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「大学ビブリオバトル・オンライン大会2021」本戦レポート

このnote記事は、2021年12月11日(土)、12日(日)、19日(日)の3日間に分けて開催された「大学ビブリオバトル・オンライン大会2021」の本戦レポートです。
本戦の各準決勝、決勝で紹介された本やゲームの様子をまとめています。

本戦には、様々な大学から予選を通過したビブリオバトラーが、オンラインで究極のおすすめ本を書評し合い、みんなが一番読みたくなった「チャンプ本」を、発表参加者と観覧参加者で選び抜きました。

<大会サイト>

執筆者プロフィール:
花岡猫子(ビブリオバトル普及委員会 普及委員)

大学生の時にビブリオバトルに出会い、2011年に入会。現在は関東地区のビブリオバトル普及委員として、合間や休日にビブリオバトルを楽しんでいる。短文投稿に特化したSNS:Twitterにて、自分が参加したバトルの実況中継をすることを得意としており、今回は普及委員会公式TwitterにおいてBib-1グランプリの実況中継を担当した。現在もビブリオバトルのおかげで積読が増え続けている。

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大学ビブリオバトル・オンライン大会2021は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となった、全国大学ビブリオバトル2021の代替イベントです。全国各地で開催された予選会を勝ち抜いたビブリオバトラーの皆様が、オンラインで究極のおすすめ本を紹介し、「一番読みたくなった本」を、発表参加者と視聴参加者で選び抜きます。

今回は準決勝、決勝を以下のスケジュールで開催いたしました。
準決勝 2021年12月11日(土) 13:00〜17:30・12日(日) 13:00〜17:00
決勝 2021年12月19日(日) 13:30~16:20

それでは、各バトルの紹介本と紹介の様子をお伝えします。
(★がついているものがチャンプ本です)

【準決勝1】
<バトラー・紹介本一覧(発表順)>
1.佐藤佐和子さん(福岡女子短期大学文化教養学科1年)
『蝶々の纏足・風葬の教室』(山田詠美、新潮文庫)
2.大西美優さん(広島大学文学部1年)
『プルーストを読む生活』(柿内正午、エイチアンドエスカンパニー)
3.五幣雛貴さん(四天王寺大学人文社会学部2年)
『人魚の眠る家』(東野圭吾、幻冬舎)
4.船木涼さん(大阪成蹊大学教育学部4年)
『私と踊って』(恩田陸、新潮社)
5.薄健太さん(帝京大学文学部4年)
★『ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上1』(ブラッドレー・ボンド、フィリップ・N・モーゼズ、KADOKAWA)

大学ビブリオバトル・オンライン大会2021の1冊目は山田詠美『蝶々の纏足・風葬の教室』で始まりました。「あの子はきれい、わたしはふつう」そんな女性同士の友情と嫉妬の描き方が魅力。伏線が細かく散りばめられ、読み終わるとちょっと切ない感情になるそう。表題作の他、収録されている中では「こぎつねこん」がおすすめで、是非とも前情報なしで読んでみてほしいとのことです。

2冊目は柿内正午『プルーストを読む生活』。著者は文学者でもなんでもなく、ただある日うっかりマルセル・プルーストの『失われた時を求めて』を10巻全部買ってしまったことから、せっかく買ったのだし読んでみよう、とページを開きます。この時に読みながら日記を書くことにしたため、物語と著者の出来事が絶妙にリンクする瞬間が楽しめるそう。是非とも「プルーストを読む生活」をご堪能あれ。

3冊目は東野圭吾『人魚の眠る家』。映画化もされた1冊です。プールで溺れ、脳死状態になってしまった少女。医者から「脳死にしますか?心臓が止まるまで待ちますか?」と聞かれた家族の決断は…。小説では登場人物全員の心情がわかるため、映画とはまた違う印象を受けたそうです。どちらが先でもおすすめ。

4冊目は恩田陸『私と踊って』。SF・ミステリー・ショートショートなど様々なジャンルの小説19編が収録された短編集。一見繋がりのないお話かと思いきや、登場人物が少しずつリンクしており、読んでいくうちに「あの人だ!」と発見する楽しみがあるそう。黒いUFOの折り紙片手にご紹介いただきました。

5冊目はブラッドレー・ボンド[他]の『ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上1』。「日本人が成長する上で絶対に触れる一大コンテンツ、そう、忍者ですよね!」と熱いコメントで幕を開けたご紹介。家族をニンジャに殺されたことで「全てのニンジャを消す」ことを誓った”ニンジャスレイヤー”の疾走感あふれる物語。キテレツで勘違いも含んだ独特の日本観に滲む現代日本の風刺もよみどころだそう。質問では「ニンジャソウルが宿ってると思う瞬間はありますか?」と聞かれ「ゲームが好きなのですが、プレイするときは必ず忍者要素を入れています。実は、刀や手裏剣が好きなので持っています」というご回答に沸きました。

準決勝1のチャンプ本は薄健太さんにご紹介いただいた ブラッドレー・ボンド[他]『ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上1』でした! おめでとうございます。ニンジャソウルが輝き見事に準決勝1を制しました。

準決勝1

【準決勝2】
<バトラー・紹介本一覧(発表順)>
1:佐々木彰人さん(東洋大学経済学部3年)
『変な家』(雨穴、飛鳥新社)
2:深澤治希さん(東海大学海洋学部1年)
『野良犬の値段』(百田尚樹、幻冬舎)
3:池澤未空さん(茨城女子短期大学表現文化学科1年)
★『幽楽町おばけ駄菓子屋』(蒼月海里、KADOKAWA)
4:上田敬也さん(広島修道大学小学部2年)
『陰翳礼讃』(谷崎潤一郎、パイインターナショナル)
5:示百々花さん(九州女子大学家政学部1年)
『花を見るように君を見る』(ナ・デジュ、かんき出版)

続く準決勝2は1冊目、雨穴『変な家』で始まりました。表紙にもなっている、よ〜く見ると変な間取りの家。展開も陰鬱で本を読みながら汗をかいてしまうほどの怖い本ですが、著者と関係者のやりとりがすっきりと書かれていて読みやすく、伏線回収も気持ちがよかったとのこと。ちなみに「窓がない子供部屋」の部分は読んでいて声が出るほど怖かったそうで……なんだかこの開催報告を書いていても怖くなってきました。

2冊目は百田尚樹『野良犬の値段』。著者が初めて書いた小説であり、誘拐されたホームレスにまつわる人々の思惑を描いた群像劇。 ”人の命”がかかっている中で描かれる、メディア・警察・SNSでのエゴ丸出しの人々の思惑。どす黒い人間模様にモヤモヤしながら読み進めていくと、エピローグの数行でスッ…と消えていく感覚が新鮮だったそう。

3冊目は蒼月海里『幽落町おばけ駄菓子屋』。全17巻のシリーズのうち、第1作目をご紹介いただきました。ひょんなことから幽霊やお化けが暮らす「幽落町」に住むことになった主人公。駄菓子屋に集まる死者の悩みを解決していくうちに、人間としても成長して行きます。暖かい人情物語の背後には日本文学のオマージュが散りばめられ、歴史に根ざした描写も魅力だそう。ちょうどバトラーさんの中に「読んだことがあります!」という方がいらっしゃいました。バトラー同士で盛り上がるのもビブリオバトルの楽しいところです。

4冊目は谷崎潤一郎『陰翳礼讃』。著者は日本における美の極みは厠、すなわちトイレにあると説きます。さてその心とは? この1冊で「美しさ」がどこからきているのか? を知っていくと、美しいものに触れた時の解像度が上がっていきます。『陰翳礼讃』自体は難しい内容もあるそうですが、今回紹介いただいた本(パイインターナショナル版)は美しい写真付きのものなので、より手に取りやすいものだそうです。

5冊目はナ・テジュの詩集『花を見るように君を見る』。韓国ドラマ「ボーイフレンド」で詩が引用されたことをきっかけに手に取ったそうです。収録された中では「惜しまないで」という詩が大好きということで、朗読してくださいました。気恥ずかしいかもしれませんが、大切な人に気持ちを伝えることに躊躇していたりしませんか? 大切にするということは、しまい込むこととはちょっと違うのかもしれません。この本を読めば自分の大切なものを見つける、もしくは誰かに気持ちを伝える、そんな後押しをしてくれるかもしれません。

ホラーから人情物まで並んだ準決勝2、チャンプ本は『幽落町おばけ駄菓子屋』に決まりました。おめでとうございます!

準決勝2

【準決勝3】
<バトラー・紹介本一覧(発表順)>
1:大野真佑果さん(大阪成蹊短期大学調理・製菓学科1年)
『居酒屋ぼったくり』(秋川滝美、アルファポリス)
2:前田喜充さん(鎮西学院大学現代社会学部1年)
『スイッチ 悪意の実験』(瀬谷験、幻冬舎)
3:渡邉咲良さん(郡山女子大学短期大学部専攻科1年)
『あの偉人たちにも黒歴史!? 日本史100人の履歴書』(矢部健太郎、宝島社)
4:植木翔悟さん(千葉大学文学部1年)
『インスマスの影 クトゥルー神話傑作選』(H・P・ラヴクラフト、新潮社)
5:小林捺哉さん(帝京大学教育学部4年)
★『Masato』(岩城けい、集英社)

さて、準決勝3は漫画『居酒屋ぼったくり』で始まりました。名前こそ「ぼったくり」というものの、1歩入れば暖かい雰囲気で箸が進んでいく素敵な居酒屋さんが舞台。お客さんのちょっとしたお悩みも、お酒片手に話せば解決しちゃうかも? 誰かと食べる美味しい料理の大切さを味わえる1冊。出てくるお酒やお料理についても詳細が載っているため、自宅で居酒屋ぼったくりを再現、という楽しみ方も可能。バトルが夕方に差し掛かった頃のため、聞いているだけでお腹が空く5分間でした。

2冊目は打って変わってサスペンスフルな、瀬谷験『スイッチ 悪魔の実験』のご紹介。アルバイト感覚でとある心理コンサルタントの実験に参加した大学生たち。提示された高額な報酬とともに提示された悪辣な条件。「悪意にもランキングがあるのではないか」という問いかけから、人間の業の深さが描かれています。「人間の根底は悪」と感じたからこそ、今後どうやって良く生きるのかを考えたそう。

3冊目は矢部健太郎『あの偉人たちにも黒歴史!? 日本史100人の履歴書』。「歴史を学ぶ」といえば壁を感じるかもしれませんが、仮に歴史上の偉人たちの人生を履歴書に書いてみたら、という発想で書かれた1冊。「え、それも書くの?」と意外なネタ要素まで詰められており、「この人が自分の仕事場にいたら」と想像することもグッと楽しくなります。歴史が苦手だな…と思う人にこそおすすめしたい1冊。

4冊目は「まずこの絵を見てもらえますか」、とバーチャル背景でどーん! と表示された絵で始まりました。紹介されたのはH.P.ラヴクラフト『インスマスの影 クトゥルー神話傑作選』。「恐怖とは未知から来る」を体現した作家・ラヴクラフトによる7編の短編集。圧倒的な力を持つ神々の「恐怖」に対し、逃げ出す人、魅了される人、立ち向かう人…あなたは最後まで見届けられますか?

5冊目は英語で自己紹介をされるところから始まりました。岩城けい『Masato』は、家族とオーストラリアで暮らす日本人の少年:真人が主人公。慣れない英語を使う生活は些細なことでもストレスになり、できないことが山積みな生活に嫌気が差していきます。海外に住んだこともある小林さんは、自分の境遇ともぴったり重なる内容に強い共感を覚えたそうです。

多様な本が紹介された準決勝3において、チャンプ本は岩城けい『Masato』でした! おめでとうございます! 「もっと多くの人にビブリオバトルを知ってほしい、そして楽しんでほしい!」という熱いメッセージに沸いたバトルでした。

準決勝3


【準決勝4】
<バトラー・紹介本一覧(発表順)>
1:堀内八衣乃さん(甲南女子大学文学部3年)
★『百年法』(山田宗樹、KADOKAWA)
2:小川舞桜さん(日本赤十字九州国際看護大学看護学部1年)
『それしかないわけないでしょう』(ヨシタケシンスケ、白泉社)
3:熊倉由貴さん(東京大学文学部4年)
『懲役339年』(伊勢ともか、小学館)
4:川口翔子さん(奈良女子大学生活環境学部2年)
『春や春』(森谷明子、光文社文庫)
5:浅野結羽さん(青山学院大学教育人間科学部4年)
『凍りのくじら』(辻村深月、講談社)

日付が変わって2021年12月12日。準決勝4の1冊目は山田宗樹『百年法』で始まりました。「実は前年度チャンピオンです」と話すバトラーの堀内さん。本の舞台は6発の原子爆弾を打ち込まれて敗戦を迎えた日本。生き延びるために「老化防止ワクチン」が普及し、同時に世代交代を促すため、接種から100年を経過した時点で安楽死を受け入れなければいけない「百年法」という法の整備が進んでいきます。主人公は人々に安楽死を通知する仕事をしていますが、その目を通して見えてくる社会的な不安、政府側の思惑、それぞれの視点で語られる物語は想定外の接続をして進んでゆきます。老化を遅らせる技術が現実になりつつある今、一読してみてはいかがでしょうか?

2冊目はヨシタケシンスケ『それしかないわけないでしょう』。何かを選ぶ時、「それしかない」わけではなく、いろんな選択肢があるのではないか? と考えさせられる絵本。例えば朝ご飯に目玉焼きを食べるとすれば、他に卵料理はないだろうか? と考えてみる。そのうち食べる以外の卵の使用方法まで想像が広がっていきます。もしかすると、未来は「こうだ!」と固まっているものではないのかもしれません。

3冊目は伊勢ともか『懲役339年』、全4巻完結の漫画作品。生まれ変わりが信じられている世界が舞台で、主人公は「前世の罪」で死ぬまで刑務所で過ごさなければいけません。しかし実は前世の罪を決めていく政府機関は不正の温床であり、実情に気がついた主人公はそれを正すために立ち上がります。作品のテーマに「宗教改革」が含まれており、壮大なスケールと精神面に及ぶ重厚な描写に圧倒される1作。表紙からエピローグの最後のコマにまで仕込まれた丁寧な描写をたっぷり楽しんでほしいとのお話でした。

4冊目は森谷明子『春や春』。真夏に開催される俳句甲子園を目指す高校生たちの物語。俳句甲子園とは、5名1チームで行う団体戦で、作成した俳句を発表し、鑑賞後にディスカッションをして審査員にアピールする競技。ほぼ俳句初心者な主人公たちは果たして全国に向けて頑張れるのか? 俳句の表現の面白さや言葉の使い方、大会での緊張感あふれるディベートの様子が迫力満点。読み終わった時、なぜタイトルが『春や春』なのかがわかる爽快さが魅力。なんとこの時バトラーさんの中から「実は私、俳句甲子園に出場したことがあります」という方が! ビブリオバトルをしていると時々「自分が当事者です」というミラクルが起きることがあります。

5冊目は辻村深月『凍りのくじら』。「頭の良さは読書量」と信じ、バイトや飲み会に明け暮れる同級生を下に見がちな大学生の理帆子。そんな彼女が好きな本はあの名作漫画『ドラえもん』で…。困ったことはひみつ道具ですぐに解決したい、でも、現実でそれは叶わない。誰でも抱える傷つきやすさと弱さを月の光で優しく包み込む1冊。

投票結果は接戦だったのでしょう。『百年法』と『懲役339年』の決選投票に持ち込まれ、チャンプ本は『百年法』に決定! おめでとうございます!

準決勝4


【準決勝5】
<バトラー・紹介本一覧(発表順)>
1:小泉亮汰さん(城西大学現代政策学部2年)
『なぜ僕らは働くのか』(池上彰(監修)・佳奈(著/文)、学研プラス)
2:畑開成さん(大阪成蹊大学経営学部1年)
『112日間のママ』(清水健、小学館)
3:長谷川凛太郎さん(人間環境大学大学院人間環境学研究科1年)
★『六人の嘘つきな大学生』(浅倉秋成、KADOKAWA)
4:打田楓茄さん(皇学館大学文学部3年)
『女が死ぬ』(松田青子、中央公論新社)
5:高森浩志さん(鹿児島大学法文学部3年)
『アメリカン・ブッダ』(柴田勝家、早川書房)

準決勝5の1冊目は池上彰『なぜ僕らは働くのか』。生活の中で「働きたくない」とため息をついたことは一度や二度ではないはず。でもなぜ人は「働きたくない」と考えるのか? いやそもそもどうして人は働くのか? 基本的な問いかけですが、改めて考えることができる本。統計データを見てみると、年収の高さが幸福度にそのままつながっている様子でもありません。例えば職場を選んだ理由が「周りから尊敬されたいから」だけだった場合、その選択は本当に自分のためになるのか? と働くことについて考えるヒントが詰まった1冊。

2冊目は清水健『112日間のママ』。人気キャスターとして活躍する筆者の妻は、ステージ4のガンだと診断されます。多忙な中で病と向き合う生活が綴られてた1冊。バトラーの畑さんは読んでいて「命の重み」を改めて感じ、生き死にはどんな人でもふざけて口にしていいものではないと強く思ったそうです。著者の清水さんのように、辛いことがあっても弱音を吐かずに過ごすことは難しいかもしれませんが、心は強く持っていきたいと感じたそうです。この話を泣かずに落ち着いて話せたいたことが素晴らしいと思います。ちなみに中継しながら筆者は泣いていました。

3冊目は浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』。某人気企業の最終選考に残った六人の大学生。最後のグループディスカッションで「6名のうち、内定者に相応しい人は誰か?」というテーマで会話が始まりますが、テーブルには面接官も知らない封筒が置かれ、中にはそれぞれの「バレたら社会的にやばくなる秘密」が書かれており、それぞれが誰かの秘密を握っているものの、誰が誰の秘密を持っているかはわからない…各自が爆弾級の切り札を持ち、進んでいく選考は思わぬ形で結末を迎えます。しかし、お話はまだまだ序盤。著者の浅倉秋成さんは「伏線の狙撃手」という異名が付くほどの作家さん。細かく散りばめた伏線が数行先でも回収されるため、読む際は先の行を手で隠しながら進めた時もあったそう。本には登場人物の履歴書がついており、一人ひとり筆跡が違う、実在の大学が書かれているなど作りがとても細かく、本編同様に読み応えがあるそうです。

4冊目は松田青子『女が死ぬ』。タイトルを見て「ミステリー小説かな?」と思って手に取ったそうですが、実は53編のお話が詰まった1冊。読みながら「著者の頭の中はどうなっているのか?」と困惑しながらも興味をそそられる奇妙奇天烈フリーダムなお話が満載。特に「ナショナル・アンセム」で国歌を歌わない女の子に国歌が恋するお話…ってそんなのアリ!? と驚いたそう。しかしながら「自分でも何を書いたのかよくわからない」という後書きまでついていたり、発想を拡張する魅力に溢れた1冊。

5冊目は柴田勝家『アメリカン・ブッダ』。著者はとある戦国武将と同じ名前ですが、SF作家として名を馳せる方です。人間を超えたものに救いを見出す表題作「アメリカン・ブッダ」をはじめとした短編集。巻末の参考文献やオマージュ元の作品を含め、「1冊の本を超える」深い幅広さを持ち合わせた作品。ページを捲るたびに読書そのものの快感を味わうことができる1冊。

チャンプ本は『六人の嘘つきな大学生』。嬉し涙でのコメントにもらい泣きをしつつ、筆者も画面の前から拍手を送りました。

準決勝5


【準決勝6】
<バトラー・紹介本一覧(発表順)>
1:笈川瑛飛さん(大東文化大学経営学部2年)
『行かずに死ねるか!―世界9万5000km自転車ひとり旅』(石田ゆうすけ、幻冬舎)
2:内藤那智さん(大阪経済大学経済学部3年)
『金閣寺』(三島由紀夫、新潮社)
3:小西一穂さん(龍谷大学文学部2年)
『ホーキング、宇宙を語る ビッグバンからブラックホールまで』(スティーブン・W・ホーキング、早川書房)
4:齊藤千聖さん(東北学院大学経済学部3年)
『アイアムマイヒーロー!』(鯨井あめ、講談社)
5:積風我さん(筑波大学情報学群2年)
★『今日の空が一番好き、といまだ言えない僕は』(福徳秀介、小学館)

今大会最後の準決勝、1冊目は石田ゆうすけ『行かずに死ねるか!―世界9万5000km自転車ひとり旅』。著者は自転車で7年間の時間をかけ、世界一周をした方です。素直な描写の一つ一つに引き込まれ、読んでいると実際に野生動物やオーロラを見ているような感覚になるそう。世界一周の疑似体験ができるとともに、ノンフィクションだからこそ「自分でもできるかもしれない」と思えてくる。「600万円かかった世界一周が600円で買えて読めてしまうんです」という言葉が印象的でした。

2冊目は……部屋を暗くし、黒いローブを羽織り、フードを被っての朗読から始まりました。紹介されたのは三島由紀夫『金閣寺』、冒頭だけで作品への並々ならぬ熱意が伝わってきます。実際に起きた事件を題材に書かれた作品であり、「絶対なる美」と信じた金閣寺を捉える目線、戦中から戦後へのパラダイムシフトは今を生きる自分達にも響く物語であるといいます。

3冊目はスティーブン・W・ホーキング『ホーキング、宇宙を語る』。原題は”A Brief History Of Time”(時間についての短い歴史)。宇宙とありますが時間についての話がメイン。壮大なスケールの話を読んでいるうちに、絶えず変化する世界の中で生きる自分を見直すことができた。少し難しい話はあるけれど、宇宙について詳しく知らなくても楽しむことができる。

4冊目は鯨井あめ『アイアムマイヒーロー!』。「何もできることがないや」と無力感を感じている大学生の敷石くん。ふとしたきっかけで自分の過去に「赤の他人」としてタイムスリップし、小学生時代の自分と友人たちに出逢います。「俺はヒーローだから、なんでもできる!」と息巻く元気な自分自身を見ながら過去を過ごすうち、「起きるはずがない事件」がタイムスリップの鍵だと気がつきますが…。

そして5冊目は福徳秀介『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』。お笑いコンビ:ジャルジャルの福徳さんが書かれた小説。主人公:小西君は「大学デビュー」を夢見て必死に努力したものの、実際は入学しても全くその通りにならず、友人は1人しかできなかった。そこで「自分は友人がいないのではない、作らないのだ」と妙な方向に強がり始めてしまいます。常に「人から理解されないこと」に対する鬱憤を抱えている彼を笑いながら見ているうちに、オンライン講義を受け続ける自分自身の環境と重ねて読んでいることに気がついたそう。タイトルに込められた想いにも注目。

宇宙や世界といった壮大なスケールから内省を深めていく名作まで、多様な本が揃った準決勝6、チャンプ本は福徳秀介『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』でした。

準決勝6


【決勝戦】
<バトラー(発表順)・紹介本一覧>
1:積風我さん(筑波大学情報学群2年)
『今日の空が一番好き、といまだ言えない僕は』(福徳秀介、小学館)
2:小林捺哉さん(帝京大学教育学部4年)
『本当の夜をさがして:都市の明かりは私たちから何を奪ったのか』(ポール・ボガード、白揚社)
3:池澤未空さん(茨城女子短期大学表現文化学科1年)
『幽落町おばけ駄菓子屋』(蒼月海里、KADOKAWA)
4:薄健太さん(帝京大学文学部4年)
『ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上1』(ブラッドレー・ボンド、フィリップ・N・モーゼズ、KADOKAWA)
5:堀内八衣乃さん(甲南女子大学文学部3年)
『百年法』(山田宗樹、KADOKAWA)
6:長谷川凛太郎さん(人間環境大学大学院人間環境学研究科1年)
★『六人の嘘つきな大学生』(浅倉秋成、KADOKAWA)

さて、決勝戦は紹介本の内容のほか、3名のゲストからの質問も取り上げていきましょう。

■ゲスト一覧(敬称略)
和田浩二/活字文化推進会議事務局 ビブリオバトル担当、読売新聞東京本社
須藤秀紹/ビブリオバトル普及委員会代表 室蘭工業大学しくみ解明系領域 教授
吉田隆之/生駒市図書館南分館 職員(図書館司書)(Bibliobattle of the Year 2021大賞を受賞した「生駒市図書館と生駒ビブリオ倶楽部」より)

1冊目は福徳秀介『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』。主人公は大学デビューを夢見る小西君、しかし入学後は友人が1人もできず、あえて「自分は友達を作らないのだ」と強がって変人になろうとします。そのうち、自分と同様に「友人がいない」女性:桜田さんを見つけて仲良くなり、食事に誘いますが、彼女は8時間も待っても待ち合わせ場所に現れませんでした。その理由は想像を絶するもので…。マイナスな感情で行動する小西くんを笑って読んでいるうちに、彼の孤独感が自分自身と重なるように思えてきたそう。
ゲストの質問時、和田さんからは「積さんの恋愛観は変わりましたか?」と質問が。積さんは「大きく変わったわけではないと思いますが、恋愛についてはとても素敵なものだと感じました。人の暖かさに触れることができるいい本だと思ってます」と回答。物語のエピソードを細かく入れながら的確に自分の感想を詰め込んでくる見事な5分間でした。

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2冊目はポール・ボガード『本当の夜を探して 都会の灯りは私たちから何を奪ったのか』。準決勝とは違う本でのご登場です。人口の明るすぎる光が生態系に影響し、害になる「光害」について言及した1冊。すでに環境省などでも言及され、対応に動き始めていることもあるようです。著者は人口の明るすぎる光から遠く離れ、「本当の夜」を探して旅を始めます。9段階ある光害の尺度に合わせ、明るい「9」から章が始まり、暗い「1」に進んでいく構成など、細かいところもよみどころです。
ゲストの質問は須藤代表から。「文明に対するアンチテーゼのようなものは入っていますか?」というものに対し、小林さんによると「アンチテーゼというわけではないが、必要なところに必要なだけの灯りを点そう。明るすぎるものは消そうという内容です」とのことです。Zoom画面を活かし、実際に部屋の明かりを落として紹介されている様子が印象的でした。 

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3冊目は蒼月海里『幽落町おばけ駄菓子屋』。おばけや幽霊が暮らす「幽落町」を舞台に、死者の悩みを解決してゆく大学生が主人公。「日本文学にハマるきっかけにもなりました」と話されており、各種のオマージュの元ネタ探しも楽しめるそう。今あるもの、今ある風景は永遠じゃない。何より暖かい人との縁の描き方がとても愛おしいと改めて感じる1冊だったそうです。
ゲストの吉田さんからは「その本は何歳の方から楽しめそうですか?」というご質問。池澤さんは「私は中学生の時に読み始めましたが、小さなお子様からお年寄りまで楽しめると思います」というお話が。「人生で壁を感じたらこの本に全て答えがある」と、非常に思い入れのある気持ちが詰まった5分間でした。

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4冊目はブラッドレー・ボンド[他]『ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上1』。主人公は平凡なサラリーマンだった、ニンジャに家族を殺されるまでは…。アメリカ人の作者による、謎のニンジャソウルを宿した男の闘いと復讐の物語。熱く疾走感あるストーリーテリング、1話完結で切り替わるジャンル、勘違いと精密な調査が合わさったサイケデリックな日本観。シャキシャキと情報を詰めながらもするっと聴けてしまう熱い5分間でした。
ゲストの和田さんからは「意外とはっとさせられるエピソードは?」という質問が。薄さんによると「変なニホンが前面に出ているものの、ところどころ日本神話や現代日本に対する風刺が込められているところがあり、はっとする」のだそう。 

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5冊目は山田宗樹『百年法』。寿命を大幅にのばすワクチンが実現し、世代交代のために規定の年月で安楽死をすることになる法律が定められた日本が舞台。施行後初めての100年を迎えた中、主人公は仕事として人々に安楽死を伝えていきますが...。安楽死を行う法律"百年法"の凍結か実行か、法律をめぐる人々の争いはとある人物の演説で幕を下ろします。質問タイムでは須藤代表からの質問「科学とモラルの対立が描かれているのか、それとも思考実験的なのか」に対し、堀内さんは「どちらも、というのが正確かもしれない。国民からも政府からも賛否が出ていることや、専門家のレポートの取り扱いで紛糾する様子などが描かれている」と話されていました。読み終わって快哉を叫んだ驚きと納得の結末を貴方に。    

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最後、大トリを飾ったのは浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』。某有名企業の最終選考にて、思わぬ形で「バレたら社会的にやばくなる秘密」を握り合ってしまった6人の大学生。不本意な形で進んだグループディスカッションは手に汗握る心理戦から衝撃の決着を迎え、1人の内定者が決まります。しかし、これはまだまだ物語の序盤。ここから8年後、入社したものの人間不信になってしまった主人公が、当時の参加者を訪ね歩いて行くところからが本番です。ちなみに登場人物の履歴書が付属し、実際に就活の参考になるほど細かく書かれているそう。
質問タイムは吉田さんから「手に取ったきっかけを」というご質問。長谷川さん曰く「帯に気になる文句があったので」とのこと。なんでも著者の異名は「伏線の狙撃手」。気が付かないほどの小さな伏線を一気に回収する、この手腕と快感を味わうため、一行ずつ手で隠しながら読み進めていったそう。ちなみに読後は就活に前向きになれたそうです。

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休憩を挟み、チャンプ本が発表されます。

大学ビブリオバトル・オンライン大会2021のグランドチャンプ本は、人間環境大学大学院・長谷川凛太郎さんが紹介された浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』でした!おめでとうございます! 長谷川さんには図書カード1万円分の他、豪華副賞が後日郵送で送られます。また、決勝戦に出られた皆さんにも副賞をお送りします。

大会の締めとなる須藤代表の挨拶では「ラジオ調の語り口が冴えていた1冊目、オンラインだからこその演出の2冊目、愛情と風景が浮かぶ3冊目、ニンジャ愛が込められた4冊目、前年度グランドチャンプの風格あった5冊目、切実な就活を切り口に丁寧にまとめた6冊目、どれも面白かったです」というお話がありました。
バトラーとしてご参加いただいた皆様、ゲストとしてご観覧いただいた皆様、そして準決勝や決勝にて、ZoomやYouTubeでご視聴いただいた皆様に改めてお礼申し上げます。
今後も楽しい本や人との出会いがありますように。

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 ※本戦最終日に行った「Bibliobattle of the Year 2021 大賞授賞式」の様子は、下記の記事からご覧いただけます。


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