行を担当する、今のスタイルに落ち着くことになりました。

自分の想いを伝えることは、生きる力を身に着ける武器に

ーお仕事の一環として始まったビブリオバトルですが、筧さんはどのような印象を持たれましたか?

発表のライブ感が特に魅力だと感じました。
よくあるスピーチ大会とも違い、事前に用意した原稿をただ読み上げるのではなく、アドリブを重視した発表スタイルが新鮮に感じました。

特にキャッチコピーには痺れましたね!
「人を通して本を知る、本を通して人を知る」って、本当にそうだなと思いました。

同じ本を紹介する人が二人いても、やはり2通りのビブリオバトルが生まれるし、本の帯で知る以上に、その人のフィルターを通して本のこともその人のことも知れるのは2倍楽しいんです。

心を揺さぶられたことを人に言いたい「告白心理」って誰もが持っているんじゃないかと思うんです。
知ったら言いたくなるし、それが叶う術がビブリオバトルだなと思いました。

ー筧さんは、紹介される本だけでなく「人」そのものに魅力を感じてらっしゃるんですね。

そうかもしれません。
だから、教師をしているのかもしれないですね。

国語は、生徒が将来幸せに生きるために必要な能力の一つだと思うんです。
情報を受け取り、読んで理解し、どう行動するか?は自立して生きてくための必要な力なんです。

それは、ビブリオバトルも同じではないかと思います。

読んだ本を自分の中で噛み砕いて理解し、自分なりの言葉で表現する。
どう伝えようかな?時間内に収まるかな?と発表内容を考える力は、私が国語教育の中で教えたい「生きる力」にもつながっていると思うんです。

しかも、ゲームだから楽しい。

ビブリオバトルを教えてくださった平正人先生も「ゲームですから。勝ち負けではなく、ゲームだから楽しんで」とおっしゃっていましたが、その通りだなと思いました。

ビブリオバトルは埼玉女子高校の「洗礼」の一つ

ー実際に、新入生全員がビブリオバトルをするためにはどんなことを担当されているのですか?

前半でもお話ししましたが、学内で実施するにあたって、新入生へは各担任の先生がビブリオバトルを実施することになったんです。
私は今、新年度の担任が決まった時点で、春休み中に先生対象のビブリオバトルの開催を担当しています。

中にはもちろん国語科以外の先生もいます。
本についての発表は難しそうな印象を持たれがちですが、いざやってみると皆さん「楽しかった」と言ってくれるので、先生たちを巻き込んでよかったなと思います。

教師自身も体験することで、生徒が発表に対して抱えている不安などにも寄り添うことができる気がします。

経験って大切ですね。

学内の教員のためのビブリオバトル(筧さん映っていない)

ー凄いですね! 先生たちの発表本を通じて、先生自身を知るきっかけになりそうですね。

高校ではよく学年ごとに「学年団」を結成します。
ビブリオバトルを春休みに体験することで、その方の人柄やプライベートな部分も知るきっかけになり、教員同士の結束力が高まりました。
コミュニケーションも円滑になった気がします。

そして、発表本を図書館に並べているので、先生と生徒が同じ本を読む機会も増えました。
発表の場だけでなく、その後の読書経験にも有益です。
年齢差のある教員との会話のきっかけも生まれるようになりました。

それから、本校図書館には漫画の蔵書もあるので、教員同士で漫画を勧め合うこともあります。
生徒たちから私が漫画を勧められることがないのは、「先生は漫画なんて読まない」と思われているからかもしれませんね(笑)

ー教育の場は、強制的にビブリオバトルを開催してしまい、本来のゲームの楽しさが伝わりにくいという課題もあるようです。その点、何か工夫などされましたか。

ビブリオバトル導入当初は、発表が嫌で泣いていた生徒もいました。
「普段本を読まないから、なにを伝えたらいいかわからない」と、当日図書室で涙を流す子もいたんです。

そこで入学前の3月に行う新入生向けのガイダンスでも、ビブリオバトルの短い紹介動画を見せるなどの工夫を行いました。
新入生にとってはいわば洗礼ですが、入学後はビブリオバトルを体験するというのが分かっているので、春休み中にしっかり本を読み準備するようになってくれました。

作者と読者の垣根を超えて

ー印象に残っているビブリオバトルはありますか?

観戦した中では、2020年1月行なわれた「第6回全国高等学校ビブリオバトル」の決勝大会に、本校生徒・印南舞さん(当時1年生)が出場した時ですね。私は引率として会場にいたんです。

1年生でビブリオバトル経験もまだ少ないなか、なんと全国チャンプに選ばれたんですよ!

強く伝える力があるのが、彼女の魅力だったと思います。
また、静かに人の心を揺さぶる話ができるので、紹介されると読みたくなるような語りに私も惹かれました。

その大会には、彼女の紹介した本『デフ・ヴォイス』の作者・丸山正樹さんも観戦されていてちょっと話題になりましたね(笑)
予選の県大会後には、丸山さんが春日部女子高にも来てくださって、全国大会前にも激励の色紙も書いてくださったんですよ。

作家さんとのリアルな交流がうまれたので、本人にとっても素敵な体験だったのではないかと思います。

ー自分のバトラー参加したイベントではいかがでしょうか。

一番最初にバトラー体験をした校内での「テンション高めの女性教員のビブリオバトル」ですね。
その時は、当時同僚だった同校司書の木下先生のお誘いでした。

生徒の前で話すのは慣れていましたが、授業より短い5分で生徒たちの反応を見ながら話すのはスリルがあり快感でしたね!

そして、外せないのは、2020年1月の冬に行われた埼玉県庁主催の「R40大人のビブリオバトルin埼玉」の決勝戦です。
面白い本は人に薦めたいので、大勢の前で好きなポイントを紹介できたのはとても楽しかったです。

R40大会決勝戦

ビブリオバトルから広がる世界が人生の糧に

ー筧さんにとってのビブリオバトルとは?

人が誰でももっている「告白心理」を満たしてくれるものだと思います。
伝えたい、共有したいという想いを満たしてくれると同時に、自分の思考力や表現力を磨く場でもあると思うんです。

読んだ内容を整理して、自分なりにどうやって伝えるかを考え、そうやって生まれた発表は、自分自身を映し出す「鏡」なんじゃないかと思います。

生徒たちにとっても、最初はその楽しさを知らなくても、まずは何事も経験することが大事だと思っています。
ビブリオバトルの経験やそこから広がる読書の世界、人との出会いが、大人になってからの新しい扉を開いてくれるきっかけになるといいなと思います。

筧美和子さん予選3

ー筧さんありがとうございました!

ありがとうございました。


「ビブ人名鑑」シリーズでは、ビブリオバトル普及委員会で活躍されている方々のインタビュー記事を不定期に掲載していきます。

どうぞお楽しみに!

お読みいただきありがとうございました。

インタビュー・執筆:角谷舞子
取材日・場所:2021年10月9日(土)Zoomにて

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