忘れてはならぬこと(68
「ここなのですね。」
「はい。入って待てば良い。とオオスガ様はおっしゃってましたね。」
「えぇ…。」
私達は中に入った。何もないけれど
とても綺麗な場所だった。
私達は座って待つことにした。
「イヨ様。ここについたらお伝えしなさい。
と、オオスガ様から言われた事がございます。」
「なんでしょうか。」
「オオスガ様はイヨ様の事を大切に
思っておられます。
霊巫女様の身代わりとして、この国の姫として
皇の目が、霊巫女様に行かぬよう
イヨ様が身代わりとならなくてはならぬと…。
オオスガ様はおっしゃりました。
ここについたら
イヨが異国に囚われてしまう事がないよう
他の民に血を分け与えぬよう
霊巫女様のまじないで子を産まぬようにしろ。と…」
チヨは言葉につまり、手を口元におきながら
今にも涙を流しそうだった。
「チヨ。よろしいのですよ。
わたしは子供の頃から、自分の子を産むと
何故か思っていなかったの。
わたしのわけ御霊を神様は必要と
されてないのだと思います。
チヨ。ありがとう。
わたしは覚悟が出来ております。
大丈夫。」
「イヨ様…」
「チヨ。母様が昔ね、お話をしてくださったの。
私達の先人は海を渡ってきた。
それぞれが血を分け合い
民が分かれていった。
けれども、もとは一つの民だった。と…。
母様の好きなお話があったわ。
先人達は、自らの土地を取られてしまい
海を渡り、島々で別れを告げながら
血を繋げあっている。
けれど、皆が自らの土地から逃れたわけじゃなかった。と。
もとの土地に残った者達もいたらしいの。
その人達は、皆がいつか一つとなれるよう
その民の大切にしていた
龍蛇の聖地を守り続けた。
そこから、人は生まれたと信じられた場所があったから。って。
残った者達は、去りゆく人達を思いながら
いつかまた会えるよう願い続けた。
そして、去らなくてはいけなかった者達は
それぞれの場で、別れが永遠ではない事を
信じながら生き続けた。と。
その時に
壺に水と光を
石に意思と願いを
劔に払いと行先を込めた。と…
私達の民は劔を守り続けている。
それは信じる事を忘れぬよう。
自らのうちからの思いを消されぬよう
いつか共にある事を
いつでも思い出せるように。と…
外の力はとても強い。
身体はいくら滅びても
私達の御霊は、その願いを忘れない。
それをいつになっても思い出せるように
守り続けている。って。
チヨ。わたしにはまだ分からないことが
沢山あるわ。
けれど、何かを守らなくてはいけない。
と思っているの。
私達は劔を守り続ける民。
わたしの内側からくる、その声に従うしかない。
わたしはそう思っています。」
そう話し終えると、誰かが扉を開けて
入ってこられた。
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